バラモスと一戦交え折れた剣「まだまだこれはスタートライン」
右手には煙草。左手に子供の手をつなぎながら、男は前を歩いている。黒い煙が後ろの方に流れてくる。「煙たいな」嫌になって僕は徐々に歩くスピードを緩める。風向きが悪い。右手の煙草の位置は、反対の手でつなぐ子供の顔の位置とちょうど一致する。そんなに吸いたいのだろうか。他に吸う場所がないのだろうか。それとも一刻を惜しんで、子供と一緒に道を歩く時でさえ、吸っていなければならないというのか。好きなのか、好きでたまらないのか。(どちらも手放せない)というほどに、好きなものがあるから、男は幸福なのかもしれない。そんな幸福から僕はゆっくりと距離を取って歩く。ゆっくり、ゆっくり、決して追いついてしまわないように、私は歩かねばならないのです。
もしも、左右反対の親子が道の向こうから歩いてきたとしたら……。お父さん、あんた平気なのでしょか。何も危険を感じたりしないのでしょうか。ねえ、お父さん、あんたの頭の中はどうなっているのでしょうか。ねえ、お父さん。私の想像の向こう側を、歩いているお父さん。私は流れてくる煙さえも恐れながら、ゆっくりと、ゆっくりと、亀になったつもりで、道を歩くことになりました。私の少しばかりの敵意は、あんたに決して届くことはないでしょう。まだ、微かに私の体はあんたの作り出す煙に触れて、黒く汚れています。ゴホン。俺をせき込ませるものは、どこのどいつだ。
俺はカブトムシになったようにして歩く。カブトムシが好きなんじゃない。煙が嫌いなだけだ。俺は争いを好まない。好むのは逃避の方だ。カブトムシがどうかはわからない。俺が今、投票に向かっているとしたら、俺は投票箱に着くことはないだろう。もしも、着くことがあったとしても、俺は何も投票するつもりはないのだ。季節がそれを許さないからだ。俺がしていることは、単なる時間稼ぎにすぎない。俺はカブトムシになって自分の力をセーブしている。だが、わしは他人からそれを見透かされるのも嫌じゃ。
あの人って「カブトムシを演じているのね」。そんな風には見られたくはない。だから、わしはナチュラル・カブトムシに見られるように、全体的なパフォーマンスを調節して、演じているのではなく、カブトムシが歩いているようにしたい。実際にそうなっているかどうかは、果たして怪しいものじゃ。そもそも、誰も見ておらんのではないか。誰が私の歩く形を気にかけているというのでしょう。誰が、僕とカブトムシの関係を、僕とあの親子の間にある空間について、気にかけたり、想像したりするものか。そんなことは絶対にない! 親子が立ち止まった。
(カブトムシに限界がきた)
もうどうしようもない。あの男の横を僕は通過したくなかった。車が来ないことを確信して、僕は車道を横切る。向こう側にも、歩道はある。
「高い」
高いハードルが目に入って、歩道に入れないことを悟った。だけど、もうここまで来てしまった。僕が猫だったら、カンガルーだったら……。難なくそれを乗り越えることができたのに。僕にはまだ越えられないハードルがある。
(人間って奴は)
僕はもどかしく車道の端を歩き続けた。
もしも、左右反対の親子が道の向こうから歩いてきたとしたら……。お父さん、あんた平気なのでしょか。何も危険を感じたりしないのでしょうか。ねえ、お父さん、あんたの頭の中はどうなっているのでしょうか。ねえ、お父さん。私の想像の向こう側を、歩いているお父さん。私は流れてくる煙さえも恐れながら、ゆっくりと、ゆっくりと、亀になったつもりで、道を歩くことになりました。私の少しばかりの敵意は、あんたに決して届くことはないでしょう。まだ、微かに私の体はあんたの作り出す煙に触れて、黒く汚れています。ゴホン。俺をせき込ませるものは、どこのどいつだ。
俺はカブトムシになったようにして歩く。カブトムシが好きなんじゃない。煙が嫌いなだけだ。俺は争いを好まない。好むのは逃避の方だ。カブトムシがどうかはわからない。俺が今、投票に向かっているとしたら、俺は投票箱に着くことはないだろう。もしも、着くことがあったとしても、俺は何も投票するつもりはないのだ。季節がそれを許さないからだ。俺がしていることは、単なる時間稼ぎにすぎない。俺はカブトムシになって自分の力をセーブしている。だが、わしは他人からそれを見透かされるのも嫌じゃ。
あの人って「カブトムシを演じているのね」。そんな風には見られたくはない。だから、わしはナチュラル・カブトムシに見られるように、全体的なパフォーマンスを調節して、演じているのではなく、カブトムシが歩いているようにしたい。実際にそうなっているかどうかは、果たして怪しいものじゃ。そもそも、誰も見ておらんのではないか。誰が私の歩く形を気にかけているというのでしょう。誰が、僕とカブトムシの関係を、僕とあの親子の間にある空間について、気にかけたり、想像したりするものか。そんなことは絶対にない! 親子が立ち止まった。
(カブトムシに限界がきた)
もうどうしようもない。あの男の横を僕は通過したくなかった。車が来ないことを確信して、僕は車道を横切る。向こう側にも、歩道はある。
「高い」
高いハードルが目に入って、歩道に入れないことを悟った。だけど、もうここまで来てしまった。僕が猫だったら、カンガルーだったら……。難なくそれを乗り越えることができたのに。僕にはまだ越えられないハードルがある。
(人間って奴は)
僕はもどかしく車道の端を歩き続けた。