「ニッポンから……」
ニッポンと聞くと数歩離れて二人で何やらひそひそと話し始めた。
「こちらへどうぞ」
薄暗い待合室に通され待つことになった。普段使いされている部屋とは違うどこか独特の匂いを感じる。お茶も新聞もなく退屈だ。人がやってくる気配もまるでない。もう30分、あるいはそれ以上だろうか。私は立ち上がって入り口まで歩いた。ドアが開かない。向こうから鍵がかかっているのだ。
「おい! どうなってるんだよ!」
強くドアを叩いても反応がない。
「おい! おーい!」
「慌てなさんな」
「あなたは……」
部屋の隅で老人はうずくまっていた。
(まるで気配がしなかったのに)
「もう今日で一週間じゃ」
やはりニッポンから来たようだ。老人は不思議と落ち着いた様子だった。何か事情を知っているのか。
「冷蔵庫がある」
中の物は自由に食べていいようだ。それにしても一週間とは長くないか……。
「缶詰もあるぞ」
「はあ」
これはいったいどういう状況だ。
「お待たせしました。お部屋の支度が整いましたので」
「あー」
ここを出られるのだと思うと全身の力が抜けた。
「さあ、どうぞ」
「でも、先にお待ちの方が……」
「えっ?」
女は驚いたような声を出した。
私は振り返って見た。老人がいた場所には時計があった。まだ、15分しか経っていない。ドアはずっと開いていたのかもしれない。
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