眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ありがとうが言える

2022-03-17 02:37:00 | デリバリー・ストーリー
ありがとう言える大人になりたくて涙を呑んだ300

客じゃない見切れば礼も笑みも欠き注文番号聞くだけのこと

ありがとう1つ忘れた駅前をよぎる信号無視の塊

ありがとう聞いて踏み出す階段の4階くらい何も言わない

ありがとう聞けない夜に慣れていくエントランスの自動解錠

確率にそっぽを向いて雨粒が落ちるスマホに300

「ありがとう♪」
胸に響けば大丈夫 自転車今夜空まで飛べる

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空耳と300のリフレイン

2022-03-16 03:01:00 | デリバリー・ストーリー
報われる日など来ようかカルビ丼4.5キロ300

タワマンのエレベーターが動かない今夜の時給300

嫌ならばやめろよバカと人は言う そうかもしれん300

10分と言われて外で20分約束すぎて300

信じるか「ちりも積もれば山となる」300+1円

クエストに1つ足りない24時 眠らぬmが最後の頼み

鳴らぬから帰ると決めた交差点 空耳じゃない300

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勝山にあったクレープ屋さんが好きだ

2022-03-15 22:57:00 | デリバリー・ストーリー
玉造筋を上れば玉造駅のマックが希望の光

鶴橋の歩道は狭い気をつけて大阪王はローソンの先

金ちゃんの角を曲がれば桃谷の駅へと続く商店街だ

勝山と勝山北は違うもの一番端は今里筋だ

桃谷の駅へとたどる細道にきらりと光るスターバックス

吉野家の隣に足を止めたなら笑顔あふれるいろは食堂

ゴーストと対峙してこそ生き抜けるルシアスビルへ君は行くのか

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300の街

2022-03-14 14:53:00 | デリバリー・ストーリー
文の里マックの先は松崎町0.2キロ300

淡路島バーガーのせて阪南町0.5キロ300

占いに予言いつかのおべんちゃら5.5キロ300

金さんかいいえほんとは金田さん1.2キロ300

ドアノブに吊しきれない焼き肉が4.5キロ300

ミナミから天王寺まで覆う雲5.5キロ300

昭和町ナジミキンパの大画面2.2キロ300

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あべのウォーク&謳歌

2022-03-13 03:00:00 | デリバリー・ストーリー
さわやかな春と笑顔がマッチするあべのベルタのネパール料理

ただ礼儀正しい人が住んでいてうれしくなったタワーマンション

あべの筋南南へ進むだけ王子町皆親切な人

坂道を上りきったら一休みあべのウォークに吉野家があり

遊歩道下りた向こうは天王寺駅のベーグル&ベーグル

一息でたどり着けない店があるキューズモールのガーデンエリア

くつろぎを望んだ者がたどり着くHoopの上はスターバックス

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真冬の300

2022-03-10 06:26:00 | デリバリー・ストーリー
堺筋逆走自転車が多いどこまで行くの300

125円のしみも消え去ったランチタイムも300

クエストで配達員を担ぎ出し6.2キロ300

出前館ウーバーイーツディディウォルトメニューに君はいつかのパンダ

新町の端には川が流れ行く4.5キロ300

ブーストに調整金をふりかけてサービスランチ300

約束は粉雪みたい白々と5.2キロ300

逆走を避けてハンドル切る刹那ぼくの命は300

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ホット・チキン・タウン

2022-02-23 02:33:00 | デリバリー・ストーリー
 覚え立ての猫間川筋はくねくねとして心地よかったが、風が強くてなぜか涙が出てくる。泣いてるみたいで嫌だ。せっかくの手袋を外して、人指し指で顔を拭う。

「……が……」
 鶴橋駅前信号待ち。駅前が狭い。
「……か?」
 構内奥から男の喚く声。意味不明。あるいは、ちゃんと聞けば筋が通っているのかも。誰も振り返らない。信号を待っているだけ。
「返事くらいしたれよ~」
 どこからともなくツッコミが入る。


 玉造筋。小さな交差点の角にピックアップ先の店はあった。わかりやすい店は好き。自転車を停めてお店に入る。店内に客はいない。きゅっと結んだ袋を抱え、マダムは待っていた。

「まあ、手袋しないと!」
 驚くように、責めるように、彼女は言った。
「寒いよ~」
 両肘を抱えながら続ける。外の寒さを知っているようだった。

「ああ、寒いですね。行ってきます」


 千日前通。今里筋からまた戻ってきた。
 鶴橋駅前は人が多くて道が狭い。車道の端で信号を待つ。待つだけの信号はやたら変わらない。

「手冷たくないの? 兄ちゃん」

 歩道から突然おじいさんが話しかけてきた。この街の人々は、他人の手に対して多大な関心を秘めているらしい。

「いや寒すぎて涙が出るから素手で拭いたいんですよ」

 僕はついありのままに答えてしまった。わかりにくいだろうに。
 信号など存在していないかのように追い越していく配達員。秒でも読まれているのか。

「いやごっつ風強いさかい平気なんか思ってなはは」

「冷たいっすねははは」

 青だ。


 チキンの店が鳴る。今日はチキンが多い。クリスマスか。
 疎開道路を少し下りたところ。小さな交差点の角に店の明かり。わかりやすい看板が目に入る。
 自転車を止めるや否やお店から女性スタッフが飛び出してきた。「*****」です。注文ナンバーを伝えて商品を受け取る。ほぼ自転車を降りることなくピックアップが完了する。まるでF1レースみたいだ。(逆パルコじゃないか!)

「ありがとうございます! 行ってきます」
 なんてホットな街だろう。
 ドロップ先は、足代1丁目?

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あたたかいナビ

2022-02-06 03:45:00 | デリバリー・ストーリー
 千日前通へと急ぎすぎたおかげで高速と一通が複雑によじれて上手く渡れない交差点に迷い込んでしまった。先に西へと進みあみだ池筋から回ればよかったのに。焦りながら迂回してなんとか千日前通へと入ることができた。横に動いてから縦に抜くドリブラーが昔いたことを思い出す。バスにずっと追いかけられているような気がしたのは大正通だった。
 いくつも信号を越えて、ピンの場所を頼りにたどり着いたのは、学校の前だった。明かり1つついていない。

(ここじゃない!)

 だまされたと思って僕はじたばたしてしまう。
 だけど、これはよくないことだった。誤った場所に誘導された時には、慌てて動くべきではない。その地点こそが真実の場所にたどり着くための最初の手がかりになるからだ。
 名前もなく〒が独りで立っているのは、そこが街の代表だからなのだとか。(区役所とか学校とか)落ち込む必要はない。そこはその街の中心。お客様の家はそう遠くないということだ。

「アプリ地図の不具合により到着が遅れます」

 取り乱しながらメッセージを送る。返事なし。ずっと既読になることもない。聞いていないのか? 自分の頼んだカキフライにあまり興味がないのだろうか。(応えのないメッセージを12月になって何度送ったかわからない)

 動揺した僕は一度大通りを渡りすぐ間違いに気づいて元いた場所に戻った。グーグルの地図だけを頼り、なんとか正解らしい場所にたどり着くと、半信半疑の置き配。

「間違った場所に来ているようです。配達は終わりましたか?」
 AIとは言え冷たいこと言うね。
(間違ったところにつれてきたのはお前の方だ!)
 探り探り苦労してようやくたどり着けたんじゃないか。
 配達完了!



