
そんな私のここだけの話op.215&鎌倉ちょっと不思議な物語第361回
原節子嬢が9月5日に95歳で亡くなっていたというニュースを聞いて、ああついに来るべきものが来た、という感慨に襲われた。このひとだけはいつまでも死なないのではないかとひそかに考えていたのだが、天網恢恢そうは問屋が卸さなかったのである。
原節子という人は詰らない作品の詰らない役にもたくさんでており、必ずしも演技がうまかったとは思わないが、小津をはじめ成瀬、黒澤両監督のメガフォンに助けられ、その存在自体が既に何者かであるというような希少な価値を獲得するに至っていたかけがえのない俳優のひとりであった。
晩年は私の家にほど近い浄明寺の隣に隠棲しておられたので、時々散歩がてら生垣の向こうの離れを覗きこんでみたが、それらしい人影はついに見当たらなかった。
これで日本映画史は最終コーナーを回り、とうとう日本の大女優はひとりもいなくなってしまったことは淋しさの極みである。
「わたし悪いんです。悪い女なんです」原節子は永遠に死なない 蝶人