静かになった境内の1室、住職さんの声が響きます。
「では皆さん、これから除霊を行います。」
部屋に集った一同は皆一様に緊張します。2、3人残った親戚と子供達は後ろの方へ。
伯父夫婦は丁度真ん中の位置、中心から庭に面した方向に向かって並んで座ります。伯母は渋い顔をして庭の方を向き、
うつむき加減で夫の顔を見るのも遠慮がちです。夫に声をかけられると微笑んで夫を見上げますが、苦笑としか見えない笑顔です。
夫の方は大変興に乗った様子です。朗らかに胸をわくわくと躍らせている事が、闊達な声の調子で誰の目にも明らかなのでした。
そんな息子の様子を尻目に、蛍さんの祖父は前の方で、玄関側の位置に腰を下ろしました。座敷の入り口近くです。
先程より、庭側に座る息子とはやや距離を置いた感じです。
時折しり目に斜め後ろの息子を見てはふかふかと腰を浮かし準備します。いざとなったらその場から、
跳んで逃げ出すタイミングを計り、邪気から機敏に逃げ出す気配です。
前にいる息子の方は如何したかと、父親が目を前方に移すと、これが何時の間にか居なくなっています。
おやと、父は前の襖の開いた場所迄立ち上がって歩いて行ってみると、
そちらの息子の方は次の間を過ぎて廊下に迄出て行ってしまい、様子を見に出て来た父と目と目が合うと、
嫌々をして俺は嫌だからと口にする始末です。
「座敷に居たくないんだ。この前怖かったろ。」と、相当怖気付いている気配です。祖父の方は、
「お前の子の話だと言うのに。そんな調子で、誰の子の話だと思っているんだ。」
と、おいおいと廊下の息子に声をかけて、手を大きく振ってこちらへ来いと招きます。
しかし、全く息子が動じないので、到頭廊下まで息子を迎えに行きました。
父1人では動かせそうもないので、困り果てた彼は座敷にいるもう一人の息子を呼びに戻って来ました。
除霊前なので、父も室内の方の息子は未だ安心だろうと微笑んで語り掛けます。
「おい、あれがな、廊下で怖気付いていてな、動かないんだ、」
お前何とか言ってくれないかと頼みます。
「困ったやつだなぁ。こんな面白いものを。」
この前は、あいつも居たはずなのに、何を怖がっているんだ。変な奴だなぁと、父と共に弟を呼びに行きます。
廊下でドタバタと、3人で揉めている雰囲気です。しかし、やって来た兄のこら!の一声と、確りせんかいの父の声で、
弟の方は不承不承ながらも2人に追い立てられて、座敷に押し戻されるように帰って来ました。
文句を言っても駄目だという感じです。弟は仕方なく無言で座敷の入り口に佇みました。
「あんちゃん(兄さん)、おわ(俺)嫌なんだけど。」
除霊の場所に居たくないんだ、と、諦めきれずに弟は兄に一緒に帰ろうと誘います。が、兄の方は、おまえ何言ってるんだ、
「これがどんなに面白いか、お前だってこの前の時に、可笑しい可笑しいと散々笑い転げていたじゃあないか。」
何を言ってるんだとばかりに弟の誘いに全然のってくれない兄なのでした。