根岸へ向かう途中で読みふけっていたこの本。
山本睦先生著「イギリスの道(フォトジェニックな英国記号論)」は、面白い本だった。ちょっと書き方が難しいんだけど、いろんなところに着目されていて、画像数も多い。
表紙の写真も中に出て来る。
山本先生は画像の左手を歩く老紳士に注目している。
下の画像に説明があるよ。
もう一冊ご紹介。
読みやすく品の良い文章を書く林望(リンボウ)先生の著書で「愛詩てる。」。
日本語に細かいリンボウ先生にしては、ほとんどダジャレみたいなタイトルだね(笑)。
以前読んだことがあるはずの本なんだが自宅にはなかったので、Amazonで中古本を購入。もう書店では扱われていない。
北九州市戸畑区の古書店にあった。なんと150円だ。
この本は様々な歌詞をリンボウ先生が分析し、それを褒め称えたり、酷評したりするという変わった本なのである。
ユーミン(当時荒井由実、現在の松任谷由実)の「海を見ていた午後」の歌詞はリンボウ先生により絶賛されている。
その歌詞に出て来る「ドルフィン」という名のレストラン(↑)。
荒井由実で海を見ていた午後をどうぞ♪
じっくり歌詞をご覧になりながら、聴いてください。
あなたを思い出す この店に来るたび
坂を上って きょうもひとり来てしまった
山手のドルフィンは 静かなレストラン
晴れた午後には 遠く三浦岬も見える
ソーダ水の中を 貨物船が通る
小さなアワも 恋のように消えていった
あの時目の前で 思い切り泣けたら
今頃二人 ここで海を見ていたはず
窓にほほをよせて カモメを追いかける
そんなあなたが 今も見える テーブルごしに
紙ナプキンには インクがにじむから
忘れないでって やっと書いた 遠いあの日
ユーミンの歌は聞いていて心地よいものが多いとリンボウ先生はまず褒めるのだが、リンボウ先生が着目するのは特にユーミンの作詞能力であるらしい。
リンボウ先生はこの詞を最初から最後まで詳細に紹介しながら、それがなぜすごいかをわかりやすく解説してくれる。
リンボウ先生はこの歌ひとつに何ページも割いていて、いちいちここに解説していられないが、関心ある人は150円程度で古本を見つけ買って読んでみてください。酷評されている歌は酷評されているが、この歌はべた褒めだ。
私もその解説を見ながら、山手のというか根岸のドルフィンを数日前に歩いたことを思い出し、改めてユーミンはすごいなと思うのだった。
この日は妻が用事で外出、私も用事で別のところへ外出。
私が二人分の弁当を購入して帰り、やがて妻も帰り、それから弁当でランチ。自分で作らなくていい、考えなくていいというのは楽だわ。
ランチを作るには、まず何を作るかを考え、自宅でそれを作るにあたり、足りない材料があるかどうかを考え、足りないものがあればお買い物リストを作り、買い物に出かけ帰宅し、ランチの調理プロセスを考えながら洗ったり切ったり加熱したり調合したりしないといけない。そしてその長いプロセスの途中には細かな手違いが時々発生し、それを取り返すべくなんだかんだと苦労して、最後にはなんとか料理を仕上げるのである。
何を作るかを考えることからスタートするこの長い作業は、かなり頭を使い手も器用に動かして相当高度なものだ。自宅で自分のためにすることだから誰からも時給は払ってもらないが、鎌倉市内で見かけるアルバイトよりも複雑なお仕事かもしれない。一般的に女性に比べて不器用と言われる男性こそ、そして特に鈍くなって来ている私のようなシニアなおっさんが日々親しむと特に有意義であると思われるのが料理である。
ところが弁当を買うと、その複雑なお仕事が一気になくなり、ただカネを支払うだけで、完成品の食べ物が手に入るのである。こりゃ楽だ。
でまたリンボウ先生の本の話に戻る。
因みにリンボウ先生により酷評されている歌の中には、小坂明子さんの大ヒット曲あなた♪(↓)がある。
リンボウ先生は「この歌の言おうとしていることが何であるのか、理解できない」とまで書いている(笑)。
歌詞の最初の「もし~したなら、~したでしょう」は「もし私が鳥であったなら、楽しく空を飛べたであろうに」のように、現実の状態を不満足とし、それを逆の形で表現するやり方だとリンボウ先生はおっしゃる。
したがって「もしも私が家を建てたなら、小さな家を建てたでしょう」と小坂明子さん言うのであれば、小坂さんは現実にはすでに大きな家に住んでいて、その大きな家に住んでいることを不満足に思い、「もし私が家を建てたなら、こんな大きな家ではなくって、小さな家を建てたのになぁ・・・」とその大きな家の中で小坂さんが溜息まじりに夢想していることを意味すると、リンボウ先生は説明する。そしてそんな大きな家を建ててしまった(あるいは買ってしまった)のは、それを望まない小坂さん自身ではなく、彼女が繰り返し歌い上げる「あなた」その人であろうと。
夢見る若い女性の歌について、真逆の悲惨さで迫るリンボウ先生の解説(笑)。
リンボウ先生によるこの歌についての酷評はつづく。
「小さな家」には「大きな窓」があり、それと対照的に「小さなドアー」が付いているらしい・・・なんとなくバランスがおかしく、どこか現実離れして・・・
と、もうボロボロだ。
私はリンボウ先生の長い解説を読んでいて噴き出してしまうのだった。
念のためにそれを聴いてみようという方はどうぞ♪
小坂明子であなた♬