眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

注入

2009-12-15 16:40:24 | 狂った記述他
------------空気注入無料。

「せっかくだから入れてもらう?」

風船猫は、少し萎みかけていたのだった。
身を低くして、じっと新しい空気が入ってゆくのを待った。
少しするともう風船猫は、ぽっちゃりと膨らんでいて心なしか顔色もよくなっているようだった。
口から息を大きく吐いて、自分の体に微調整を加えた。

「ただでありがとう」僕は、マスターに礼を言った。

「その言葉が、私の心に元気を注入しました」

「また来ます」

*

「死んだ利休が映っています」

「だったらそれは先週の分だろう」

「ちゃんと撮りましたよ」

「ならなんで利休が映ってるんだよ?」

*

はちみちとストローのつながりを買ったら、22円のお返しですと言いながら、手の上には220円が載っているものだから、驚いてしまった。
「違うんじゃ?」
数字が違うから、気がついたのではない。
僕は、最初より増えていたから、ただ驚いたのだった。

*

誰もいない交番に入って、風船猫と番をすることになった。
へそ曲がり交番には、ほとんど訪問者はなかった。
時々、散歩途中の犬が紛れ込んで帰り道を尋ねた。
時々、買い物帰りの主婦がやってきて、人生相談を求めた。
時々、宇宙人が侵入してきて、イデオロギーについて論じた。
時々、偽警官がずかずかと来て、なんだキミはと言った。
風船猫は、すっかりくたびれたようだった。
僕も少しつかれてしまった。

*

四捨五入を終えて、僕たちは夜の街へ繰り出した。
円周率はちょうど3を回ったところだった。
「冷たいビールあります」という紙と僕たちは目が合った。
こんなところにあったんだね……。

「あんたに飲ませるビールはないね!

それはあんたが猫だからだよ!

なんだって? なおさらないね!

風船猫だって? さらさらないね!

あんたらに飲ませるビールなんて!

一滴だって ありゃしない!

ひっくりかえっても やりゃしない!」

*

僕たちはゆっくりと萎んでいった。

コメント
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