
照る日曇る日第704回
著者とおなじく医師であり詩歌の人であった杢太郎の足跡を、あるときは鷗外、龍之介、あるときはホフマンスタール、またあるときは宮廷のご進講なぞに寄り道しながらとぼとぼと辿ってゆく。
のではあるけれど、そのおぼつかなげにみえて、率直で、真摯で、言葉の最良の意味においてアマチュア的な歩みっぷりに、限りなく魅了されるという不可思議な味わいを持つ独特の書物である。
鷗外によって本邦に紹介され、シュトラウスのオペラ「薔薇の騎士」「影のない女」の台本も書いたこの早熟の詩人兼脚本家を、なぜだか若き日の杢太郎は愛していたらしい。
しかし彼は、みずからの詩集「食後の唄」を発表することによって、おもむろにその影響を脱し、別乾坤を立ち上げてゆくのであるが、その長い長い迂路を、(おそらくホフマンスタールなぞ好きでもないにもかかわらず)、なぜだか杢太郎の虜になってしまっている老詩人は、執拗に、しかし時折舌舐めずりしながら、つまりはこのうえない老後の愉しみとして、杢太郎その人にひしと寄り添うのである。
本書の表題を「評伝」とせず「を読む日」としたのは、おのれを励ますためであり、命の続く限り続編を書き続けたい、と後記する86歳の著者の健康と健筆を、こころから願ってやまない。
なにゆえに桜が散っても春が来ぬ STAP細胞はあるのだろうか? 蝶人