国際課税新ルール 意義と課題③ 力を集め最終決着へ
政治経済研究所理事 合田寛さん
7月の20力国・地域(G20)会議で示された合意は、2013年に始まった多国籍企業課税をめぐる国際協議の結果を示すものであり、現時点におけるその到達点を示しています。
歴史的な改革の入り口に立ち、大きな第一歩を踏み出したといえますが、「歴史的成果」を誇るにはまだまだ不十分です。
課税権をめぐる国家間の争いは、国際政治のパワーポリティクスに左右されます。グローバル化された今日の世界経済の中で、もっとも強い影響力を持つのは米・英を中心とする大国です。
米国ニューヨーク州にあるグーグル社のオフィス(ロイター)
大国の影響排除
公正な国際課税のルールの構築は、大国の支配的影響を排除し、先進国、途上国を問わず、すべての国が参加して取り組まれるべきものです。
そのためには第1に、主要7カ国(G7)やG20で大枠を決めるのではなく、すべての国が参加する国連に協議の場を移すことが必要です。それには、税に関する国連の資源や人材を強化する必要があります。
国連の税の協力に関する専門家委員会は今年4月、デジタル課税に関して、国連モデル条約に新条項を加えることに合意しています。それはデジタル企業に対して、所得が生まれた源泉国が支払い時に源泉税を課すというものです。
大国の影響力を排する第2の方法は、英米に対する対抗力を形成することです。欧州連合(EU)の独自の取り組みはそのために有効です。
今年6月、ヨーロッパ委員会が立ち上げた「EU租税観測所」は注目されます。これは脱税や税逃れなどの問題でEUの政策決定を支援する研究所で、この分野の著名な専門家であるガブリエル・ズックマンがキャップを務めています。
EU租税観測所は6月、法人税の最低税率に関するリポートを公表しています。同リポートは、最低税率について、15%、21%、25%の前提を置き、それぞれの税収を試算しています。
それによると、最低税率25%の場合、EU全体で1678億ユーロの税収が得られ、それは法人税収の52・3%に達するという試算を示しています。
リポートはEU以外の国の試算も行っており、米国の場合は1654億ユーロ(法人税収の43・9%)、日本の場合は287億ユーロ(法人税収の15・4%)の税収が得られると試算しています。
こうした試算はより高い最低税率の合意を得るために有益なものです。
第3に、各国が多様な対抗手段を講じることです。
現在約40カ国が導入している「デジタルサービス税(DST)」は、デジタル巨大企業の売り上げに課税する独自の課税ですが、G20合意は課税権の再配分と引き換えに、これを凍結・廃止することを求めています。
しかし課税権の再配分によって得られるわずかな税収と引き換えにDSTを廃止すれば、貴重な税収を失うことになります。
デジタルビジネスでは限界費用(生産量を1単位増やしたときに増える費用)がゼロに近く、売り上げは利益に近いと考えられるので、DSTには十分な課税の根拠があります。
新税制の導入も
他方、コロナ下で緊急な財源が求められているいま、新たな税制を導入するチャンスでもあります。
この6月、国際NGOタックス・ジャスティス・ネットワークのアドバイザーであるジェームズ・ヘンリーは、G7の各国に対して、金融取引税の創設を求める手紙を送っています。
手紙の内容は、“G7が合意した最低税率では貧困国にはほとんど効果がない。いまこそG7の取引所で取引されるすべての株式取引に0・1%の税率をかける金融取引税を創設し、生み出される年間500億ドルを途上国に配分すべきだ”というものです。
いずれにせよ、最終決着は10月のG20会議に持ち越されています。真に「歴史的」な成果を得るための知恵と力の結集が求められています。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年8月26日付掲載
公正な国際課税のルールの構築は、大国の支配的影響を排除し、先進国、途上国を問わず、すべての国が参加して取り組まれるべきもの。
国連の税の協力に関する専門家委員会は今年4月、デジタル課税に関して、国連モデル条約に新条項を加えることに合意。それはデジタル企業に対して、所得が生まれた源泉国が支払い時に源泉税を課すというもの。
現在約40カ国が導入している「デジタルサービス税(DST)」。デジタルビジネスでは限界費用(生産量を1単位増やしたときに増える費用)がゼロに近く、売り上げは利益に近いと考えられるので、DSTには十分な課税の根拠。