 三休橋筋ではあちらこちらで人が挟み込まれ動きが取れなくなっていた。この世の終わりのように浮かれた人。鳴り響くクラクション。突然の怒号。振り返る人。スマホの明かりをみつめて魂を取られていく人。

「今日からお店の場所が1ブロック移動しました」

 ピンの場所にたどり着く直前になって、詳細の注意書きに気がついた。まさかそんなことがあるのか。慌てて引き返すと人や車に当たらないように注意しながらなんとか正解らしき小さな交差点までたどり着いた。
 それにしても……。
 道が狭い。車が多い。人が多い。
 多すぎる! 
 人、人、人……。
 店を探すにも上手く進めない。
 僕は曲がり角で自転車を降りると取り乱しながらキョロキョロとしていた。

「どこ探しとんねん?」

 突然、声がした。曲がり角に立っている紳士だった。こんなところで何をしているのだろう。待ち合わせか、あるいは酔いを醒ましながらの立ち話だろうか。

「えーと、あの、今日から場所が変わったとかで……」

「なんちゅうビルや?」

 何でも知っているような自信が感じられる。この町の主かもしれない。

「えーとビルじゃなく、心斎橋サンド」

「心斎橋サンド?」

 紳士は復唱して一旦言葉を自分の胸の内に持ち帰った。
 やっぱり駄目か。(わかるはずない)

「そこや! そこの角や!」

 通りを隔てた西側に正解地点はあった。

「ありがとうございます!」

 流石は主だ!
 感動しながら道を渡る。頭上に巨大な看板が掲げられている。みている人はちゃんとみているのだ。
 注文ナンバーを伝えて紙袋を受け取るとブレイスに乗って走り出す。
 御堂筋のイルミネーションが輝いている。縦か横か。歩道は人が多すぎるから、とにかく渡ろうか。


「どこ探しとんねん?」

 信号を待つ間、まだ紳士の声がハンドルの近くに漂っていた。

(聞いてもいないのに)

 ああ、駄目だ
 泣ける

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猫の道とやさしい人

2022-01-31 02:30:00 | デリバリー・ストーリー
「本当の店の名は……です」

 詳細欄に本当の店名を載せてくれていた。助かるよ。名前のない店を見つけるのは大変なのだ。ピンが目の前に立っていても、確信のあるものがないと僕は迷ってしまう。CDショップの駐輪場に自転車を置いて、お店に向かった。あった、あった! 鰻に尖った顔を見せつつも、本当は広くお酒を振る舞うお店なのだった。

「ありがとうございます」
 特上の鰻丼を受け取って配達先へ向かう。
 遊歩道周りの車道を突っ切って、玉造筋を下っていく。JRの駅を抜けて細い商店街まで順調に進んでいたが、目的地に迫ったところからおかしくなった。商店街から小道に入るとピンはそこに近づく。けれども、入り口は見えないのだ。もっと向こうに回らなければならないのか。そこかと思えば行き止まり。その先の道を回る。ピンはすぐそこなのに。たどり着けそうでたどり着けない。ガンダーラ、ガンダーラ……。

 ぐるぐるぐる。
 もどかしく細い道を迷いながら、商店街へと戻ってくる。
 目的地はすぐ目の前だ。だけど、正しい入り口を見つけることは容易ではない。家というものは、いつも表通りに面して建ってはいないのだ。
 商店街から入った新しい小道で、僕は自転車を停めた。

「あのー、この辺りにマンションはありますか」
 おじいさんの周りには5匹の猫がいて、それぞれの器に首を突っ込んで食事中だった。

「その先を少し行ったところに1つある」
 えっ?
 少し見た感じは行き止まりのように思えた。

「あそこ通れるのですか?」
 おじいさんは頷いた。
「名前まではわからんがな」
「ありがとうございます!」
 急に目の前が明るくなった。
 部外者の接近に驚いて、黒猫が逃げて行く。

 教えられた通りに行くと細い道の向こうに鉄の扉が見えた。オートロック? 部屋番号を押すが壊れているのかまるで反応しない。

ギィーーーーーーーーー♪

 赤い扉は押すと簡単に開いた。直接部屋まで行けるかもしれない。駐車場を越えて進もうとするが、そこにはもう1つ鉄の扉があった。今度の奴は押しても引いても動かない。困り果てた僕は、お客様に連絡を入れることにした。

