「さっ、蛍、帰るぞ。」
蛍さんを見つけて、抱き上げた父は自分に結んで来た紐を頼りに戻り始めました。
少しずつ紐を手繰り寄せます。
「途中まで送って行くよ。」
源さんが蛍さんの父と並んで歩き出しました。それにと言います。俺その子を苛めてなんかいないからな、誤解だよ。
そう言って、並んで歩きながら事情を説明しました。他にも、父や母、その他兄妹などにも伝えたい事を言付けるのでした。
最初は源さんの言葉に聞かぬ存ぜぬの蛍さんの父でしたが、少しずつ源さんの言葉に耳を傾けて行くのでした。
特に蛍さんの事でのアドバイスには、ハッとして耳に痛い事もあるのでした。新米の父には思う所も多いのでした。
思ったより道のりが長いので、3人は休憩する事にしました。蛍さんは泣き疲れたのかうつらうつらしています。
「あら、今この子の目が開いたわ。」
お寺の奥様がハッとして声に出します。直ぐに住職さんが隣の部屋から飛んで来ました。
如何だい、意識は戻ったかい?そう奥様に息せき切って尋ねます。うーむと奥様はうなります。
開いたと思ったんだけど、…、閉じているね、今はね。何だか住職さんには要領を得ません。
「お前、確りしてくれよ。お前までおかしくなった事には、私は如何すればいいか分からなくなるからね。」
などと言って奥様を労います。その手を取って見つめ合います。と、ぱかり!、2人の取り合った手の間で蛍さんの目が開きました。
「ねえ、今。」「ああ、開いたよね。」
そんな2人の会話の中、蛍さんは目をしばたたいて2人を見上げます。
『なんて間の悪い子なんだ。』
「間の悪い子だね、あんたって子は。」
蛍さんが意識を取り戻して、最初に聞いた奥様の言葉でした。当然蛍さんは困惑して眉間に皺を寄せるのでした。