Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、110

2017-03-30 19:00:26 | 日記

 声を聞いて祖父が振り返ると、逆光で顔はよく分かりませんでしたが、入り口に来たのは家の者だなと感じました。

誰だろうとよくよく見ると、何だか見覚えがあるのですが誰だか思い出せません。

親戚の子かなと、入り口に近付いて行ってハッとします。祖父にはその若い男性が誰か朧気に分かるのです。

「お前、光(ひかる)か?」

祖父は亡くなった息子の名を言います。

「何だい父さん、改まって、」

そう言って、その男の人は首を回して周囲の光の加減を眺めてみます。

 「逆光で僕の顔がよく見えなかったのかい?」

嫌だなぁ、父さん、声で分かるだろう。そう快活に男の人は言ってハハハと歯切れよく笑うのでした

祖父はその笑い方も息子の物だと、この若い男性の事を再確認するのでした。そして内心ほっとするのでした。

 『やはり息子だ。光は生きていたんだ。』

私は長い夢を見ていたんだろうか、白昼夢というやつなんだろうな。こんな事初めての経験だと、

これも寄せて来る年波のせいかと、彼は人の一生について感慨深く思いました。

 「ああ、直ぐに誰か分からなかったんだよ。声もよく聞こえなかったんだ。分かったよ、もう帰るから。」

そう祖父は自分の息子に言って、本堂の廊下に顔を向けると、

「では、今日はこの辺でお開きですな。」

と、そこに居た蛍さんの父に言います。

蛍さんの父も、では、また次の機会に話の続きをお願いしますとにこやかに別れの挨拶をしました。

 そこで祖父は孫の光君を呼ぼうとして、彼が今まで座っていた場所に目をやりますが、

そこに光君の姿はありませんでした。

おや、何処へ行ったんだろう、荷物でも取りに行ったのかな。そう思って本堂の奥に向かって、

「光(ひかり)、何処だい、帰るよ」

と、声をかけます。光、光、繰り返し読んでもどこからも返事は返ってきません。

変だな、何時も直ぐに返事をする子なのに、そう思って本堂の奥に孫を探しに行こうとすると、彼の背をトントンと叩いて、

「父さん、誰だい、光って、僕と似た名前のやつがいるのかい。」

そう息子が面白そうに背後から声をかけました。


ダリアの花、109

2017-03-30 18:24:04 | 日記

 「まぁ、呼び名なんかどうでもいいじゃないか。」

見かねた蛍さんの父が2人に言います。

その内なんでも呼び合うようになるだろうし。と、自分と妻の事を思います。

蛍さんの両親はおい、お前、あんた、など適当に呼び合ったまま、過去から今まで進展がありません。

『俺達だってそうなんだから、如何だっていいんじゃないか。』

と父は内心思います。

 「いや、こういうことは最初に決めておかないと後を引きましてね、」

名前を呼べずにおい、おまえ、あなたになってしまうものですから。と、光君の祖父は意見を言います。

「光、学生時代になれば光君という者もきっと現れて来るだろうから、今から慣れて置いてもいいじゃないか。」

向こうさんはお嬢さんなんだから、そう呼んでもらいなさい。名前で呼ばれたいだろう、光は。

呼び方を決めておかないと、将来もおい、お前になってしまうよ。

と注意します。そうだね、それならと光君は、光君でもいいよと祖父の意見を笑顔で承諾しました。

 そこで祖父は蛍さんに、

「家の方には、『ちゃん』と呼ぶ子がいなくてね、光は言いづらいんだよ。君というのと同じように蛍さんでどうだい。」

折れてくれないかなぁと頼んでみます。

蛍さんも向こうのお祖父さんに下手に出られ、丁寧に頼まれるのですから、にこやかにそれでいいですと了解しました。

 『蛍さんか、蛍でいいのに。』

光君は内心むかむかしていましたが、表面はにこやかで笑顔でした。そんな孫のにこにこ顔を見ていて、

祖父はどうやら孫はこの件で胸に一物持ったなと感じます。

蛍さんの方を見ると、一応満足気にほっとした表情を浮かべています。

『家の子の方が折れた形だな、ここは1本貸しだな。』

と、祖父は胸残用をします。後から何かで返してもらおう。フィフティフィフティだなと思います。

 と、ここまで話が来たところで、本堂の入り口に男の人が現れて声をかけました。

「お昼が出来たよ。早く帰って来ないと延びてしまうよ。」