眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

雪の合戦

2019-03-06 04:08:34 | リトル・メルヘン
 降り出した雪がナイフを止めて人殺しを正気に返らせた。盗人は鍵穴に差し込んだクリップを抜いて犬のようになって公園の茂みに消えた。わーいわーいと大人も子供も素直になって、難しい理屈をみんな抜きにして街を平和な空気に満たしたのは雪だった。雪が降った。降って降って一夜にして街を白い歓迎ムードに染めた。興奮は醒めず庭には雪のダルマが作られた。雪は何日も降り続き、何体ものダルマが庭に立ち、庭を出て、街を占め、白い存在感を発揮し始めた。「ダルマはいくつあってもいいものだ」雪さえあれば、それに作り手の熱意さえあれば、ダルマはいくらでも増やすことができた。「もっと大きなダルマを!」数ばかりでなく、大きさを求めて、推進派はダルマ作りに次々と精を出した。それに顔を曇らせるのは反対派の人々だった。


「いつまで降るのだろう」

「いつまで積もるのだろう」

 そして「いつまでダルマが増えていくのだろう」様々な心配を胸に、妨害工作が図られることに。雪の道において、趣旨の薄いパーティーを開き、不機嫌なフリマを開き、棘のある歌会を開き、モラルのない舞踏会を開き、鬼だらけの鬼ごっこを開き、雪ダルマ作家たちの心を折りにかかった。「くそーっ!」雪ダルマ作家たちはそれにも心折れることはなかった。何よりも雪が好きで、雪ダルマが好きだと言わんばかりに(それを言葉にすることはなかった)せっせと雪ダルマを作り続けたのだった。その努力もあって街は見渡す限りの雪ダルマであふれた。コンビニよりも、歯科医よりも、整骨院よりも、町工場よりも、交番よりも、雪ダルマの数は多く輝いていたのだ。


「もっともっと雪ダルマを作りたい」

 雪ダルマ作家たちの情熱は、雪をも溶かすほどに熱かったのだ。けれども、雪は溶けても溶けても溶ける余裕がないほど降り続けた。その時、雪ダルマの大きな頭に向けて投げ込まれた球があった。反対派陣営から投げられた白い球。それは雪の球だった。雪の球は雪ダルマの頭を、雪ダルマの肩を、雪ダルマの胸を、雪ダルマの節々を攻め、挙げ句の果てには雪ダルマ作家のアトリエ本陣にまで届いたのだ。「くそーっ!」雪ダルマ作家たちは燃え上がった。「もう黙っちゃおれんわ」そして、反撃の球は投げられた。雪ダルマ陣営から反対派陣営に向けて投げ込まれる球。白い白い怒りを含んだ球。それは雪の球だった。何発も何発も何発も何日も何日も何日も、陣営の間を行き交う雪の球。降り出した頃の平和はどこへ……。雪の合戦が続く。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

改行コンプレックス

2019-03-06 02:03:00 | 短歌/折句/あいうえお作文

改行は風に消されてみえてきた一等星は招待選手

(折句「鏡石」短歌)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする