Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、70

2017-03-06 20:36:08 | 日記

 「さっ、蛍、帰るぞ。」

蛍さんを見つけて、抱き上げた父は自分に結んで来た紐を頼りに戻り始めました。

少しずつ紐を手繰り寄せます。

「途中まで送って行くよ。」

源さんが蛍さんの父と並んで歩き出しました。それにと言います。俺その子を苛めてなんかいないからな、誤解だよ。

そう言って、並んで歩きながら事情を説明しました。他にも、父や母、その他兄妹などにも伝えたい事を言付けるのでした。

 最初は源さんの言葉に聞かぬ存ぜぬの蛍さんの父でしたが、少しずつ源さんの言葉に耳を傾けて行くのでした。

特に蛍さんの事でのアドバイスには、ハッとして耳に痛い事もあるのでした。新米の父には思う所も多いのでした。

思ったより道のりが長いので、3人は休憩する事にしました。蛍さんは泣き疲れたのかうつらうつらしています。

 「あら、今この子の目が開いたわ。」

お寺の奥様がハッとして声に出します。直ぐに住職さんが隣の部屋から飛んで来ました。

如何だい、意識は戻ったかい?そう奥様に息せき切って尋ねます。うーむと奥様はうなります。

開いたと思ったんだけど、…、閉じているね、今はね。何だか住職さんには要領を得ません。

「お前、確りしてくれよ。お前までおかしくなった事には、私は如何すればいいか分からなくなるからね。」

などと言って奥様を労います。その手を取って見つめ合います。と、ぱかり!、2人の取り合った手の間で蛍さんの目が開きました。

 「ねえ、今。」「ああ、開いたよね。」

そんな2人の会話の中、蛍さんは目をしばたたいて2人を見上げます。

『なんて間の悪い子なんだ。』

「間の悪い子だね、あんたって子は。」

蛍さんが意識を取り戻して、最初に聞いた奥様の言葉でした。当然蛍さんは困惑して眉間に皺を寄せるのでした。

 


ダリアの花、69

2017-03-06 20:09:24 | 日記

 やや間があって、源さんは蛍さんに少し事情を話してくれました。

「あのさっきいた男の人ね、茶色い髪で目の緑色をした人だろう。」

うんと蛍さんが言うと、その人はね、と源さん。

家やこの寺とも少し縁あってね、奥さんと幼いお子さんを残して死んだから、

奥さんと子供の事が心配で時々ああ酷く落ち込むんだよ。落ち込む、気落ちする、元気がなくなる。気持ちが暗くなる。分かった?