政治経済研究所理事 合田寛さん
7月の20力国・地域(G20)会議で示された合意は、2013年に始まった多国籍企業課税をめぐる国際協議の結果を示すものであり、現時点におけるその到達点を示しています。
歴史的な改革の入り口に立ち、大きな第一歩を踏み出したといえますが、「歴史的成果」を誇るにはまだまだ不十分です。
課税権をめぐる国家間の争いは、国際政治のパワーポリティクスに左右されます。グローバル化された今日の世界経済の中で、もっとも強い影響力を持つのは米・英を中心とする大国です。
米国ニューヨーク州にあるグーグル社のオフィス(ロイター)
大国の影響排除
公正な国際課税のルールの構築は、大国の支配的影響を排除し、先進国、途上国を問わず、すべての国が参加して取り組まれるべきものです。
そのためには第1に、主要7カ国(G7)やG20で大枠を決めるのではなく、すべての国が参加する国連に協議の場を移すことが必要です。それには、税に関する国連の資源や人材を強化する必要があります。
国連の税の協力に関する専門家委員会は今年4月、デジタル課税に関して、国連モデル条約に新条項を加えることに合意しています。それはデジタル企業に対して、所得が生まれた源泉国が支払い時に源泉税を課すというものです。
大国の影響力を排する第2の方法は、英米に対する対抗力を形成することです。欧州連合(EU)の独自の取り組みはそのために有効です。
今年6月、ヨーロッパ委員会が立ち上げた「EU租税観測所」は注目されます。これは脱税や税逃れなどの問題でEUの政策決定を支援する研究所で、この分野の著名な専門家であるガブリエル・ズックマンがキャップを務めています。
EU租税観測所は6月、法人税の最低税率に関するリポートを公表しています。同リポートは、最低税率について、15%、21%、25%の前提を置き、それぞれの税収を試算しています。
それによると、最低税率25%の場合、EU全体で1678億ユーロの税収が得られ、それは法人税収の52・3%に達するという試算を示しています。
リポートはEU以外の国の試算も行っており、米国の場合は1654億ユーロ(法人税収の43・9%)、日本の場合は287億ユーロ(法人税収の15・4%)の税収が得られると試算しています。
こうした試算はより高い最低税率の合意を得るために有益なものです。
第3に、各国が多様な対抗手段を講じることです。
現在約40カ国が導入している「デジタルサービス税(DST)」は、デジタル巨大企業の売り上げに課税する独自の課税ですが、G20合意は課税権の再配分と引き換えに、これを凍結・廃止することを求めています。
しかし課税権の再配分によって得られるわずかな税収と引き換えにDSTを廃止すれば、貴重な税収を失うことになります。
デジタルビジネスでは限界費用(生産量を1単位増やしたときに増える費用)がゼロに近く、売り上げは利益に近いと考えられるので、DSTには十分な課税の根拠があります。
新税制の導入も
他方、コロナ下で緊急な財源が求められているいま、新たな税制を導入するチャンスでもあります。
この6月、国際NGOタックス・ジャスティス・ネットワークのアドバイザーであるジェームズ・ヘンリーは、G7の各国に対して、金融取引税の創設を求める手紙を送っています。
手紙の内容は、“G7が合意した最低税率では貧困国にはほとんど効果がない。いまこそG7の取引所で取引されるすべての株式取引に0・1%の税率をかける金融取引税を創設し、生み出される年間500億ドルを途上国に配分すべきだ”というものです。
いずれにせよ、最終決着は10月のG20会議に持ち越されています。真に「歴史的」な成果を得るための知恵と力の結集が求められています。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年8月26日付掲載
公正な国際課税のルールの構築は、大国の支配的影響を排除し、先進国、途上国を問わず、すべての国が参加して取り組まれるべきもの。
国連の税の協力に関する専門家委員会は今年4月、デジタル課税に関して、国連モデル条約に新条項を加えることに合意。それはデジタル企業に対して、所得が生まれた源泉国が支払い時に源泉税を課すというもの。
現在約40カ国が導入している「デジタルサービス税(DST)」。デジタルビジネスでは限界費用(生産量を1単位増やしたときに増える費用)がゼロに近く、売り上げは利益に近いと考えられるので、DSTには十分な課税の根拠。