「入り口まで来たのですが(赤い扉を抜けて)2番目の扉が閉ざされていて……」
「あー、そこは逆なんですよ!」
 彼女は驚いたように言った。

「逆?」
 ようやくたどり着いた入り口がまさか逆だったなんて!
「そこで待っていてください。今下りて行きますから」
 迷った先のお客さんが、親切な人で助かった。
「お待たせいたしました。ありがとうございます!」
「ご苦労様です」

 正しい入り口は、猫たちのいる方とは反対の少し開けた道の方にあった。そうか、こっちか……。

☆300円♪

 ささやかな報酬を豊かな暮らしに近づけていく道は遠い。時給500円はリアルな話だ。40キロも走ると少し疲れてしまう。だけど、今日はもっと酷い道に迷い込む恐れもあった。やさしい人たちに支えられて、僕は生きていることができる。

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300とタワーマンションの少女

2022-01-28 01:57:00 | デリバリー・ストーリー
焼売はまだ温かいインターホン601は応答がない

信号に刻み刻まれ走らない自転車時給602円

配達は大きな川を2つ越え5.5キロ 300

地図にないお店を広げ手招いた幽霊たちは元祖がお好き

AIの導くままに自転車は静まりかえる校門の前

タピオカを4.5キロタワマンの玄関先に無言の少女

「そこやそこみてみそこやでそのかどや」見上げれば心斎橋サンド 

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300

2022-01-20 02:31:00 | デリバリー・ストーリー
インバウンドの消滅とともに
オアシスは吹っ飛んだ

これといった職はない
だけど何かを届けなければ

自転車を放り出したら
地下街に下りて
由緒あるパスタを受けて
人形の街へと走る
4.3キロ
玄関先で写真撮影
一通を下って
三休橋筋へ戻る

百貨店の駐車場前
異国の料理を受け取ったら
人形の街へと走る
4.7キロ
ちょうどさっきも来たような
どこにでも似たような人はいるものだ

鍛え忘れた肉体
リーズナブルなシティサイクル
怯えにも近い安全走行
不意に現れる上り坂
ベールに包まれた調整金
あるはずもないチップ
時給500円~800円
謎のバッド評価にじんわり凹む
きっと何かのスキルが足りないのだろう

無言で解錠されるオートロック
玄関先で写真撮影
配達完了

☆300円♪

道はどこにでも通じていく

また戻ろうか

人波の街へ

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ロング・ドロップ

2022-01-18 01:33:00 | デリバリー・ストーリー
 パスタを2つ運ぶのに大和川を越えて戻ってきた。風が強くて、車道の端を上っていく時は、少し恐ろしかった。帰り道はスーパーに寄って適当に買い物をした。見慣れた道は迷わなくて安心だ。

 2メートルほどの横断歩道だった。向こう側に2人、立ち止まっている人の姿があった。右を見て左を見て、僕はゆっくりと地面に足をつけながらフライングをして渡りきった。

ピーーーーーーーーーーッ♪♪

 怒りを帯びたような笛の音がどこかで鳴っているようだ。
 それがまさか自分に向いて鳴っているものだとは!
(あの2人が正しく僕はあまりにも愚かだった)

「赤でしたね。赤と見た上で渡りましたね」
 物陰に潜んでいた女が現れて話しかけてきた。まちぶせだ。
「車来てないから大丈夫と思った? ちょっと自転車降りましょうか」
 ただ一言だけのことと思えば決してそんなことはない。女は懐中電灯で自転車の中心部を照らし見ていた。

「免許証をよろしいですか」
 免許証……。
「持ってないです」
 焦りながら保険証の入った財布を差し出した。
 手がかじかんで女は上手くそれを開けなかった。
「カードとかみんなご本人名義の?」
「はい」

