何時もならそうだねと相槌を打って、祖父もにこやかに彼女に同意の表情を返してくれるのですが、
やはり今日は何か変だと蛍さんは思いました。
蛍さんの目の前を横切って、祖父と父は2人で静かに奥の部屋へと入って行きました。
「お前、如何いうつもりなんだい。」
珍しく蛍さんの祖母が父を叱る声が聞こえます。
ほんとですよ、何でそんな事、奥様に言われたんです。と、これはどうやら住職さんの奥様の声のようでした。
あれれと蛍さんは思います。どうも皆が父の事を非難しているのです。蛍さんには意外な展開でした。
これは如何いう事なのだろう?。事情を知らない蛍さんは吃驚仰天してしまいました。
『えー、今回は父の方が叱られているの?』
母じゃなくて?。そんな思いも掛けない場面の展開に、何が起きたのかと興味津々になってしまう蛍さんでした。
皆が談合している部屋の隣で、安静に寝ていた彼女でしたが、大人の話が気になってしまい、
集中して耳を聳てるとまんじりともしません。遂に起き上がって、蛍さんは隣の部屋へとちょこちょこ入って行きました。
部屋で直ぐ目に入ったのは祖母でした。それで彼女は声をかけました。
「お祖母ちゃん、お祖母ちゃん。」
が、祖母は彼女の声に全く動じる気配がありません。
蛍さんは祖母の傍によると、そっと祖母の耳に、何があったのと話しかけてみます。
祖母の方は、何だか妙に深刻な顔つきをしています。今話している住職さんを見ています。
そして、一時蛍さんの方を向きましたが、そう真面に彼女の顔を見るでもなく、何か言ってくれる訳でも無く、
また住職さんの方に顔を向けると、その話に集中している様子です。
蛍さんは次に部屋にいる父を見ました。父は部屋の入口近くで立っています。
部屋の中の雰囲気だと、皆は住職さんと父を交互に見ているようです。如何も父は皆の注目の的のようでした。
そして父が皆の話題の主らしい、そう蛍さんは気付きました。
「では、お父さんの言い分を聞いてみましょう。」