千日前通へと急ぎすぎたおかげで高速と一通が複雑によじれて上手く渡れない交差点に迷い込んでしまった。先に西へと進みあみだ池筋から回ればよかったのに。焦りながら迂回してなんとか千日前通へと入ることができた。横に動いてから縦に抜くドリブラーが昔いたことを思い出す。バスにずっと追いかけられているような気がしたのは大正通だった。
いくつも信号を越えて、ピンの場所を頼りにたどり着いたのは、学校の前だった。明かり1つついていない。
(ここじゃない!)
だまされたと思って僕はじたばたしてしまう。
だけど、これはよくないことだった。誤った場所に誘導された時には、慌てて動くべきではない。その地点こそが真実の場所にたどり着くための最初の手がかりになるからだ。
〒
名前もなく〒が独りで立っているのは、そこが街の代表だからなのだとか。(区役所とか学校とか)落ち込む必要はない。そこはその街の中心。お客様の家はそう遠くないということだ。
「アプリ地図の不具合により到着が遅れます」
取り乱しながらメッセージを送る。返事なし。ずっと既読になることもない。聞いていないのか? 自分の頼んだカキフライにあまり興味がないのだろうか。(応えのないメッセージを12月になって何度送ったかわからない)
動揺した僕は一度大通りを渡りすぐ間違いに気づいて元いた場所に戻った。グーグルの地図だけを頼り、なんとか正解らしい場所にたどり着くと、半信半疑の置き配。
「間違った場所に来ているようです。配達は終わりましたか?」
AIとは言え冷たいこと言うね。
(間違ったところにつれてきたのはお前の方だ!)
探り探り苦労してようやくたどり着けたんじゃないか。
配達完了!
三休橋筋ではあちらこちらで人が挟み込まれ動きが取れなくなっていた。この世の終わりのように浮かれた人。鳴り響くクラクション。突然の怒号。振り返る人。スマホの明かりをみつめて魂を取られていく人。
「今日からお店の場所が1ブロック移動しました」
ピンの場所にたどり着く直前になって、詳細の注意書きに気がついた。まさかそんなことがあるのか。慌てて引き返すと人や車に当たらないように注意しながらなんとか正解らしき小さな交差点までたどり着いた。
それにしても……。
道が狭い。車が多い。人が多い。
多すぎる!
人、人、人……。
店を探すにも上手く進めない。
僕は曲がり角で自転車を降りると取り乱しながらキョロキョロとしていた。
「どこ探しとんねん?」
突然、声がした。曲がり角に立っている紳士だった。こんなところで何をしているのだろう。待ち合わせか、あるいは酔いを醒ましながらの立ち話だろうか。
「えーと、あの、今日から場所が変わったとかで……」
「なんちゅうビルや?」
何でも知っているような自信が感じられる。この町の主かもしれない。
「えーとビルじゃなく、心斎橋サンド」
「心斎橋サンド?」
紳士は復唱して一旦言葉を自分の胸の内に持ち帰った。
やっぱり駄目か。(わかるはずない)
「そこや! そこの角や!」
通りを隔てた西側に正解地点はあった。
「ありがとうございます!」
流石は主だ!
感動しながら道を渡る。頭上に巨大な看板が掲げられている。みている人はちゃんとみているのだ。
注文ナンバーを伝えて紙袋を受け取るとブレイスに乗って走り出す。
御堂筋のイルミネーションが輝いている。縦か横か。歩道は人が多すぎるから、とにかく渡ろうか。
「どこ探しとんねん?」
信号を待つ間、まだ紳士の声がハンドルの近くに漂っていた。
(聞いてもいないのに)
ああ、駄目だ
泣ける