不愉快なものに囲まれて寒い時間には、焚き火のことを思えばいい。どこでもないその場所に焚き火は現れて、炎が立ち上がる。炎の形。炎の色。炎の大きさ。炎の揺らぎ。風が吹き、炎は危うく揺さぶられる。
「さあ、薪を足せ」
薪を集めてこい。薪の形。薪の大きさ。薪の荒さ。様々な薪がある。何でもいい。急いでかき集めろ。薪の組み方。薪の積み方。薪の重ね方。全部自分で考えて、工夫して。炎を大きくするのだ。
「バキバキバキ」
薪が食われて炎が上がる。暖かい。身が焦げるほどに暖かい。もっと足せ。もっと大きな焚き火にするのだ。薪を食い、炎は育ち、風が吹いて、アレンジが加わる。バキバキバキ! おー……。炎の中から竜が現れる。「もっとくれ」薪を足す。薪を食って竜が大きく伸び上がる。風が吹いて、竜が人間の顔になる。
「おー。手品はもうやめたのか」
炎の中から父が残念そうな顔をみせる。
もっと足せ。薪を集めて、遠い人の声を聞こう。
「やめたよ」でもね。(他に好きなことを始めたんだよ)
風が吹いて、炎が萎む。薪を集めろ。
好きを絶やさぬように。