「人間の顔を持った」経済を目指して② いかに良い経営を成すか
一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン事務局次長 氏家啓一さんに聞く
昨年10月に公表された「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(以下「行動計画」)に関連して、今年の7月20日に推進円卓会議が設置されました。これは「行動計画」の進展状況を政府と利害関係者(ステークホルダー)で一緒に確認するための会議です
支援策どうする
7月26日に1回目の会合が開かれました。計画がつくられてから現在までの各省庁の取り組みについて報告され、各ステークホルダーからの意見を述べました。「行動計画」は初版ができたばかりです。課題は山積しています。
例えば、計画の進展をどのような指標を使って評価するか。そして、企業への支援策をどうするかなどです。「行動計画」は企業に対し責任ある行動をとるよう「人権デュー・ディリジェンスの実施を期待する」というところでとどめています。企業としては期待だけかけられても支援がなければ困ります。企業が何を望んでいるのか、実際にステークホルダーと政府で一緒に話し合いながら有効な支援を講じていくことが必要です。
欧州では、人権侵害の定期的な調査や、通報制度の整備をめぐり義務化・法制化が進んでいます。これが国際的な基準になりつつあるのです。私たちも、法制化を排除せずに議論する必要があると思っています。
大切なのは、企業に「いかに人権を守らせるか」ではなく、企業が「いかに良い経営を成すか」です。納得して行動しなければ意味がありません。これを重点的に考えるのが私たちの仕事だと思っています。
「行動計画」の特徴は「一人ひとりを当事者にする」ことです。
計画には「消費者の権利・役割」が盛り込まれています。これは企業だけでなく、消費者も変わる必要があるということです。企業は「どんな手を使っても安いものを作る」という商慣行を改め、正しい方法で良いものを作る。この商品を消費者が買う。こういう循環をつくろうというのが「行動計画」の狙いです。
そしてもう一つ重要なのが金融です。金融は企業経営のあり方を左右する大きな力をもっています。「行動計画」は、気候危機や人権問題などを重視するESG(環境・社会・企業統治)投資の動きを重視しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/b0/74817103eaff11649d22207b5b023fda.jpg)
キプロスで開かれた世界的な気候変動ストライキ集会でフラカードを掲げる子どもたち=2019年9月27日、ニコシア(ロイター)
拘束力ある条約
さらに国連では、14年以降、企業の人権侵害の防止に向け拘束力のある条約づくりが進んでいます。
国際的なルールづくりで重要なのは「公正な競争環境」です。これは、企業が正しい情報開示をすることによって正しい競争力を身に付けることを意味します。持続可能な開発への貢献を忘れ、安い労働力を求めて労働法制の弱い途上国に生産を移すことは認められないということです。国連の条約づくりの過程でも、世界中の国々で「生活賃金」を保障することが議題となっています。
また、われわれ「国連グローバル・コンパクト」は企業に対し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を経営戦略に盛り込むよう求めています。
「行動計画」の作業部会で、私は「政策の一貫性の観点からSDGsアクションプラン(行動計画)との整合性も大切だ」と進言しました。政策の一貫性は「行動計画」の重要なキーワードです。
人権もSDGsもトレードオフ(二律背反)の関係にあります。例えば、経済成長を追求するとエネルギーを消費し地球温暖化をもたらしてしまう。そういうことをきちんと見極めて行動するような計画づくりをしなければ結果として何も成就しないという趣旨で発言しました。
「行動計画」はまだまだ施策として不十分であることは否めません。ですが今回の計画は、政府とステークホルダーが対話をしてつくり、それが今後も進展状況と計画の更新を議論する会議で続く。これこそが「行動計画」の真の価値であると、私は思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月4日付掲載
大切なのは、企業に「いかに人権を守らせるか」ではなく、企業が「いかに良い経営を成すか」
企業は「どんな手を使っても安いものを作る」という商慣行を改め、正しい方法で良いものを作る。この商品を消費者が買う。こういう循環をつくろうというのが「行動計画」の狙い。
経済成長と地球温暖化対策を両立させるのもそのひとつ。
「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」にもその心が…。
それは、生活水準の悪化や窮乏生活を強いるものではない。新たな雇用を産み、GDPを押し上げ、持続可能な成長(SDGs)に道を開くもの。
