眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

マイコックピット (やまとなでしこ)

2013-09-09 13:38:41 | アクロスティック・メルヘン
やってくる
魔物たちの襲撃に備えて
特に重要だと思われたのは
何はなくても
「手に職をつけることです」
しっかりとしたプランを持って
コツコツと身につけなければなりません。

「厄介なことだが」
町の長老の話によるとそれは
戸締りと同じことだと言います。
「何もないのはまずいのだよ」
手が空いていると中に不条理な
仕事を放り込んでくる
個性的な魔物もいるのでした。

やさしいことではなかったけれど、
学ぶことに夢中になっていると
時はどんどん過ぎていって、
夏の終わりのある日、
哲夫くんはようやく
職へとつながる道筋をみつけ、
根気強く励み続けたのでした。

やかましく言う師匠も、
まやかしにあふれた教祖も、
特別に集められた講師陣も、
仲間の1人だって、
哲夫くんにはいなかったけれど、
修練を繰り返しながら、自分という名の
コックピットの中で夢見ているのでした。

闇の中で耳を澄まし、
まどろみながら光を集め、
遠く離れた街まで、
名前を探す旅に出ます。
天使を折って
新年になって
子馬に乗って

山に登って
マナティを折って
トビウオを折って
長い時間が経って
天狗の鼻をへし折って
しゅんとなって
恋に落ちて

やつれ果てて
待ちわび待ちくたびれて
時計を折って
長袖の先を
適当に折って
シュガーを折って
腰を折って

薬局によって
待たされて待ちくたびれて
トレイを持って
ナッツをのせて
天秤にかけて
シンメトリーで
これ幸いと

休みをとって
マストを折って
トスを受けて
奈落の底で
手相を読んで
芯から冷えて
小熊を追って

ヤマトを折って
まな板を折って
問いかけを折って
ナナフシを折って
テーブルを折って
シロイルカを折って
小春を折って

焼き芋を折って
魔術師を折って
といったところで、
「何を折ってもうまくいかないな」
哲夫くんは折々を振り返って
萎れてしまったのでした。
これはいったいどうしてだろう……。

「やめてしまおうか」
「まだまだじゃないか」
と言ったところで
「何を折ってもうまくいかないばかりに」
手に取るものすべてが空しく思えて
「しっかりするんだ!」
コックピットの中から声が聞こえます。

やがては突き抜けていく雲を夢見ながら、
まだそれよりも遥かに深い冬の中に、
留まり続ける夜の向こうから、
涙が滲むのを感じた哲夫くんは、
手の中にある2番目の指を、
しっかりと内側に折り曲げると、
コの字を作ってまぶたに押し当てたのでした。

コメント
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