ペンギンは、野菜を求めてスーパーに足を運んだ。
特売日らしくスーパーは大勢の人でごった返していて、ジョナチャンは目をぱちくりとした。
そうして、何も買わずにスーパーを後にして、ジョナチャンはペタペタと歩いていた。
あーあーあー。家の人に怒られちゃうな。
煙草屋の前には、猫が心配そうな目をして佇んでいた。
道に迷ったの?
野菜を買うんだよ。ジョナチャンは財布を見せて猫に行った。
だったら、あっちに行くといい。猫は、指示棒を伸ばして指し示した。
空には、鳥が飛びながら絵を描いている。
あれは、ライオン。あれは龍。あれは松の木。
ジョナチャンは、空絵を見上げながら歩いた。
ライオンが松の木を食べた。龍がライオンを吹き飛ばした。それから自分も吹き飛ばした。
野菜は全然描かれなかった。
八百屋の前を、ジョナチャンはペタペタと歩き回った。
バナナがかごに盛られていた。みかんがかごに盛られていた。
店の人らしき人とすれ違ったが、らしきは無言のままだった。
地べた付近に置かれたニラは、かごからはみ出して、もう地べたにくっついていた。
ジョナチャンは、踏まないように注意した。
行ったりきたりしてみたが、らしきはやはり無言のままだった。
ここは八百屋じゃないかもしれないな。
空では、鳥が飛びながら絵を描いている。
あれは、力士。あれは、オルガン。あれは空手家。
ジョナチャンは、空絵を見上げながら歩いた。
力士がオルガンを弾いた。空手家も並んで弾いた。
オルガンが弾けて飛んで、みんないなくなってしまった。
野菜は全然描かれなかった。
「いらっしゃい!」
ジョナチャンは、八百屋の威勢に酔い痴れた。
「トマトが安いですよ!」
ジョナチャンは、いらないと言った。
「他に果物はよろしいですか?」
ジョナチャンは、いらないと言った。
「はい。550万円!」
「あー、10円玉、助かります!」
「またお願いします!」
酔い痴れながら、ジョナチャンは八百屋とさよならした。
「おかえりなさい」
どっさりと野菜を抱えたジョナチャンに、猫が呼びかけた。
空には、今はぶどうや、梨や、キュウイが描かれていた。
「あなた空は飛べるの?」
ジョナチャンは、リンゴが染まっていくように顔を振った。
「そう。私も、飛べないの」
ペンギンは、一瞬ぎょっとしたように猫の方を見た。
*
「ジョナチャンは、何を買ったの?
ねえ、ノヴェル」
ケータイの文字列を歩きながら、マキは猫に問いかけた。
文字の連なりも、眠り猫も何も答えなかった。
「鳥は、落書きが好きなの?」
マキは、ノヴェルから目を離して空を見上げた。
漆黒の夜の中で、白い生き物めいた何かが、ざわざわと這い出していく気配がした。
特売日らしくスーパーは大勢の人でごった返していて、ジョナチャンは目をぱちくりとした。
そうして、何も買わずにスーパーを後にして、ジョナチャンはペタペタと歩いていた。
あーあーあー。家の人に怒られちゃうな。
煙草屋の前には、猫が心配そうな目をして佇んでいた。
道に迷ったの?
野菜を買うんだよ。ジョナチャンは財布を見せて猫に行った。
だったら、あっちに行くといい。猫は、指示棒を伸ばして指し示した。
空には、鳥が飛びながら絵を描いている。
あれは、ライオン。あれは龍。あれは松の木。
ジョナチャンは、空絵を見上げながら歩いた。
ライオンが松の木を食べた。龍がライオンを吹き飛ばした。それから自分も吹き飛ばした。
野菜は全然描かれなかった。
八百屋の前を、ジョナチャンはペタペタと歩き回った。
バナナがかごに盛られていた。みかんがかごに盛られていた。
店の人らしき人とすれ違ったが、らしきは無言のままだった。
地べた付近に置かれたニラは、かごからはみ出して、もう地べたにくっついていた。
ジョナチャンは、踏まないように注意した。
行ったりきたりしてみたが、らしきはやはり無言のままだった。
ここは八百屋じゃないかもしれないな。
空では、鳥が飛びながら絵を描いている。
あれは、力士。あれは、オルガン。あれは空手家。
ジョナチャンは、空絵を見上げながら歩いた。
力士がオルガンを弾いた。空手家も並んで弾いた。
オルガンが弾けて飛んで、みんないなくなってしまった。
野菜は全然描かれなかった。
「いらっしゃい!」
ジョナチャンは、八百屋の威勢に酔い痴れた。
「トマトが安いですよ!」
ジョナチャンは、いらないと言った。
「他に果物はよろしいですか?」
ジョナチャンは、いらないと言った。
「はい。550万円!」
「あー、10円玉、助かります!」
「またお願いします!」
酔い痴れながら、ジョナチャンは八百屋とさよならした。
「おかえりなさい」
どっさりと野菜を抱えたジョナチャンに、猫が呼びかけた。
空には、今はぶどうや、梨や、キュウイが描かれていた。
「あなた空は飛べるの?」
ジョナチャンは、リンゴが染まっていくように顔を振った。
「そう。私も、飛べないの」
ペンギンは、一瞬ぎょっとしたように猫の方を見た。
*
「ジョナチャンは、何を買ったの?
ねえ、ノヴェル」
ケータイの文字列を歩きながら、マキは猫に問いかけた。
文字の連なりも、眠り猫も何も答えなかった。
「鳥は、落書きが好きなの?」
マキは、ノヴェルから目を離して空を見上げた。
漆黒の夜の中で、白い生き物めいた何かが、ざわざわと這い出していく気配がした。