眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ルート3

2012-10-24 20:09:36 | 夢追い
 ボタンを押して呼んでもいいのだが、そこにいたので直接呼んでプリントを手渡した。それはすぐに赤ペンで修正されたり、解説を加えられて戻ってくる。脱出ゲーム。一番上に、最も明快な一文が示された。数字は小さい順で動かさなければならない。ジョーカーを上手く活用すること。悩んでいる内に(本当は悩んでいる振りをしていただけ)、ヒロは壁を抜けて出て行ってしまった。(数学的な解決を放棄して、身体能力を使ったのだ)騒ぎ立てたり、咎めたりする者は現れなかった。僕もそれに倣って壁に近づいた。試みては物理的な壁にはね返される。ヒロができたのだから、できない理屈が間違いなのだ。ためらいを、一瞬解放した瞬間、ついに壁を抜けることができた。先に行っていたヒロに追いついた。
「数字を徐々にずらしていくのだろうけど……」
 数学的なルートで解決する能力がなかったわけではない。僕はそれを言っておきたかった。
「面倒だからな」
 ヒロが言った。そう。つまりは、そういうことだ。僕らは効率的な手段を選択したということだ。まだ、閉じ込められたままの子供たちを救出するため、僕は再び教室に戻ることにした。いつまでも、閉じ込められて時間を無駄にする必要はない。数字に触れる必要のない新しい正解を、苦しんでいる子供に教えることにした。こうやって抜けるんだ。
「こうして。ほらっ」
 ためらいを解放して、壁を抜ける瞬間を見せつけた。
「自分ができるからって!」
 彼女の叫び声が、僕を校庭の隅まで押し出した。

「お金はもらわなくていいの?」
 金額の欄には、出頭と記されている。それが理由のようだった。まだ少し納得がいかない。出頭って警察にするものでしょう。
 電話の向こうで男は、お金のことを口にしない。何が言いたいのかまるでわからず、眠ってしまいそうだ。相手がそのつもりなのだから、僕も何も言わない。これから出かけるところだということも。
「切りますよ」
 もったいない。何もかも、金も、時間も。

 2つのレジの前を反復横跳びで行き交いながら、順番を待っていたが、それだけでは物足りずに持っていた豚肉の入ったパックを宙に投げて回転させた。そうして制空権を確保しているため、どちらか先に空いたレジに進み出ることができる。「こちらへどうぞ」どこかで全く新しいレジが開放されたようだが、そこまで飛んでいくことはできない。反復する距離を伸ばせば、守れるものまで守れなくなってしまう。3番レジが開いた時、先に届いた豚肉を追って、僕の足が滑り込んだ。回しすぎたためか、値札がすっかり行方不明になっていた。どこにもないことを認め終えた店員は、レジを無人にしてどこかへと走ってゆく。


 反対のルートで下りてくれば、おじさんと行き違いになってしまうかもしれない。渡すものは渡さなければならないし、渡せるものならできる限り早く渡してしまいたかった。昼間だったら……。この道は、ずっと安全なのだけれど、秋が、早くも闇を引き込み始めていた。この環境と、この装備と、成し遂げねばならない理由、成し遂げたいという思い。かけては傾き、また反発を繰り返すてんびんは、ついに回転を始め、タケコプターとなって飛んで行ってしまった。狭い、暗い、下駄。三つの理由を合わせれば、あきらめをつけるには十分ではないか。
「こんばんは」
 犬連れの老人だ。何が夜明けを思わせたのか、僕は「おはよう」と間違えて答えてしまう。すれ違えば声をかける、そんな町だった。
 もしも、ばれたら。怒られる? 感心される? 心配される? 笑われる? そのすべてが、同時になされるのかもしれない。

行こう! 僕も

 下駄なんて、いつでも脱げばいい。
 先人の進んだ足音が、幽霊のように思えた山を、町の続きに変えた。
 犬連れの老人を追って、僕は歩き始めた。犬の気まぐれと道草が、不安定な僕の足並みと調子を合わせ、道中の不安を取り払ってくれた。いつまでも、それが続く。向かう先は、いつまでも同じなのだ、という幻想は、突然裏切られてしまった。老人は大木の根元に犬をつないだ。そして、どこからともなく取り出された重機を使い、岩を削り始めた。どうして? 僕は老人と切り離された犬を見つめた。けれども、犬は見つめ返してもくれなかった。犬は、ただ老人の方を、あるいは岩の方を向いているだけだ。僕との関わりは、既に失われている。最初から、失われている。
 立ち止まっていることも、引き返すこともできずに、歩き出すと、今まで静かだった下駄の音が鳴り始め、山の向こうから月が顔を見せた。
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ハナミズキ

