「何か特技はありますか」
求めに応じて歌い出す者、踊る者、楽器を弾く者、空手の形をみせる者、剣玉をする者、物まねをしてみせる者。みんな周到に準備してきたようだ。今回のオーディションにかける意気込みが感じられる。
「何か特技をみせてもらえますか」
いよいよ僕の番がやってきた。
「何もありません!」
わからないことはわからない。できないことはできない。無理せず、背伸びせず。それが我が道というもの。
「高いところから飛び降りたりできます?」
「できません」
猫ならみんなができると思うなよ。
「おでんとか上手に食べれます?」
はあ? 誰に言ってんだい!
「できませーん」
それから似たようなリクエストが続き、正直僕は答えるのもうんざりだった。何か違うね。全然違うね。
「できませーん」
できません、できません、できませーん!
「ああ、そうですか……」
長い机の向こうから冷たい目を向けていた。
監督はまだ僕の力をわかっていないな。
(僕の本当の力はまだここではみせられないんだよ)
「じゃあ、次の人」
・
「ほんのワンシーンに出してくださいな」飛び込む猫の気まぐれ志願
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/01/706b508391bb36e356df7f70a89c8426.jpg?1730031930)