苦境と模索 眼鏡の里 福井・鯖江③
悲願の自社ブランド
「鯖江はある意味、取引先や流通業者のいいなりの眼鏡枠を作ってきました。これを転換するために私たちは今、『自社ブランド』を持つ努力に産地をあげてとりくんでいます」。福井県眼鏡協会の坂野登二専務理事はいいます。市内の眼鏡枠メーカーでは自社のブランド名を付けて販売できる製晶を持つ企業はわずか。国内外のブランド企業から委託を受けて下請け生産(OEM)する企業が大半です。
量販店が台頭
1990年代以降、国内ではアジアとくに中国産の低価格製品を売る量販店が台頭。価格競争が激しくなり、産地も出荷価格の厳しい引き下げを求められ、ときには採算を割ることさえありました。県眼鏡協会は、自ら設置・運営する「めがねミュージアム」(眼鏡会館)に今年3月、産地企業による自社ブランド品の展示場を開設しました。県、市が資金を支援しました。鯖江市中心街に近い同展示場。柔らかい照明を受けて、産地メーカーによる新しいデザインの眼鏡枠が多数展示されています。透きとおったワイン色や淡いグリーンの樹脂にメタル装飾をあしらったファッション性の高いもの、丸型の黒い枠で昔流行したロイド・メガネの復活版や竹製の枠などが並びます。訪問者は観光客も含め平均月5000人。「『眼鏡ってすてきなんですね』『こんな眼鏡もあったんですね』などの感想が寄せられるんです」と笑顔で語る坂野さん。市内ではメーカーによる自社ブランドづくりへの努力が続けられています。
県眼鏡工業組合副会長の長井正雄さん。政府の新製品開発支援施策に応募して認定され、カーボン(炭素繊維)の眼鏡枠を開発中です。自社ブランドヘの思いについて長井さんはこういいます。「私たちはOEMの製造で鍛えられ、良質の眼鏡を造る高い技術を持つことで発展してきました。しかし、OEMは“待ち”の生産。低コスト国に委託が移ると私たちにはどうしようもありません。自社ブランドしかわれわれの生きる道はないのです」
もっと支援を
自社ブランドは産地の悲願です。しかし、自社ブランドヘの道は容易ではありません。コ企業では乗り越えられないことも多い。政府がもっと支援してほしい」と長井さん。開発支援についても自己負担(企業負担)が2分のーあり、二の足を踏む企業も多く、全額支援ができないものかと、と長井さんは望みます。デザイン学校の開催や販売・宣伝企画への助言、資金支援なども求めています。産地が力を入れているのが「THE291」(291は「フクイ」をもじったもの)です。高品質と優れたデザインを持ち、デザイナーや大学機関などによる審査に合格した製品に認められる産地の統一ブランドです。自社ブランドヘの思いは小さなメーカーも例外ではありません。市北部地域で家族を中心にした従業員3人のメーカー経営者はいいます。「受注が減って納入先の問屋さんも元気がない。でもこういう時だからこそ、独自のデザインで自社ブランドに挑戦したい。アイデアはあるんです」眼鏡枠づくり100年を支えてきた鯖江の新しいものづくりに挑戦する志は生きています。(つづく)
■OEMとライセンス契約鯖江の産地メーカーの多くはOEM(委託受注生産)企業として発展してきました。OEMは、メーカーが依頼を受け、納入先のブランド名で製品を生産します。完成品の所有、販売権はメーカーにはありません。一方、ライセンス契約では、ブランド名や製造技術などの使用許可料を払うことで契約の範囲内での販売ができます。OEMでは独自に市場には入れず、ライセンス契約も厳しい制約があるため、メーカーは「ハウスブランド」(自社ブランド)による市場への直接的な参入を望んでいます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2010年12月10日付
一所懸命、眼鏡のフレームを造っても、美味しいところを大手メーカーが取っていくのって確かに悔しいですよね。
メガネ屋さんの店頭に、鯖江の自社ブランドが並ぶといいですね。
