Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、57

2017-02-26 17:07:42 | 日記

 「おーい、蛍。」

にこやかな明るい声、それは蛍さんを呼ぶ彼女の父の声でした。

蛍さんは声のした方を見てみますが、父の姿は全く見えません。声はすれども姿は見えず。

声がしたのは廊下の入り口の付近でした。が、入り口を見ても彼女の目に映るのは戸口だけ、父どころか人の姿形も見えません。

「おいおい、蛍。」父の声はさっきより大きくて間近になって来ました。しかし、やはり声のする方には誰も見えません。

蛍、蛍、おいおい、見えないのかい?父の声に、蛍さんは如何も父が見えないという自分の方がおかしいのだろうと感じます。

これだけ間近に父の声が聞こえるのに、いくら頭を振り回して声の付近を探しても、そこに父は全然見えないのです。

 「うん、お父さん何処にいるの?」

蛍さんは声は聞こえるけれど、お父さんの姿は全然、何処を探しても見当たらないと答えました。

うーん、ちょっと待てよ、と困った感じで父は言います。お前1度目を閉じて、頭を振り回さないでじーっとして、

少し頭を落ち着けてから、そ―ッと目を開けてごらん。そう父はアドバイスしました。

 蛍さんは父に言われた通りに目を閉じると、じーっと静かに頭を落ち着かせてみます。あれこれ考える事も止めました。

頭の中も、外も、じーっと落ち着かせてみたのでした。

彼女はしばらく目を閉じていると、辺りがしーんとしているだけに、何だか暗い中にいるのが不安になってきました。

もういいかなと、そ―ッと瞼を上に上げてみます。

瞼が上がると、それと一緒に目玉がくらくらします。あれれと蛍さんが声を出すと、

父の声がもう少し目を閉じていなさいと言いました。。蛍さんは目を開けるのを止めてこの声に従います。

 「じーっとしているんだよ、今お父さんが目の上からマッサージしてやるからな。」

そう父の声は優しく言って、蛍さんの両の目の上に、そ―っと手らしい物が触れると、優しく穏やかに撫でてくれるのでした。

 蛍さんはふと、ここはお寺の事、昔話に出てくる狐にでも化かされているんじゃないのかな、と思いました。

それで、

「本当にお父さん?」、狐じゃないよね。などと冗談めいた声で問いかけてみるのでした。

実は本当に蛍さんは半信半疑でした。何しろ父の姿は見えなかったのですから、声だけ父で、実はその姿は…。

そう思うと一刻も早く自分の目で父の姿を確認したいのでした。

 

 

 

 


