蛍さんの父は真実が知りたいと真顔で主張します。
母の方は、そんな事、どうして私に分るんです。と言い返します。
父の方は事実はどうあれ、兎に角正直に言ってくれと言います。
その言葉に母の方は、身に覚えが無いのか、と責めるようにきつく言い返します。
奥さん、その言い方は、と住職さん。結婚していない男女間の言葉で、今お2人は結婚しておられるのですから、
この場合適切ではないですなぁと、苦笑いされます。
祖父は何とも言えず黙りこくっています。息子夫婦2人に言う言葉が見つからない様子です。
祖母はというと、全く聞くに堪えないという様子です。
2人ともいい加減にしなさい。子供の前で何です、他の部屋で2人で話して来たらどうなんだい、と不機嫌です。
親戚の手前も、いかにも極まりが悪く酷く恥ずかしい思いをして居るので、頬は紅潮して唇を尖らせています。
そしてそんな祖母の胸には、確りと手を握られて、孫の蛍さんが抱きかかえられています。
祖母に抱っこされた孫娘は、にこやかに得意げで満足し、ふっくらとしたほっぺに満面の笑みを浮かべています。
お祖母ちゃん、お祖母ちゃん大好きと、きゃっきゃと嬉しそうに歓声を上げています。
大層甘えっ子の様相を呈しています。
他の親戚も、そんな蛍さんに目を細めて可愛いねぇと、この頃が可愛い盛りねとか、蛍ちゃんお祖母ちゃん子だからねぇ、
等、祖母に盛んに愛想を言っては、ちやほやとおべっかを使っています。
蛍さんはお祖母ちゃん、お祖母ちゃん、私だけがお祖母ちゃんの可愛い子なのよね、
お祖母ちゃん、私だけを可愛がってね。と、祖母に嫌にベタベタ絡みついています。
その蛍さんの度が過ぎる甘え具合に、住職さんは不穏な気配を感じ取ったのでした。
急に立ち上がると、急いで廊下に戻り、険しい顔で奥様に囁きます。
「成仏じゃなくて、憑依ね。」
えっと奥様。住職さんについて部屋の様子を覗きに行きました。
廊下から2人で部屋の中の様子を眺め、おねだり、甘え、歓喜に騒ぐ幼子の盛んな様子を眺めます。
そして2人は酷く困った表情になり、如何しようと廊下で手を取り合うのでした。