2012-10-24 17:57:27 | 短歌/折句/あいうえお作文
離れれば
なぜか確かに
みえるのは
好きの深さと
きみの来た道

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ハニートースト

2012-10-24 07:51:54 | 短歌/折句/あいうえお作文
8万の
ニーズの中で
トーキック
ストライカーが
得点を生む
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ふたりっこ

2012-10-24 00:58:21 | 夢追い
 定食屋の前で雨宿りをしていた。もう随分と下火になった。
「もう上がったろう」
 と父が言った。
「もう上がった」
 定食屋に入ろうとしたのは、ずぶ濡れになったハンカチを干したかったからだ。いらっしゃいませ。そう言われることが、そう言わせることが恐ろしかった。もう閉店も間際で、僅かなメニューと僅かな客が残っている店の中で、どのようなトーンでそれは響くのだろう。いらっしゃいませ。その一声が恐ろしくて、僕はハンカチを振った。雨上がりの夜空に、ためらいの鳩が飛び立った。

 溝に光る iPhone を見た。見ながら通り過ぎた。手間だった。拾ったり、届けたり、色々と手間だった。
「拾いなさいよ!」
 後ろでカップルの話し声がした。彼女たちも、それを見つけたのだ。女は、自分も拾わなかったけれど、隣にいて拾わなかった男を責めているようだった。届けなさいよ。光ったままの iPhone は、あの長い雨を耐えただろうか。
 小銭が落ちた。拾う間に、レジに後れを取った。後から来たカップルに抜かされてしまう。小銭の中に紛れ込んでいた小辛子のパックから黄色いものが零れ落ちて指に付着した。そうなると拾うことよりも指の始末が、解決しなければならない課題として鮮明に勢いを増してくる。まずは指を綺麗にして、そして小銭を拾う。一つ一つ。物事は順に一つ一つ、正しい方向に導かれていくのだ。
 カップルがもたつく間に、再び先着したレジの上にポカリスエットを置き、小銭をつまみ上げる。
「百の位は家主の名義になっております」
 店員は言った。切り替えるように言うと、他人の名に変換される。だから、別の家に帰らなければならない。白いガウンが、汚れているような気がする。変えた方が良い気がする。

「たいしたことはなかったよ」
 と言う朝食は、もう終わりの時間だ。いずれにせよ、僕は別の何かを探さなければならないのだ。
「覚えている?」
「覚えてない」
 兄がガソリンスタンドでバイトしていたという、姉の記憶は、確かなのだろうか。他人の家の話を聞いているような気がした。

 ロボットが2体、光り輝く下で、ふらふらしている。
 踊っているのか?
 あれはどこだろう?
 列車の中だ。まだ誰も知らない。

 母と子が駆けて行く。元気にはしゃぎ駆けて行く子を追って、母もまたその元気に追いつくように駆けて行く2人を見つめる人々の視線は、優しくあたたかだった。駆け抜けて、端から端へと駆け抜けて、また次の始まりから終わりへと駆け抜けて、また初めに戻ったように、終わらない力強さで一歩を踏み出すと駆け始める。けれども、次の車両に渡った時、様子は今までとは違っている。みんな赤い眼や、青い眼や、不快さを滲ませた他人行儀な眼をしていた。2人を見て、目的地でもないのに、次々と列車を降りていくのだった。若者は、急ぐあまりに座席に上着を忘れていった。動き出した列車に、戻ることはできない。止まっている間、商店街のどこからでも戻ることができる。つながっているから。不機嫌な顔で店の奥に座っている主人を押しのけて進めば、戻れるのだ。けれども、動き出したとなれば、もう次元が異なっている。彼らは寒い思いをするだろう。

「筆箱を持ってきた?」
 いらないと僕は答える。実際に必要なのは鉛筆と消しゴムだ。ポケットの中に、それは裸で入っている。1度階段を上り、わざわざ右を通って降りていく。最短ではないけれど、正しい順路で。
「少しずるした!」
 少しのショートカットを、友達が見咎める。

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