悲願の自社ブランド
「鯖江はある意味、取引先や流通業者のいいなりの眼鏡枠を作ってきました。これを転換するために私たちは今、『自社ブランド』を持つ努力に産地をあげてとりくんでいます」。福井県眼鏡協会の坂野登二専務理事はいいます。市内の眼鏡枠メーカーでは自社のブランド名を付けて販売できる製晶を持つ企業はわずか。国内外のブランド企業から委託を受けて下請け生産(OEM)する企業が大半です。
量販店が台頭
1990年代以降、国内ではアジアとくに中国産の低価格製品を売る量販店が台頭。価格競争が激しくなり、産地も出荷価格の厳しい引き下げを求められ、ときには採算を割ることさえありました。県眼鏡協会は、自ら設置・運営する「めがねミュージアム」(眼鏡会館)に今年3月、産地企業による自社ブランド品の展示場を開設しました。県、市が資金を支援しました。鯖江市中心街に近い同展示場。柔らかい照明を受けて、産地メーカーによる新しいデザインの眼鏡枠が多数展示されています。透きとおったワイン色や淡いグリーンの樹脂にメタル装飾をあしらったファッション性の高いもの、丸型の黒い枠で昔流行したロイド・メガネの復活版や竹製の枠などが並びます。訪問者は観光客も含め平均月5000人。「『眼鏡ってすてきなんですね』『こんな眼鏡もあったんですね』などの感想が寄せられるんです」と笑顔で語る坂野さん。市内ではメーカーによる自社ブランドづくりへの努力が続けられています。
県眼鏡工業組合副会長の長井正雄さん。政府の新製品開発支援施策に応募して認定され、カーボン(炭素繊維)の眼鏡枠を開発中です。自社ブランドヘの思いについて長井さんはこういいます。「私たちはOEMの製造で鍛えられ、良質の眼鏡を造る高い技術を持つことで発展してきました。しかし、OEMは“待ち”の生産。低コスト国に委託が移ると私たちにはどうしようもありません。自社ブランドしかわれわれの生きる道はないのです」
もっと支援を
自社ブランドは産地の悲願です。しかし、自社ブランドヘの道は容易ではありません。コ企業では乗り越えられないことも多い。政府がもっと支援してほしい」と長井さん。開発支援についても自己負担(企業負担)が2分のーあり、二の足を踏む企業も多く、全額支援ができないものかと、と長井さんは望みます。デザイン学校の開催や販売・宣伝企画への助言、資金支援なども求めています。産地が力を入れているのが「THE291」(291は「フクイ」をもじったもの)です。高品質と優れたデザインを持ち、デザイナーや大学機関などによる審査に合格した製品に認められる産地の統一ブランドです。自社ブランドヘの思いは小さなメーカーも例外ではありません。市北部地域で家族を中心にした従業員3人のメーカー経営者はいいます。「受注が減って納入先の問屋さんも元気がない。でもこういう時だからこそ、独自のデザインで自社ブランドに挑戦したい。アイデアはあるんです」眼鏡枠づくり100年を支えてきた鯖江の新しいものづくりに挑戦する志は生きています。(つづく)
■OEMとライセンス契約鯖江の産地メーカーの多くはOEM(委託受注生産)企業として発展してきました。OEMは、メーカーが依頼を受け、納入先のブランド名で製品を生産します。完成品の所有、販売権はメーカーにはありません。一方、ライセンス契約では、ブランド名や製造技術などの使用許可料を払うことで契約の範囲内での販売ができます。OEMでは独自に市場には入れず、ライセンス契約も厳しい制約があるため、メーカーは「ハウスブランド」(自社ブランド)による市場への直接的な参入を望んでいます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2010年12月10日付
一所懸命、眼鏡のフレームを造っても、美味しいところを大手メーカーが取っていくのって確かに悔しいですよね。
メガネ屋さんの店頭に、鯖江の自社ブランドが並ぶといいですね。