Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、78

2017-03-09 21:57:29 | 日記

 何時もならそうだねと相槌を打って、祖父もにこやかに彼女に同意の表情を返してくれるのですが、

やはり今日は何か変だと蛍さんは思いました。

蛍さんの目の前を横切って、祖父と父は2人で静かに奥の部屋へと入って行きました。

 「お前、如何いうつもりなんだい。」

珍しく蛍さんの祖母が父を叱る声が聞こえます。

ほんとですよ、何でそんな事、奥様に言われたんです。と、これはどうやら住職さんの奥様の声のようでした。

あれれと蛍さんは思います。どうも皆が父の事を非難しているのです。蛍さんには意外な展開でした。

 これは如何いう事なのだろう?。事情を知らない蛍さんは吃驚仰天してしまいました。

『えー、今回は父の方が叱られているの?』

母じゃなくて?。そんな思いも掛けない場面の展開に、何が起きたのかと興味津々になってしまう蛍さんでした。

 皆が談合している部屋の隣で、安静に寝ていた彼女でしたが、大人の話が気になってしまい、

集中して耳を聳てるとまんじりともしません。遂に起き上がって、蛍さんは隣の部屋へとちょこちょこ入って行きました。

 部屋で直ぐ目に入ったのは祖母でした。それで彼女は声をかけました。

「お祖母ちゃん、お祖母ちゃん。」

が、祖母は彼女の声に全く動じる気配がありません。

蛍さんは祖母の傍によると、そっと祖母の耳に、何があったのと話しかけてみます。

祖母の方は、何だか妙に深刻な顔つきをしています。今話している住職さんを見ています。

そして、一時蛍さんの方を向きましたが、そう真面に彼女の顔を見るでもなく、何か言ってくれる訳でも無く、

また住職さんの方に顔を向けると、その話に集中している様子です。

蛍さんは次に部屋にいる父を見ました。父は部屋の入口近くで立っています。

部屋の中の雰囲気だと、皆は住職さんと父を交互に見ているようです。如何も父は皆の注目の的のようでした。

そして父が皆の話題の主らしい、そう蛍さんは気付きました。

「では、お父さんの言い分を聞いてみましょう。」


ダリアの花、77

2017-03-09 21:40:38 | 日記

 夫の方は交代の話じゃなくて、ちょっと別に話したい事があってな、と、本堂の方へ行こうと妻を誘います。

妻の方は蛍さんの方をちらりと見ると、何やら微笑んでにこにこと夫の後に従いました。

 本堂の入り口で、夫はひそひそと妻に話を始めました。と、にこにこしていた妻の顔が急に険しくなると、バチン!

頬を殴る音が蛍さんの耳元まで聞こえました。蛍さんはまたお寺の奥様が誰かを殴ったのだろう、

誰が殴られたのかしらなどと思いながら、特に目を開けてみるという事もせずに静かに頭を冷やして寝ていました。

 急にどすどすと畳が揺れたので、蛍さんは何事かと目を開くと、むすっとした怒ったような母の目と合いました。

母は蛍さんに、ああ、そうね、あんたは私の子じゃないんだわ。と言うと、そのまま襖の陰に消えて行きました。

母は元の座敷に戻ったのです。そして隣の部屋から、母の大きな声が聞こえてきました。

「お父さん、私、実家に帰らせてもらいます。」

蛍さんはまたかと思いました。また母は何かで機嫌を損ねて、言いたい放題を言い始めたらしいと合点します。

 『今度は何があったのかしらね、また母の出て行きますが始まったのか。』

と思いました。傍らにいるはずの父を探すと、父の方は蛍さんの傍にはいなくて、

両親が本堂まで行って話をしていた事に気付いていなかった彼女は、父は何処へ行ったんだろう、

母を止めに行かなくてよいのかしらと、きょろきょろ部屋の中を眺めまわして探してみるのでした。

 何時もなら、何かしら祖父母との間で機嫌を損ね、実家に戻ると言う母を、父がまあまあと祖父母に取り成したりして、

次には母のご機嫌を取って気持ちを落ち着かせたりするのです。

今日も父がその役回りを演じるのだろうと蛍さんは思っていました。

母がこう言うとすぐに飛んでくる父が、なぜか今日は姿を見せません。声も聞こえません。

変ねと彼女が思っていると、ぱたぱたと畳に軽い振動が走り、急に隣の部屋から祖父が走り出して行くのが見えました。

 何でしょう?本当に何時もと違う、祖父の方が母から逃げ出していくなんて。

蛍さんは今日は妙な事ばかり目にする日だと、尽く々々奇妙に思うのでした。

祖父が今通り過ぎて行ったと思っていると、何やら話し声が本堂から聞こえ、

父と祖父が連れだって本堂から続いている廊下を帰って来ました。蛍さんが父の姿を見て、

「お父さん、お母さんまた里に帰ると騒いでいるから、早く止めに行った方がいいよ。」

 と声をかけます。

「又お母さん癇癪を起こしたんだよ。他所のお家でみっともない。」

困ったね。蛍さんはそう付け加える事で、隣の部屋にいる母に聞こえよがしに嫌味を言ったりしました。

父は娘の何時もの元気な言葉にフフフと笑いました。

が、祖父の方は孫の顔をきっと睨んで、何時になく機嫌の悪い様子です。

 