ダリアの花、56

2017-02-26 14:57:01 | 日記

 蛍さんはぼーっとしながらも、頭の芯はひんやりとして妙にすっきりと目覚めているように感じました。

何故私はこんな寝心地の悪い廊下みたいな硬い所で昼寝なんかしたのかしら、と妙に思いました。

少しは利口な、というよりも、お利口さんな自分らしくないと感じました。

そこで、座り心地の悪い硬い木の床から、居心地の良い畳の縁に移動してほっと一息、

ちょこんと腰をかけて足を床に下ろしました。尚も周囲を見回してみます。ここで彼女は周りをよく観察して見ました。

何度見直してもそこは、彼女が最初に思い付いた、ここはお寺だという考えに変わりはありませんでした。

そして、どうして自分がここにいるのか、どうやってここ迄来たのか、それがまるで思い出せないのです。

彼女は自分で自分の事を自分ながらに不思議に思えて仕様がありませんでした。

 『如何やってここ迄来たのかしら、如何して私は覚えていないのかしら?』

蛍さんには、そんな今の自分の身の置き所が分からないという奇妙な状態の他にも、

今の自分の体が何処か妙でおかしいという、異変がある事にも気付いて来ました。

何だか今までに経験した事が無い不思議な状態なのです。未曽有の状態とでもいうのでしょうか。

 目覚めた直後から今まで、相変わらず頭がぼーっとしているようです。しかし頭の奥は確りシーンと覚めているのです。

自分の体が少し縮んだ様な感じがします。軽くですが、自分の体に何だか圧迫感を感じます。

また、さっきまでちゃんと見えていた目が今はぼんやりとして来ました。

それで、目に映る物がぼやけているなと、彼女が確り目を凝らして近くの物をみると、

見た物はちゃんと綺麗にきちんと見えて来るのでした。しかし、又何を見るともなく漫然と周囲を眺めると、

視界は曇りぼんやりとして来るのでした。

 蛍さんは目を擦ってみたり、頭を振り手で抱えてみたり、自分の周囲を近い所、遠い所とキョロキョロ見回してみたりしました。

その内、頭を振る事が億劫になって来ました。目を開いている事も物憂くなって来ました。

くらくらと、何度目かに周囲がぼやけて見えて来ると、蛍さんはまた眠くなって来たように感じました。

 ここで蛍さんは、自分で自分の事をこれは昼寝が足りないのだと判断しました。

これはあんな硬い床で寝ていたせいなのだと。それで、今度はこの畳の所でもう少し寝ようと考えるのでした。

自分の体をさっきよりは寝心地の良いこの畳の上に今しも横たえようとしたその時、蛍さんは自分を呼ぶ声を聞きました。

 


ダリアの花、55

2017-02-25 15:25:57 | 日記

 歩き出して直ぐに、光君の祖父は彼女に言いました。

「あなたの場所はここですよ、ここから真っすぐにあちらへ向かって歩いて行きなさい。」

私が後ろから大丈夫なように見ていてあげるから、私の場所はもう少し先の場所なのでね、あなたを見送ってから戻りますよ。

そう言ってからにっこり笑うと、女の子の手は小さくてか細い物だね、あの子の手はふっくりしていて骨太だが、

あの子の母も幼い頃はこんな手をしていたんだろうか、女の子の方は細君に任せっきりでね、

私の方は男同士、兄の方ばかりを構っていたものだ。幼い女の子の事は皆目分からなくてねぇ。そんな事を呟くのでした。

 実は光君の祖父には子供が2人有りました。光君の母の上に男の子がいたのでした。その兄は若くして亡くなったのです。

生きていれば光君の伯父として、当家の跡継ぎ然としていた事でしょう。

光君の母も兄の死後、1人娘、跡取り娘として気苦労しなくて済んだのでした。

 「あの子がね、そんな事を気にしていたとは。」

光君の祖父は息子の思いをはっきり聞いた後なので、大きな秘密を胸に抱え込んだ気がするのでした。

そしてその事を、誰かに打ち明けてしまいたい衝動に駆られるのでした。そんな彼は1人の人物を思い浮かべました。

 さて、蛍さんの方は光君の祖父に言われた通り、1人で言われた方向へと足を進めて行きます。

と、ぽっかりと水の中から水面に顔を出した様に、軽い抵抗を顔の皮膚表面に受けたような感じで目を覚ましました。

『何だろう?』

彼女は思いました。天井が見えます。どうやら寝転んでいるようです。何時もの様に昼寝していたのかなと思います。

次に手に障るのは畳ではないので、木、床のようです。あれ?床に寝転んでいるなんて、家にこんなところあったっけ?

未だぼんやりしている頭で考えながら、頭を起こして見てみます。何だか見覚えの無い雰囲気です。

そこで半身を起こし、少し落ち着いて周囲を見回してみます。薄暗くて広々としています。廊下のようです。

広くて長く続く廊下、薄暗い雰囲気からするとお寺にいるようです。

蛍さんは遠足などで大きなお寺に行った事があるのでした。それでこの雰囲気から察する事が出来ました。

 「ここはお寺だわ。」

蛍さんはここが自分の家の菩提寺だとまでは思い当たりませんでしたが、

一般的なお寺の本堂に自分が居るのだという事は把握できました。

そして何度も周囲を見回しながら、何故自分はこのお寺の本堂で昼寝していたのだろうと不思議に思いました。

 

 

 


ダリアの花、54

2017-02-25 15:05:19 | 日記

 住職さんに問いかけられた光君の祖父は、

「ああ、そうでした。あの子はもう念が晴れて彼岸へ旅立ちました。もう此処にはいません。」

と答えます。

「おや、ではお1人成仏されましたね。結構結構。」

住職さんは穏やかな顔になると、片手で合掌して一節お経を唱えるのでした。

 さて、と住職さん。お宅はどういう寄り集まりになったんです。と、今度はまた蛍さん一家に問いかけて来ます。

源と澄には、あなた達がこの2人を此処へ呼んだんでしょう、いけませんね。と、叱責します。

 「いや、僕が呼んだわけじゃないよ。」と、源。

「私でもないわよ。」と澄。

じゃぁ誰が呼んだんですか、ご先祖様が呼ばないのに如何やってその子孫が此処へやって来られると言うんです。

住職さんの言葉に、源と澄は顔を見合わせてみますが、どちらも思い当たる節が無い様子です。

2人で両手を上げてお手上げの格好をすると、さぁねぇと、これは本当に、2人共に心当たりが無いのでした。

 困ったわねぇと住職さん。暫く考え込んでいましたが、此処でこんな事をしていても埒があきません、

皆さん生あるものは来てはいけない所にいるんです。早く元の場所に戻りましょう。と、

蛍さんの父には、私に付いて来なさいと指図すると、そろそろと歩き出す気配です。

 「そちらの方は頼みますよ。ちゃんと元の場所に戻してくださいね。」

光君の祖父に蛍さんの事を託すと、光君の祖父もああ分かりましたよと引き受けました。

返事を聞いて住職さんは後も振り返らずに無言で歩き出しました。

蛍さんの父を従えて霧深い中にでも入るようです、厳かな感じで進み、小さく遠くなって行きました。

 「さて、我々も帰るとしましょうか。」

光君の祖父が言います。じゃあ、お2人ともお元気で、と言うのも変でしょうが、

また来る時までには成仏していてくださいね。とでも言った方がよいのでしょうね。

そう言って笑いながら源と澄に手を振ります。

「あの子が本当にお世話になりました。成仏してくれてホッとしました。良かったです。」

そう言って蛍さんの手を取ると、2人でゆっくり歩き出しました。辺りはすぐに霞か霧のような靄に包まれました。


ダリアの花、53

2017-02-24 22:10:50 | 日記

 「あなた達、どうしてこんな所に寄り集まっているんです。」

そんな男の人の太い声がして、皆一様に、いやぁ、これはこれは、と苦笑いに近い笑顔を浮かべます。

「遂に大御所さんのお出ましですね。」

そんな事を源が言います。澄もそわそわと、悪戯っぽい瞳をして何処かへ行ってしまいたそうです。

急に辺りをうろうろとうろつき始めました。

 「ご先祖様を供養する日なのよ。どうしてこんな所へ来ているんです。」

蛍さんは声の主を振り返って見てみました。なんとそれはこのお寺のご住職さんだったのです。

 『あれ?お寺さんまでこんな所に。』蛍さんの父は、どうやらこれは自分の夢の世界なのではないかと思い始めました。

私は夢を見ているんだな。これは現実世界の夢の中だと思っていたが、夢の中の夢の世界に迷い込んでいるのだ。

そう思ったりします。『まさかお寺さんまで亡くなるなんて…。』一気に4人も現実世界で亡くなるなんて事、

そんな偶然はありっこ無いと思うのでした。それでも彼は聞いてみます。

 「いやぁ、お寺さん、あんたさんまでまさか亡くなったなんて事はないですよね。」

微笑みながら問いかけて来る蛍さんの父に、住職さんは顔をしかめます。

縁起でもない事を言うんですね、未だ分からないの?、この世界は現実にある世界なんですよ。

本来なら生きている人間は此処には来ないんです。そこへあなたが来ているだけです。

あなた達のご兄弟は如何なっているのかと、源と澄に話しかけて事情を聴きます。

住職さんは2人から、蛍さんの父の此処での取り乱した様子を聞くと、殆ど彼への説明は諦めてしまいました。

 「もう、あなたも、いい加減に戻ってきてください。」

住職さんは今度は光君の祖父の方に言います。

「あなたまで、如何して此処で長居しているんです。お孫さんはもう戻っているんでしょう。」

あちらにもこちらにも人が倒れ込んで、今年のお盆はどうなっているんでしょう。

どうもおかしいと思って此処までやって来てみれば、こんなにご先祖様と子孫が寄り集まってワイワイと、

これから何か始めるつもりなんですか。そう言って、光君の祖父には、

あの子はあの子に呼ばれたんでしょう?落ちていた灯篭があの子の供養の物でしたからなぁ。と言います。