最後に笑ったのはいつだったか……。
犬はまだ笑顔を取り戻せてはいない。あと何歩歩けばその場所へ到達することができるだろう。余裕がなければ、安心がなければ、笑うことなんてできない。今までの歩みを考えれば簡単ではない。ここまで来たことが不思議に思える。ずっと不信と裏切りの渦の中にいたのだ。もうずっと長い間、彼はいばらの道の他を歩いたことがなかった。
「大丈夫だよ」
そう言っても完全に信じ切ることは難しい。トラップのない道を共に歩き続ける。ずっと正解を出し続けること。うんざりするほど積み重なった正解が信頼に変わるまで。(もう大丈夫)彼の中で、本当にそう思えた時、その一歩はどれほど力強いものになるだろう。今日もまだ笑顔は見られない。長いつきあいになりそうだ。いつかきっと……。思い込む執念が大切だ。思い詰めない緩さが必要だ。僕は今日も彼をつれだして歩く。
このチャレンジはやめられない。その幸福な一瞬が思い描けてしまうから。