眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

バナナワナ・リフレイン

2020-11-12 05:36:00 | ナノノベル
 コアラの形の店構えは見覚えがあった。以前もここに来たはず。そして、少しの躊躇いを乗り越えて扉を開けたのだ。

「いらっしゃいませ」
 ここは世界各国のバナナを取り揃えた専門ショップだ。ほとんどが高級品で、その辺のスーパーではなかなか目にすることもできないものもある。へー、こんな色のバナナも……。と昔来た時も感心したものだと微かに記憶がよみがえる。それはこの魅惑的なバナナの香りのせいかもしれない。
 少し南国、少し火星、少し雨上がり、よし、これをもらおう。

「こちらは単調ではお売りしておりません」
 そう言って店員がバナナをコアラに引き渡す。コアラがぎゅっとバナナを抱きしめる。しばし匂いを嗅いで少し名残惜しそうに、店員にバナナを返すコアラ。

「プレミアいただきました!」

チャカチャンチャンチャン♪

 そう。こんなやり口だったな。で、そのあとは……。
 鐘が鳴らされ。バナナの価値が跳ね上がる。

「15万?」

チャカチャンチャンチャン♪

「警察だ! 全員その場から動くな!」
「私はただの客です」
「この男が店長です!」
 スタッフ一同が一斉に私の方を指す。

「またお前か!」
 そうだ。思い出すのが遅すぎる。
 私はここに来る度に捕まってしまうのだった。

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観光旅行

2020-11-12 01:22:00 | 幻日記
 総合的、俯瞰的な観点から考えて、私は言葉をより遠くへ運んでいく必要に迫られていると言うことができる。より多くの人へと届けられるように、言葉には何よりも多様性が必要であると認めざるを得ない。ある時、言葉は好奇心あふれる犬のようにボールを追って駆け、また別のある時には、猫のように果敢に木に登って星を見上げる。待ちわびる者と一緒になって遊び、時には人を置き去りにして、不安の中に引きずり込むこともあるだろう。言葉は私の中でコントロールされるように見せかけて、いつでも隙を見つけては故郷にかえろうとする。
 思うようには進まない。突然起こる大渋滞に心を折られそうになったことは何度もある。どうすれば言葉を強く前へ運んでいくことができるか。その方法を私は日夜探究しながら、歩いているのは未だ深い霧の中のようでもある。言葉の多様性を、多くの人に届けようとする時に用いる一方で、どこか狭いところになお深く届けようとした場合、言葉はどうあることが望ましいと言えるのだろうか。私は私なりに言葉の運び手であろうとするが、客観的に見て今現在のところ、多くのところまで届いたという手応えは感じられない。

「これが仕事だ」
 本当は胸を張ってそう言いたいが、「素敵な趣味ですね」と言われ苦笑いするのが今の私であるようだ。
 ならばこれは(観光旅行)に違いない。

コメント (2)
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正しいおばあさん

2020-11-12 01:00:00 | 忘れものがかり
おばあさんの気がかりは
通帳の残高
ありあまるほどあっても
それほど気になるものか
歳を取るにつれ
だんだん普通でなくなって
「突然減った」
「誰かに盗み取られている」
おかしな妄想を抱くようになった

あれから世の中は変わり
今では何が起きてもへんじゃなく
おばあさんは正しいのだ


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ウォーキング

2020-11-12 00:47:00 | 【創作note】
 久しぶりに2キロほど歩いてみた。昔は3キロ4キロと週に何度も歩いたものだった。長い距離を歩くとなると寒くても暑すぎても好ましくない。歩いた後で入る屋内との温度差も問題の1つだ。今くらいの季節はちょうどいい。歩くことは面白い。歩くにつれて景色が変わり、風をあび、人や犬とすれ違う。

(何かから逃げられる) 

 そんな感じがするところもよい。夕暮れともなると徐々に街の色も変わって行く。それはまた面白い。
 スーパーの3階に着いた。コーヒーカップが大きい。天井からジャズ。

(こんなだったか……)

 大音量。見覚えのある壁画、見覚えのない店員。流石にそうか。
 いつもの癖でイヤホンをして好きなプレイリストを再生するが、違和感がある。人の話し声は消えても、天井からのジャズを消し切れない。その内に頭が割れそうになってきた。
 ドアの向こう側の広い世界にも行ってみたいが、煙たいだろうか。

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