あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

スティーヴン・フリアーズ監督の「あなたを抱きしめて」をみて

2014-05-15 09:14:48 | Weblog


bowyow cine-archives vol.642


なんという安易な邦題だろう。原題は誘拐された息子を探す母親(ジュディ・デンチ)の名である「フィロミナ」で、どうしてこんな訳の分からぬタイトルがつけられているのかさっぱり分からない。そのままでいいじゃあないか。

10代の行きずりの恋で妊娠したアイルランド人のヒロインが修道院に入れられ、そこで生まれた男児を取り上げられてしまう。

この修道院がそういう子供たちを養子にしたい米国人に売り渡していたことを知った元官僚の不遇のジャーナリスト(スティーヴ・クーガン)がヒロインとともに男児の行方を捜すうちに50年前の真実が次第に明るみに出てくるというロードムービーでもある謎とき映画なのだが、その売却事件も登場人物もすべて最近の実話であるというから驚くほかはない。

いやしくもカトリックの修道院ともあろう神聖なる組織が、家なき子を強制労働に従事させたり、肉体女優のジェーン・ラッセルに養子として売却したり、そういう不正商行為の証拠を隠滅するために放火までしたりしているとは、じつにけしからん話である。

けれども怒りと正義感から行動するジャーナリストの荒ぶる魂が、老境に達して人世の辛酸をなめ尽くした母親の博愛と悟達の精神におもむろに感化されてゆく辺りが、見どころと言えば見どころだろうか。


なにゆえに三白眼と猫背になりしや長ずるに及んで自恃を無くした 蝶人


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