「もう帰ろうよ」
「来たばっかりでしょ」
「退屈なんだもん」
「そう決めつけないの」
「映画見に行きたい!」
「放映は中止になったのよ」
「なんで、なんで?」
「だからここにいましょうね」
「なんで、ねえ、なんで、なんで」
「だから、これはいい機会なのよ」
「絵なんてわからないよ!」
「そうね」
「解説がないと何もわからないよ」
「そうかもね」
「そうだよ。退屈だよ」
「よく見てごらん」
「見ても一緒だよ。ずっと一緒」
「もっともっとよく見るの」
「ずっと上も下もまるで同じ形じゃないの」
「ずっとずっと見ているとある時何か変わって見える瞬間が訪れるの」
「そうかな……」
「それが絵なの」
「そんなに待てないよ。僕は時間がないんだ」
「人生も同じよ」
「人生って退屈なんだ」
「一枚の絵をどれだけ愛せるかで人生は変わるの」
「そんな絵があるのかな」
「絵はどこにでもあるものよ」
「あっ、桂が跳んだ!」
「ほら、ね!」
「ハッハッハッハッハッハッハッ……」
「フフフ……」
「バランスが崩れた。悪手じゃないの」
「そうね。新しい手ね」
「ねえ、どうなるの、これから」
「さあね。もう行きましょう」
「えー? いま動いたとこなのに」
「また来ましょう」