昔々あるところから大きな亀に乗って鬼が流れてきました。どんぶらこっこ、どんぶらこっこ。川の流れはとても急でしたけれど亀はとても逞しく鬼はそれに乗り慣れていました。激しい川の流れに少しも負けずに大きな亀に乗った鬼は流れてきました。どんぶらこっこ、どんぶらこっこ。流れてくるに従って次第に音が近づいてくるようでした。それ、どんぶらこっこ、こっこっこ、どんぶらこっこ、どんぶらこっこ、どんぶらどんぶら、どんどんどん。どんどんどん、どっどっどっど……。
「おばあさん! もういいわ」
「どうしたの急に」
「もういいの。わたし別の話を聞きたいの」
「別の話?」
おばあさんは驚いて聞き返しました。
「桃太郎はもうたくさんよ。鬼はもうたくさんよ!」
「どうしてなの?」
「いつも同じなんだもん!」
「同じじゃないでしょ」
「同じだもん!」
「いいえ。おばあさんはいつも読み間違えてるの。正しくないのよ」
そう言っておばあさんはお話の途中に戻ろうとします。
「知ってるもん! 最後まで知ってるもん!」
「いいえ。知らないはずよ」
どんぶらこっこ、どんぶらこっこ、どんどんどん……。
小さな読者は川辺にかけてまぶたを閉じていきます。
「ね。あなたはいつも夢の中だもの」
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おさがりの
煮っ転がしを
尋ね行く
犬のお話
知る人ぞ知る
(折句「鬼退治」短歌)