「あの子もそうだったんじゃぁないのかなぁ。」
祖父は言います。
周りの子にあれこれしている余裕はないと踏んだんじゃないのかなぁ。
祖父のその言葉を聞いて、祖母は黙りました。
浜を走りながら、祖母は娘の様子を一心に見つめていました。息子の事は眼中になかったのでした。
何時しか娘の傍に息子が現れ、ちょんちょんと構いだしたので何をする気なのかと戸惑い、そうかと、
あの本を読んだのだと合点して、どうして妹に、また、今あれを行うのかと、酷く驚いたのでした。
何も今試さなくても、そう思う内にも妹の方は見る見る弱って行くのでした。
母は取るものも取り合えず2人の傍にザバザバと泳ぎ駆けつけます。
ブクブク泡立つ水の中、苦しそうな娘のぐったりした様にカーッと来ると、思わず手が動いてしまったのでした。
母にはどう考えても、兄が妹を虐待しているとしか思えなかったのでした。
兄が妹の急を知るまで潜水していて、海面に出て来て行き成り妹の危機を知ったという事を、母は全く把握していなかったのでした。
夫は兄の言い分を妻に伝えた物かどうかと思案しました。今更妻に言ってみても妻を苦しめるだけと思い、
しかし、このまま妻が息子を誤解したままにしておくのも息子が可哀そう、いや、真実を妻が知らないままでいる事が気の毒だと、
夫は真実を語ることを決意しました。
「さっき、光があの灯篭にぶつかって気絶した話を、お前は知っているんだろう?。」
祖父の言葉に、祖母はええ、娘から聞いたわと答えます。あの子光の事を酷く怒っていて、
何でも素手の女の子に箒で叩きつけたとか、自業自得だとか、天罰だとか、馬鹿な子だって言って、
光が言った冗談にも馬鹿って言って叩くものだから、あの子可哀そうに庭に落ちて踏み石で頭をぶつけたのよ、
それで目の軸がズレてしまって、斜視になってたのよ、一時的なものだろうけれど、可哀そうに。
こんな事初めてだってあの子に言ってやったら流石にしょ気てたわ。と、祖母はうふふと笑います。
「あの子もよく軸をずらしていたわねぇ。」
「闊達だったからね。」