一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン事務局次長 氏家啓一さんに聞く
昨年10月に公表された「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(以下「行動計画」)に関連して、今年の7月20日に推進円卓会議が設置されました。これは「行動計画」の進展状況を政府と利害関係者(ステークホルダー)で一緒に確認するための会議です
支援策どうする
7月26日に1回目の会合が開かれました。計画がつくられてから現在までの各省庁の取り組みについて報告され、各ステークホルダーからの意見を述べました。「行動計画」は初版ができたばかりです。課題は山積しています。
例えば、計画の進展をどのような指標を使って評価するか。そして、企業への支援策をどうするかなどです。「行動計画」は企業に対し責任ある行動をとるよう「人権デュー・ディリジェンスの実施を期待する」というところでとどめています。企業としては期待だけかけられても支援がなければ困ります。企業が何を望んでいるのか、実際にステークホルダーと政府で一緒に話し合いながら有効な支援を講じていくことが必要です。
欧州では、人権侵害の定期的な調査や、通報制度の整備をめぐり義務化・法制化が進んでいます。これが国際的な基準になりつつあるのです。私たちも、法制化を排除せずに議論する必要があると思っています。
大切なのは、企業に「いかに人権を守らせるか」ではなく、企業が「いかに良い経営を成すか」です。納得して行動しなければ意味がありません。これを重点的に考えるのが私たちの仕事だと思っています。
「行動計画」の特徴は「一人ひとりを当事者にする」ことです。
計画には「消費者の権利・役割」が盛り込まれています。これは企業だけでなく、消費者も変わる必要があるということです。企業は「どんな手を使っても安いものを作る」という商慣行を改め、正しい方法で良いものを作る。この商品を消費者が買う。こういう循環をつくろうというのが「行動計画」の狙いです。
そしてもう一つ重要なのが金融です。金融は企業経営のあり方を左右する大きな力をもっています。「行動計画」は、気候危機や人権問題などを重視するESG(環境・社会・企業統治)投資の動きを重視しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/b0/74817103eaff11649d22207b5b023fda.jpg)
キプロスで開かれた世界的な気候変動ストライキ集会でフラカードを掲げる子どもたち=2019年9月27日、ニコシア(ロイター)
拘束力ある条約
さらに国連では、14年以降、企業の人権侵害の防止に向け拘束力のある条約づくりが進んでいます。
国際的なルールづくりで重要なのは「公正な競争環境」です。これは、企業が正しい情報開示をすることによって正しい競争力を身に付けることを意味します。持続可能な開発への貢献を忘れ、安い労働力を求めて労働法制の弱い途上国に生産を移すことは認められないということです。国連の条約づくりの過程でも、世界中の国々で「生活賃金」を保障することが議題となっています。
また、われわれ「国連グローバル・コンパクト」は企業に対し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を経営戦略に盛り込むよう求めています。
「行動計画」の作業部会で、私は「政策の一貫性の観点からSDGsアクションプラン(行動計画)との整合性も大切だ」と進言しました。政策の一貫性は「行動計画」の重要なキーワードです。
人権もSDGsもトレードオフ(二律背反)の関係にあります。例えば、経済成長を追求するとエネルギーを消費し地球温暖化をもたらしてしまう。そういうことをきちんと見極めて行動するような計画づくりをしなければ結果として何も成就しないという趣旨で発言しました。
「行動計画」はまだまだ施策として不十分であることは否めません。ですが今回の計画は、政府とステークホルダーが対話をしてつくり、それが今後も進展状況と計画の更新を議論する会議で続く。これこそが「行動計画」の真の価値であると、私は思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月4日付掲載
大切なのは、企業に「いかに人権を守らせるか」ではなく、企業が「いかに良い経営を成すか」
企業は「どんな手を使っても安いものを作る」という商慣行を改め、正しい方法で良いものを作る。この商品を消費者が買う。こういう循環をつくろうというのが「行動計画」の狙い。
経済成長と地球温暖化対策を両立させるのもそのひとつ。
「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」にもその心が…。
それは、生活水準の悪化や窮乏生活を強いるものではない。新たな雇用を産み、GDPを押し上げ、持続可能な成長(SDGs)に道を開くもの。