昔々、あるところに山に芝刈りにばかり行くおじいさんと、健やかなおばあさんがいました。おじいさんは、毎日のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈ってばかりでした。これでもかこれでもかと刈り続けられては、普通ならば音を上げるようなところですが、芝はそれでも負けずに逞しく生えてくるのでした。「ほどほどにね」とおばあさんが言うとおじいさんは少し機嫌を悪くしました。「そんなこと言わんでもええ」ぼそぼそとおじいさんは言いました。「駄目とは言ってません。ほどほどに」おじいさんは黙って山に芝刈りに行きました。おばあさんは、清く正しく川に洗濯に行きました。
おばあさんは、川に着くと洗濯物を広げました。風呂敷いっぱいの汚れ物です。汚れはどれもこれも頑固なものばかりで、まるで凝り固まった大臣のようでした。おばあさんは洗濯板に向かってゴシゴシと汚れを退治しました。ゴシゴシゴシゴシとまるで手を緩めることができません。ゴシゴシまだまだこりゃテコでも勝てんわ。
どんぶらこ♪
どんぶらこ♪
その時、上流から何やら桃めいたものが流れてきましたが、洗濯に夢中なおばあさんは、勿論それに気がつきませんでした。
ゴシゴシ♪
ゴジゴジ♪
ゴシゴシ♪
ガジガジ♪
気づいてもらわねばなきも同然。桃めいたものはそう思っておばあさんの気を引こうとしました。
どんぶらこ♪
どんぶらだぼーん♪
どんぶらこぼちゃーん♪
どんぶらこ♪
どんじゃらろーん♪
どんぶらじゃーん♪
こっちだどんぶら♪
どんぶらこぼちゃーん♪
どんぶらげ♪
どんぶらざんげ♪
こっちだばあちゃーん♪
どんぶらどろーん♪
どんぶらどんぶらどんぶら♪
どんどんどんどんどんぶーらぶら♪
どんどんどんどんどんぶらーぶらら♪
どんぶぶぶぶぶどんぶらこぼちゃーん♪
そうしてリズムを変えながら、桃めいたものはおばあさんの注意を引きつけようとしたのでした。
ゴシゴシ♪
ゴジゴジ♪
ゴシゴシ♪
ガジガジ♪
しかし、おばあさんは今はそれどころではありません。頑固な汚れ物にガジガジと食いついていました。何があっても決して離れない。強い決意が洗濯板の上に満ちていたのでした。おばあさんこそがガジガジ流の使い手だったのです。