「ナイフとか危ないものないかだけ鞄の方あらためさせてもらってよろしいですか」
「あー、はい」
 四角い鞄を背中から下ろしサドルの後ろに置いた。
「配達の途中ですか」
「いえ、もう帰るところです」
「そうですか」
 ファスナーを5センチほど開いたところで、確認は終わったようだ。
「もう背負ってもらっていいですよ」
 そんなものか。あるいは、反応だけをみたのだろうか。
 ミネラルウォーター、長田ソース、千切りキャベツ、ガーリック、半額の肉、やまじょうのすぐき茶漬、R1ドリンクタイプ、藤原製麺のこってりみそラーメン……。そんなものには1つも興味はないのだろう。

「最近、死亡事故があったんですよ」
「死亡事故……」
 身近に転がっているシリアスな現実。事件も事故もこの街の日常の一部なのだ。
「それでは安全運転でお帰りください」

 コンビニの角の短い横断歩道で信号を待っていると不甲斐なくて泣けてきた。久しぶりに人と話したというのに。見知らぬ人に突然話しかけられて、お前はいったい何者なんだって色々と問いつめられて、恐ろしかった。
 いったい何やってんだろう……。
 前方の人に見られないように、僕は帽子の下の顔を伏せた。
 どうか零れませんように。

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ファースト・ミッション(うどんカウントダウン)

2022-01-15 06:56:00 | デリバリー・ストーリー
「神さまどうか僕をよい方向に導きください」

 ポケットの奥にある方位磁石がお守りだった。
 土地勘に乏しい町で、最初の一歩をどちらに向けて踏み出して行けばいいのか、それが何より大きな不安だった。少しでも不安を小さくするために、毎晩のように地図を抱えて眠りに落ちた。
 目的地に近づくことさえできれば、あとは大丈夫だろう。アプリに刺さった赤いピンにどんどん近づいていく。もう少しのところだ。ここまでくれば何とかなるだろう。事前不安が強すぎただけのことだ。
 もう目の前だと思ったところに落とし穴が待っていた。最後の曲がり角がわからないのだ。

 この道は……
 行き止まりだ!

 反対側か? そんなはずはない
 この先だ ここなのだ

 今まで親切だったアプリが、急にうそつきのように思える。
 小道の真ん中でメジャーを伸ばし測量している2人。まさか、この人たちに訊ねられるわけもないし。

 わからない、わからない、わからない……

 僕は取り乱しながら自転車を漕いだ。近づいて、行きすぎて、また戻る。目的地は確かにすぐそこなのに、どうしてもたどり着くことができない。呪われた道に迷い込んでしまったのかもしれない。

警告
「速やかに配達を完了させてください。せっかくのうどんが伸びてしまいます!」

 何度も何度もふりだしに戻る間に、温かだったうどんは今どのくらいだろう。最初の一歩より大きな問題があるなんて知らなかった。道という奴は、どうしてこんなに入り組んでるんだ。

 わからない、わからない、わからない……
 僕は破れかぶれになりながらハンドルを切った。

「あー、すみません」
 男たちの伸ばしていたメジャーが縮んだ。

「どうも、すみません」
 作業を止めさせてまでも進むべき道なのか。
 だけど、そうではなかった。
 行き止まりと思ったのが誤りだったのだ。
 小道の先まで行くと突然に視界が開け、4部屋ほどのマンションが現れた。

「お待たせいたしました!」

 部屋が現れたことがうれしくて、僕はどの部屋かもわからないまま叫んだ。詳細欄をよくみると部屋番号があり、玄関先に置くと書いてあった。レインコートがかけてあったのでその下にうどんを置いて写真を撮った。(もっとドアの近くに置く方が親切だった)

 配達完了!

 アプリの下をスワイプして最初の配達が終わる。

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