ダリアの花、76

2017-03-09 14:18:39 | 日記

 父の顔を、横になっている蛍さんは見上げます。何だか何時もと表情が違って見えます。

先ず顔色が赤黒い顔色に見えます。目も何時もの優しい眼差しではなく、カッと見開かれたようで少し血走っています。

「お父さん、何だか顔が変だよ。」

蛍さんは妙に思ったので何時もと違う父の様子を口に出して言ってみました。

「そんな事無いぞ。」

と父は言います。何時ものお父さんだ。ほらな、と父は笑って見せます。笑った顔で何時ものお父さんらしくなったので、

蛍さんはそうだねと一緒に微笑みます。そのまま蛍さんは目を閉じてゆっくりと休んでいました。

 付き添った父の方は、目を閉じて横たわる娘の顔を見ていると、所在無さに先程の源さんの言葉が甦って来ます。

『お前の子じゃないからな。』

そうなんだろうか?本当は如何なんだろう。父は何だか亡くなった兄の言った言葉が妙に気になって仕様が無いのでした。

蛍さんの小さな手を取ってその柔らかく細い指を眺めてみます。自分の硬い大きな手の指と見比べてみます。

何時もは親子だなぁ、5本の指の長さの具合や形がそっくりだ、と愛し気に見つめたものでした。

事実、2人の指の形は大小の違いはあっても本当に相似形の様にそっくりなのでした。

顔はよく母親似だと言われるので、父である自分とは似ていませんでしたが、目元など父親似だねという人もあり、

鏡を覗いて見比べると、自分でも2人はよく似た目をしていると我ながら嬉しく思ったものでした。

 それが、自分の子ではないとしたら、一体この子は誰の子だと言うのだろう?

父は行き成り解けない難問を胸元に突き付けられたようで、全く出口が分からないという迷路の中に迷い込んだようでした。

今の様にDNA鑑定など無かった時代です。当事者に聞くよりほかに手立てはありませんでした。

 『やはり1度きちんと確認した方がよいかな。』

そんな事を父は思います。思い立ったが吉日と言うではないか、と、早速隣の部屋の妻を呼びます。

襖の開いているところへ行くと、おいおいと妻を呼びました。

妻の方は、何ですかと、まだ落ち着いてい無いんですから代われませんよと、

むすっとした感じで不承不承に立ち上がると、襖の夫の所迄やって来ました。


ダリアの花、75

2017-03-09 10:45:18 | 日記

 「あぁ、まぁ、その辺りにいると言うのは分かります。」

母の返事も何だか他人行儀な物言いです。心配したり動揺しているような声音でもありません。

この余りな母の無関心な様相に、お寺の奥様もムッとしたようでした。

「あんたさん、如何いうお積りなんです。」

自分の子を人様に預けて、一体その態度は何です。カッと来た奥様が声を荒げて立ち上がろうとしたその時、

襖の陰から蛍さんの父が血相を変えて跳び出して来ました。蛍さんと奥様の方を無言で見て、自分の妻の側へ行くと、

「お前、お寺の奥様に失礼があってはいけないよ。直ぐに子供の面倒を見るのを代わりなさい。母親なんだから。」

そう言って、今度はお寺の奥様の方に顔を向けると、

「いや、家内が失礼しました。今代わらせますから。」と、照れ笑いなど浮かべて妻の非礼を詫びるのでした。

奥様の方も、ご主人にそう言われたのでやや留飲を下げると、

「そうですか、当たり前の事が出来ないような人では人の母とは言えませんな。」と、一言だけ苦言を呈するのでした。

 と、蛍さんの母は急にしくしくと泣き出しました。

皆で私の事を責めて、酷い母だというんです。何時も、何時もこんな事になるんだわ。とべそを掻き始めました。

蛍さんの父は、そんな妻に慌ててせっせと言葉を掛けます。

「そんな事無いぞ、おわだって、いい父でもないんだ。」

それなりに一生懸命やっているんだから、お前も出来るだけでいいんだからな、出来るだけで。等と言うと、

しきりに妻の手を取って慰めるのでした。そして父は、奥様の方に不安げな、救いを求めるような視線を送るのでした。

 そんなこちらの座敷の様子に、蛍さんの祖父がさっと奥座敷から現れると、父に何か小声で耳打ちし、

母には、まぁ、あんたさんもいろいろと大変だろうがね、少しずつ慣れてもらわないとこちらも困るからね。

とだけ言うと、嫁ににこやかな笑顔を向け、お寺の奥様にも申し訳ない事で、

今息子がよいようにしますからと愛想よく笑顔で声かけすると、また元の座敷に戻って行きました。

 父は相変わらず涙に暮れる妻を小声で慰め、お前が落ち着いたら代ろうと言うと、蛍さん達の所へやって来ました。

「妻があんな調子なので、私がこの子の看病を代わります。」と申し出ました。

奥様の方は呆れて、ああこんな調子なので何時も女の子なのに父親が見ているのかと、半ば納得して、

「それでは、お父さんのご随意にどうぞ。」

ややぷんとして言葉を発すると、やれやれという感じで、ではここはこれでと、

踏ん切りよくさっと立ってすたすたと台所の方へと消えてゆかれるのでした。