なるほど、と蛍さんは思います。

「お前を見て残してきたお子さんを思い出したんだよ。奥さんも思い出したのかもな。」

そんな事を訳知り顔で蛍さんに説明するのでした。俺も澄も子供は無いから、親の気持ちは想像するだけだけど、

やっぱり可なり辛いと思うよ。来た方も残った方もつらいよね。しみじみとそんな事を言うのでした。

 「私と同じ年くらいの子供かしら。」

蛍さんは何となくですが、あの男の人の気持ちを察することが出来ました。何故なら、蛍さんは自分がいなくなったならば、

父が泣くだろうことを知っていたからです。

父は何故か、2度ほど蛍さんに、お前がいなくなったら父さんは泣くぞ、と言った事があったからでした。

よく事情が分からなくても、蛍さんには父親の愛情という物を感じるには十分な言葉でした。

それで、何があってもちゃんとこの世にいなくてはいけないと感じる事が出来たのでした。

蛍さんが何回か復活を遂げるのには、こういった理由も大きな原動力になっているのかもしれません。

幼くても蛍さんは、家族愛というものを何となく理解できるのでした。さっきの男性、父、残された子、自分という立場を想像すると、

目には熱い涙が湧いてくるのでした。残されたお子さんは泣いたでしょうね、蛍さんはぽつりと言うのでした。

源さんの傍らで、蛍さんまでがしんみりと涙を落とし始めたのを見て、酷く怒った声が聞こえてきました。

 「あんちゃん、何で蛍を苛めたんだ。」

それは、何と蛍さんの父の言葉でした。お寺の奥様に変わって、今回は蛍さんの父が彼女を迎えに来たのでした。


ダリアの花、68

2017-03-06 19:24:35 | 日記

 男性が蛍さんの絵を眺めている様子と、絵と蛍さんを見比べてにこやかに笑いかけてくる様子で、

彼女には男性の言っている言葉は皆目分かりませんでしたが、どうやら自分の絵を褒めてくれているらしいという事は分かりました。

そうなると蛍さんはほのぼのとした気持ちになり、嬉しくなって、にこにこして、うんと頷きました。

お礼の言葉、ありがとうを言うのでした。

 「ありがとう。」

男の人は蛍さんの言葉を繰り返しました。そして、何か思い当たった事があった素振りで顏を曇らせると、少ししょんぼりして澄さんの所へ戻って行きました。

  何だか沈んでしまった男性を、澄さんが盛んに励ましています。にこやかに笑顔で気持ちを引き立たせています。

が、男性に笑顔は戻りませんでした。さようならと挨拶をすると、うな垂れた儘で元気なく足早に立ち去って行きました。

男性が姿を消してしまうと、澄さんは急に機嫌が悪くなりました。蛍さんに食って掛かるのです。

「あなたが悪いのよ、彼に昔の事を思い出させるから。」

そんな蛍さんには訳の分からない事を言い出すのです。漸く昔の事を忘れてこの世界に馴染んで来たのに、

私が最初に会った頃の彼に戻ってしまったわ。そんな事を言って澄さんまでしょんぼりしてしまいました。

しゃがみ込んで蹲ると、何だか泣いているような感じです。

 やや間があって、澄さんは心配そうに彼女を覗き込んでいる蛍さんに顔を上げて言いました。

「あの人の事ね、私、好きなのよ。」

何だか子供っぽい顔つきになって目を輝かせて言うのです。蛍さんはそうなんだと思いました。

彼女には未だ男女の機微という物は分かりません。言われた事を言われた儘に素直に受け取るだけです。

 素っ気なく無感動な蛍さんに、澄さんはやはり子供に真面な話は出来ないと溜息を吐くのでした。

『兄さんがいてくれたらなぁ。』

この場合の兄さんは源さんの事です。噂をすれば影で、源さんがやって来ました。

屈み込んで元気のない澄さんに何かあったのかと話しかけました。

 事情を聴いてちらりと蛍さんの顔色を見た源さんです。

「子供に何でも言うなよ。」

俺がいるじゃないかと源さんは澄さんを慰めます。今度は俺がこの子を見てるから、

お前向こうへ行ってあいつの事を慰めてきたらどうだいと勧めます。

そうねと澄さんは立ち上がると、さっきの男性が行った方向へと姿を消してゆきました。


ベトナム戦争終結

2017-03-06 11:56:20 | 日記

 丁度海外旅行のパスポートを受け取りに行く途中、車内のラジオニュースで知りました。

嬉しかったですね、長い戦争に終止符が打たれたのですから、半信半疑でしたが、何日か前にも同じニュースがあり、

そちらは誤報でしたから、今回は本当かなと、放送局も当てになるところでしたから。

本当なら、とても良かったと思っていました。そして繰り返し聞くニュースに、本当でとてもよかったと感激しました。

 その後、交付先の窓口で並んでいた時、交付する職員の人達の間にもそんな噂が口に上りはじめました。

仕事中にテレビが有る訳じゃ無く、ラジオも流れていない所です。役所の人も、配布待ちの人も何日か前の誤報の件もあり、

そちらの話と思ったり、新しくてもまた誤報かなという感じで直ぐには信用できないようでした。

中にはそうだという人もちらほらいました。私と同じようにニュースを見たか聞いた人達ですね。

私も、車内で繰り返し放送されたり、アメリカの政府の広報の人のコメントが無ければ確証を持っていませんでしたが、

どちらも繰り返し聞いたので、これは確からしいと確信していました。

 パスポート配布の私の順番が来て、窓口に行くと、窓口の人が何故か私に

「ベトナム戦争終わったんですか?」

と尋ねるので、私の方では、

「ええ、○○○のニュースで今来る時流していました。アメリカの政府の発表もあったし、終わったと言っていました。」

というと、その人は○○○のニュースなら確かだと、後ろを向いて皆に大きな声でベトナム戦争が終わったぞと言っていました。

皆さんとても感動的で嬉しいニュースだったんでしょうね。当時は世界的にも気になる話題、戦争だったものです。