「そんなところで読んでいると目が悪くなりますよ」
どんなところだったか思い出せない。忠告も無視したくなるほど引き込まれていた。読んでいると誰かがまた別の本を薦めてきた。
「この本を読んでいる人は、こんな本も読んでいます」
他人の意見を素直に聞くことは苦手だった。あんまりしつこいので時々は誘いに乗ってみた。案外に自分の好みに近かった。一度乗ると抵抗は薄れて乗りやすくなった。おかげで選択の幅は広がったかもしれない。躓くこともあった。
「この本で躓いた人は、こんな本でも躓いています」
親切な人がいて苦手な方角についても教えてくれた。躓くことは少なくなって、飛ばし読みもできるようになった。
「この本を読む人は、読みながらこんなお菓子を食べています」
本を読んでいる間、脳は本の中に取り込まれているが、完全にそうではない。口だって自由だった。
薦められるままに色んな菓子に手を伸ばすようになった。
「このお菓子に手が伸びた人は、こんなお菓子にも手が伸びています」
甘い言葉に乗っかると次々と世界中から菓子が届いた。菓子は日々進化して誘惑に終わりはない。
「そんなところで寝ていると牛になりますよ」
理屈は理解できなかったけれど、前例があるというので無視はできなかった。
「この本を読みながらこんな菓子を食べている人はこんなベッドでも眠っています」
最新のベッドは高価なだけあって眠り心地は最高だった。これでずっと、人間のままでいられるんだ……。
「この海を越えた人は、こちらの海も越えています。みんな人を殺しています。こんな人もこんな人も殺し合っています」
戦争が始まっていた。
本を読んでいただけなのに、始まる時には始まるんだ。
枕元のスイッチを押せば、さようなら。
僕のベッドは星を離れて飛んで行ける。
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