Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、90

2017-03-18 15:41:03 | 日記

「家のなんですね。」

伯母はつい思ったことが口から出てしまいました。あの人にとり憑いたんですか?。

「そうなんだよ、実はね。」と、伯父は神妙な顔になります。

覚悟していたとはいえ、伯母は相当なショックでした。えっと言った切り2の句が継げません。

急に襖の辺りはシーンと静まり返りました。伯父はそ―っと伯母の肩に手を置きながら励まします。まぁ 、すぐに離れたからね、そう心配する程でもなかったよ、と。

  この時伯父の妻が後ろからやって来ました。彼女に気付いた伯父は妻を押し留めます。直ぐに戻って玄関に行くよと身振りで示します。先に行っておくれ、帰るからと。

 「まぁ、そう言う事だから、」

あんたさんも人の良いのは程々にして、親戚の付き合いといってもいい加減にして帰った方がいいよ。

悪い事は言わないから。と、伯父はそれ以上は言わず、妻の後を追って玄関へ行こうとしました。

「あの、それで、憑かれた後は奇麗に落ちたんですか。また次は誰か他の人に移ったとか?」

ああ、と伯父はこの問い掛けに、伯母の所にまた戻ってきて、真顔になると、次はあの子、蛍ちゃんだがね、あの子の父親に移ってね、その後は漸く収まったよ。

まぁ、最後には奇麗に落ちる物だ。それまでの辛抱だよ。そう言って、何を思ったのか急に、

「かっはっはっはっは」

と天井に向かって、腹の底から声を振り絞るような大きな高笑いをすると、縁起!縁起!、威勢よく笑えばいいんだよ。

笑う門には福来る。私は前回これで霊を遠ざけていたから、お前さんもこの調子で乗り切りなさいと、

伯父特有の霊を防ぐコツを伝授するのでした。

 夫の可笑しそうな笑い声に、玄関で待っていた彼の妻は座敷の方へ飛んで戻って来ました。

「あなた、やっぱり面白い事がおありなんでしょう、私に隠して。」

とにこやかに襖の前の2人に話しかけて、振り返った夫の酷く緊張した面持ちに、差し迫った事態の急を感じるのでした。

伯父と伯母達は行くか戻るか、引き留める者、行きたがる者、何方へとあれこれ、少々やり取りをしていましたが、最後には伯父の一言で話は終わりました。

あんたさんといっても、これ以上は付き合えないから、と。

 「さあ、もう行こう、始まる前に。」

お寺さんも座敷に戻っているし、早くこの場を離れて寺の外に出よう。そう妻を急き立てて、伯父夫婦は玄関へと急ぎます。

丁度折よくタクシーも数台到着し、バタバタと手際よく分乗すると、さーっとばかりに車は走り去りました。

お寺はまた元の静けさを取り戻したのでした。


ダリアの花、89

2017-03-18 14:48:59 | 日記

 さて、住職さんが奥様と細かな打ち合わせをして戻ってみると、

座敷には蛍さん一家以外では、伯父一家とあと2、3人の親戚が残るのみとなっていました。

本当は蛍さん一家と伯父の一家だけになるところでしたが、伯母が襖の向こうで面白いと吹聴したおかげで、

後から戻って来た者が2、3人いたのでした。何となく怖い物見たさで武者震いなどして、後ろで控えて微笑んでいます。

 トイレに行った伯母が戻って来ると、襖の前に先程帰った伯父が待っていました。にっこりと微笑んで、

「ははは、いや、あんたさんね、家のに何でも吹き込んでもらっては困るねぇ。」

と、穏やかに話しを始めます。伯母の方はあら、それは申し訳の無い事でと神妙に答えます。

「あれはほら、お嬢さん育ちでしょう、疑うという事を知らない人だから、人に言われた事は皆本当と思ってしまうだろう。」

まぁ、そうなんですか、それはそれは。と伯母。家のが面白いと酷く笑って言うものですから、これはそうなのかと思いまして。

「あれが、そうか。」と、伯父は酷く渋い顔になります。うーむと、困ったねと言ったっ切り、伯父は言い淀んでいます。

 「如何かされましたか?あなた様も家のとは違って見られた事が無いのでしょう。面白いそうですよ。」

伯母は微笑んで伯父に言います。

「…、」

無言で如何しようかと迷っていた伯父は、やはり言った方がよいかとここで口を開けるのでした。

 「如何しようかと迷っていたんだがねぇ、言った方がいいかとも思ってね。」

実はと、前回の除霊の時には自分も居てね、さっきも座敷で自分は言っただろう、あんたさんにも聞こえていたと思うんだがなぁ、

「一旦除霊された霊が別の人間に憑りついてね。」

まぁ、誰に?と、真剣身を帯びた声で伯母。誰というか、うーん。と再び言い淀む伯父。

「そこまでお言いになったんですから、言ってください。ズバッと。」

ズバッと言っていただいて結構です、別に驚きませんから。と、何だかきつい事い方に変わった伯母に、

伯父は元気なく目を伏せて、しかし内心の可笑しさを抑えながら、

「いや、その言い様ならあなたも多分わかっていると思うが、」

伯父の様子とこの言葉に、ここ迄来たら伯母にも分かります。今までのもしかしたらの彼女の思いが確信に変わったのです。