goo blog サービス終了のお知らせ 

きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

国際課税新ルール 意義と課題① 「歴史的」な合意だが…

2021-09-01 07:12:52 | 経済・産業・中小企業対策など
国際課税新ルール 意義と課題① 「歴史的」な合意だが…
政治経済研究所理事 合田寛さん

イタリア・ベネチアで開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議(7月10日)で、法人税の国際ルールに関する合意が成立しました。国際課税に詳しい合田寛政治経済研究所理事に合意の意義と課題について寄稿してもらいました。

国際課税に関する議論はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など巨大IT(情報技術)企業を念頭に置いて進められてきたものです。多国籍企業の「課税逃れ」を封じるために、国際課税の新しいルールを取り決めようとしています。
会議の「声明」では今回の合意について「より安定的でより公正な国際課税制度に関する歴史的な合意を成し遂げた」と、その成果を強調しています。



米国ニューヨーク州マンハッタンの店舗の入り口に飾られているアップル社のロゴマーク(ロイター)

重大な問題含む
合意された内容には確かに「歴史的」な側面があります。しかしそれはきわめて不十分で、重大な問題をはらんでいます。両面を丁寧に検証する必要があります。
G20で合意された内容は①タックスヘイブン(租税回避地)に移転された多国籍企業の利益の再配分②国際的な最低税率の設定―という二つの柱からなっています。
GAFAなどデジタル巨大企業は、「国内に工場などの物理的拠点(PT)を持たない海外企業には課税しない」という現行の国際課税ルールの下で、高収益を得ながら多くの国で課税を免れています。インターネットを通じて海外の拠点からサービスを提供できるためです。
また、これらの企業の収益は特許権や商標権などの無形資産によるところが大きく、無形資産をタックスヘイブンなど低税率国・地域の子会社に移すことで、これらの国・地域に利益を移転し、課税を免れています。
このような利益移転を可能にしているのは、現行の国際課税ルールの基礎にある「アームズ・レングス原則」です。これは、多国籍企業グループ内の会社間取引に適用される価格は、市場で一般的に成立することが予想される価格によるべきだというルールです。
しかし無形資産には市場で一般的に成立する標準価格は存在しないので、多くの多国籍企業は無形資産を低税率国子会社に安価で譲渡し、その子会社に対する特許使用料(ロイヤルティー)などの支払いを通じて利益を移転してきました。
「物理的拠点なければ課税なし」ルールも、「アームズ・レングス原則」も、およそ1世紀前につくられた、現行国際課税ルールの基本的な土台とされている原則です。
このたびG20会議で合意された内容は、これらの原則に風穴を開ける突破口となるものです。「声明」が「歴史的な合意」とその成果を強調していることも、その限り、誇張ではありません。
合意された新ルールの第1の柱は、多国籍企業グループの総利益を合算した上で、一定の配分基準に従って総利益への課税権を各国に再配分するというものです。こうした考え方は従来の国際課税ルールにはありません。新しい国際課税ルールの実現に向かって踏み出した大きな一歩といえます。

恩恵一部国のみ
しかしその適用範囲が問題です。利益再配分の対象として合意された多国籍企業は、全世界での売上高が200億ユーロ(約2・6兆円)を超える企業です。該当するのは約100社程度の超巨大企業と見られます。
これまでの合意では売上高が7・5億ユーロ(約970億円)以上とされていたので、対象企業がさらに絞られたことになります。
しかも配分される利益額は利益率10%を上回る部分のうち、20~30%の範囲とし、その額を市場国(消費者のいる国)に売上高に応じて配分するというものです。
課税権の再配分の対象となる利益は、多国籍企業の総利益のごく一部にすぎず、残りの大部分の利益に対しては、現行の課税原則が適用されます。
配分される利益は約1000億ドルと見られますが、売上高に応じて配分されるので、その大半はG7を構成する大国に向かい、貧困国を含む多くの国にはほとんど恩恵がありません。
(つづく)(3回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年8月24日付掲載


「物理的拠点なければ課税なし」ルールも、「アームズ・レングス原則」も、およそ1世紀前につくられた、現行国際課税ルールの基本的な土台とされている原則です。
このたびG20会議で合意された内容は、これらの原則に風穴を開ける突破口となるもの。
しかし、再配分されるのはわずかです。配分される利益は約1000億ドルと見られますが、売上高に応じて配分されるので、その大半はG7を構成する大国に向かい、貧困国を含む多くの国にはほとんど恩恵がありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする