「あとは頼むぜ!」
「任せとけ!」
ピッチを去るボランチから俺はキャプテンマークを引き継ぐ。
ん? 留まらないぞ。
ちゃんと留まらない。
「ホッチキス持ってきて!」
「駄目だ! 手でどうにかしろ!」
四苦八苦しながら、俺はどうにかキャプテンとなってピッチに駆け出して行く。リードしている試合をそのままちゃんと終わらせること。それが遅れて入ってきた俺の役目だ。若くはない。だけど、数え切れないほどの経験がある。苦い経験から学習を重ね、俺はより確実性のあるプレーを磨き込んできたのだ。
「痛い! いたたたたたー! あいつにやられた。10番だ! キラーパスに刺された!」
俺はピッチ中央で倒れ込む。
笛が鳴ってプレーが止まり、審判が駆けつける。
「VARを! しぬー!しぬー! ちゃんと見てくれ!
故意だ! 絶対故意だって!」
判定はグレー。カードは出なかったが時間はかなり削れた。ナイスプレー!
「痛い! まだちょっと痛むぞ! 大丈夫。自分で歩ける。
そうだキーパー。やっぱりキャプテンマークはキーパーに!
おいキーパー! 俺の中ではやっぱりお前しかないぜ!」
俺はゆっくりとゴールマウスへ向いて歩いて行く。とてもゆっくりだ。まだ完全じゃないからね。一歩一歩。俺の確実にすぎる歩みによってアディショナルタイムは吸い取られていく。そして、ついに主審がお手上げのジェスチャーをみせ、同時に終了の笛が鳴り響いた。
俺がピッチ上に倒れ込むところが、ラストシーンだ。
fin.
観客はまだ席を立たず、オーロラビジョンに流れるエンドロールをみつめている。俺の名前は、監督の1つ前だ。