眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

即興握りカウンター

2022-07-23 02:55:00 | ナノノベル
 冠の光に惹かれて入ってみた。そこはカウンターだけの小さな店だった。腕に覚えのある大将がその日の閃きで握ってくれる。
「何か苦手なものはございますか?」
 事前の配慮も気が利いている。
「角がちょっと」
「ほー、角ですかい」
 あいつの斜めの動きはいつになっても慣れはしない。日常に存在するものは、みんな横か縦にきちんと動くものだ。
「飛車が一番好きです」
「みんな言われますね」
 いつになっても飛車がかわいい。
「7手詰くらいからいきましょうか?」
 なかなか挑戦的な大将だ。はい、と言いたいところだが。
「5手でお願いします。ひねりの利いたので」
「喜んで!」
 大将は駒箱に手を突っ込んで、一握りの駒をつかんだ。
 さあ、これで行くか。

チャカチャンチャンチャン♪

「あいよー! お待たせ」
 出てきたものを見て私はぎょっとなった。
 角が、角が2枚もいるじゃないか!
「こ、これは……」
「拝見するに、お客さんは上達を望んでらっしゃる」
「どうしてわかるのですか?」
「ずっと見ていると見えてくるんですよね」 
 大将の眼力には舌を巻くばかりだった。

「まいりました」
「角を握ったのは私の手じゃない」
「えっ?」
「お客さんの向上心が握らせたんだ」
「はい!」
 1分ほど眺めているが狙いが読めない。目がチカチカしてきた。

「ヒント出しましょうか?」
「いえ、結構」
 私は少し悩みたい気分だった。
「ごゆっくりどうぞ」
 いやー……。これはなかなか。


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