「家のなんですね。」
伯母はつい思ったことが口から出てしまいました。あの人にとり憑いたんですか?。
「そうなんだよ、実はね。」と、伯父は神妙な顔になります。
覚悟していたとはいえ、伯母は相当なショックでした。えっと言った切り2の句が継げません。
急に襖の辺りはシーンと静まり返りました。伯父はそ―っと伯母の肩に手を置きながら励まします。まぁ 、すぐに離れたからね、そう心配する程でもなかったよ、と。
この時伯父の妻が後ろからやって来ました。彼女に気付いた伯父は妻を押し留めます。直ぐに戻って玄関に行くよと身振りで示します。先に行っておくれ、帰るからと。
「まぁ、そう言う事だから、」
あんたさんも人の良いのは程々にして、親戚の付き合いといってもいい加減にして帰った方がいいよ。
悪い事は言わないから。と、伯父はそれ以上は言わず、妻の後を追って玄関へ行こうとしました。
「あの、それで、憑かれた後は奇麗に落ちたんですか。また次は誰か他の人に移ったとか?」
ああ、と伯父はこの問い掛けに、伯母の所にまた戻ってきて、真顔になると、次はあの子、蛍ちゃんだがね、あの子の父親に移ってね、その後は漸く収まったよ。
まぁ、最後には奇麗に落ちる物だ。それまでの辛抱だよ。そう言って、何を思ったのか急に、
「かっはっはっはっは」
と天井に向かって、腹の底から声を振り絞るような大きな高笑いをすると、縁起!縁起!、威勢よく笑えばいいんだよ。
笑う門には福来る。私は前回これで霊を遠ざけていたから、お前さんもこの調子で乗り切りなさいと、
伯父特有の霊を防ぐコツを伝授するのでした。
夫の可笑しそうな笑い声に、玄関で待っていた彼の妻は座敷の方へ飛んで戻って来ました。
「あなた、やっぱり面白い事がおありなんでしょう、私に隠して。」
とにこやかに襖の前の2人に話しかけて、振り返った夫の酷く緊張した面持ちに、差し迫った事態の急を感じるのでした。
伯父と伯母達は行くか戻るか、引き留める者、行きたがる者、何方へとあれこれ、少々やり取りをしていましたが、最後には伯父の一言で話は終わりました。
あんたさんといっても、これ以上は付き合えないから、と。
「さあ、もう行こう、始まる前に。」
お寺さんも座敷に戻っているし、早くこの場を離れて寺の外に出よう。そう妻を急き立てて、伯父夫婦は玄関へと急ぎます。
丁度折よくタクシーも数台到着し、バタバタと手際よく分乗すると、さーっとばかりに車は走り去りました。
お寺はまた元の静けさを取り戻したのでした。