Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、83

2017-03-14 00:42:18 | 日記

 「ここはそんな事がある場所なんですか?」

と、住職さんの奥様は酷く驚いて、未だ信じられないという表情で夫に尋ねます。

「まあ、稀にはね。」

と、奥様の言葉には動じずに住職さんが仰います。へーっと、地方にはいろいろあるんですなぁと、感嘆される奥様。

「如何されるんですか?あんたさんに憑き物が落とせるんだすか?」

と、奥様はやや呆然としてご主人の住職さんに、殆ど憑き物落としは諦めているような口調で尋ねてみます。

「まぁ、やり方は知っているから、やってみるしかないでしょう。」

以外にも、解決方法がありそうな住職さんのこの返事に、再びえーっと驚く奥様でした。

 そんな方法があるんだすか、ちっとも知りませんでしたなぁ、家の寺はそんな事した事ありまへんなぁ。

父や兄からも聞いた事がおまへん。と、ホーっと意外な展開に恐れ入ったという感じで、住職さんの顔をつくづくと眺めるのでした。

 何となく、夫の住職さんは誇らしげな微笑を浮かべます。ここぞとばかりにドンと胸を張って、

「まぁ、ここは私に任せて、あんたさんも少し手伝ってくださいね。」

と仰ります。奥様は驚いて、私も手伝うんですか?私にできるでしょうか?

と、本当に意外な展開が続くので、心底酷く面食らっておられます。驚く奥様に住職さんは続けて仰います。

 「奥の部屋から、掛け軸の前のガラスケースに入っている大きな数珠を持って来ておくれ。」

ああ、あの数珠ですか、お飾りだとばかり思っていましたが。そう奥様が仰ると、住職さんは、

「実はあれはこの時の為だけにある数珠でね、古いけれどこの寺の家宝の数珠なんだよ。」

こんな場合はあれが無くては始まらないんだ、持って来たらやり方を教えるからね、と奥様に指示されるのでした。

 このやり取りの間、廊下で2人と一緒だった蛍さんは全くかやの外、酷く寂しい思いをしているのでした。

何だかしみじみと寂しさが胸に沁みて来ます。盆というのに体の中を、深まる秋の隙間風が吹き過ぎて行くようです。

胸のあたりが妙にスースーします。

 実際に蛍さんの体は、振り返った奥様が目を凝らして見てみても、もう半分ほどが透けて見え無くなって来ていました。

事は急を要します。しかし、廊下の蛍さんに構っているよりも、座敷の蛍さんの憑き物落としが先決と、

奥様は掛け軸の間に急ぎます。

 「邪魔よ。」と、廊下の蛍さんを通り抜けてばたばたと、慌てふためいて目的の数珠を取りに急ぎます。

つんぼ桟敷の上邪魔者扱いされて、蛍さんは到頭、芯から透明に近い状態になってしまいました。

この時の蛍さんを見る事が出来たのはこのお寺の中では唯一人、住職さんを置いては他に誰も見る事は出来無いのでした。