眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

迷子

2018-10-15 23:48:13 | 気ままなキーボード
こちらをどうぞ
(いいえ結構)
男は無言で断りながら胸に手をあて
それを取り出すと
名を書き出していた

どうしてもこれがいい
これでなければならない……
他人にはわからない感覚というものがある
傍から見れば皆同じように映っても
やっぱり母は母なのだ

男は胸ポケットから母を取り出したに違いない

学び始めた幼き日より
よくぞここまで来たものだ
スラスラ
流れるように
男は現在の居場所を書きしるしていく
その姿は自信にあふれているように映る
(間違ったことは何もしていない)

三丁目の角で一度手を止めた
ハイフンをすぎたところで西の方を見上げた
マンションの名前の中でかすれて
切れてしまった「ああ……」

あらら…… 「こちらをどうぞ」

男は母を胸にしまった
少しぎこちなくカタカナへ戻り
電話番号を書き終えた

「チェックアウトは何時ですか?」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする