「人間の顔を持った」経済を目指して① 企業の負の影響 どう対処
企業活動をめぐり人権や環境分野での国際的なルールづくりが進んでいます。日本政府は2020年10月、「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(以下「行動計画」)を公表しました。一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)事務局次長の氏家啓一さんは策定に関わった一人です。この「ビジネスと人権」は、主義主張(イズム)を超えた指導原則のテーマだとして取材に応じてくれました。(聞き手・小村優)
一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン事務局次長 氏家啓一さんに聞く
一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)
2003年に発足した国連の日本組織。国連グローバル・コンパクトの10原則に署名した企業とともに持続可能な社会の実現に向けて活動。日本の署名企業・団体数は9月2日現在432。世界では1万8194の団体・企業が署名。
うじいえ・けいいち
1960年生まれ。理学修士。大手電機メーカーに30年間勤務しCSR担当責任者を務めた。2017年にGCNJ入局。現在、事務局次長。日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会」構成員。筑波大学非常勤講師。
経済活動は、市場を通して人々の暮らしを豊かにする一方、人権侵害や自然破壊、地球温暖化を引き起こしてきました。
1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で当時のコフィ・アナン国連事務総長は、グローバルな市場を「人間の顔を持った」ものにしようと訴え、人間を中心にした国際社会の構築を強調しました。ここで提唱されたのが「国連グローバル・コンパクト」です。企業が守るべき倫理として人権・労働・環境・腐敗防止に関する10原則を定めています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/19/d6778d871fc2cc057ac6036664e259ec.jpg)
新型コロナウイルス感染拡大防止のため設けられた仕切りの間で作業する縫製労働者たち=8月17日、ダッカ(ロイター)
救済策まで整備
国連は、人権侵害や環境破壊を引き起こす企業行動の負の影響を規制するため、08年に「保護・尊重・救済:ビジネスと人権のための枠組み」を、11年に「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)を採択しました。これらは三つの柱で構成されています。①人権侵害から保護する国家の義務②人権を尊重する企業の責任③救済へのアクセスーです。
③は救済するすべを国家も企業も持っておくべきだということです。義務や責任をいくら整備しても人権侵害は起きてしまいます。救済策まで整えることで企業活動による負の影響に有効に対処できるのです。
15年にドイツ・エルマウで開かれた主要7カ国首脳会議はこの「指導原則」を支持し、各国に行動計画の策定を推奨しました。これを受け欧州諸国は先駆的に計画策定と国内法の整備に着手します。
日本政府はエルマウ宣言から約2年半後の18年3月に現状把握調査(ベースライン・スタディー)をはじめ、私たちも利害関係者(ステークホルダー)として参加しました。約1年の調査を経て翌19年4月、政府のほぼ全ての府省庁が参加して計画策定のための作業部会と諮問委員会が設置されました。
ベースライン・スタディーおよび作業部会には、中小企業や労働者団体、市民社会、弁護士のほか、社会的マイノリティー(少数者)とされる方々の意見参加もありました。金融分野を代表して投資家も加わっています。
国際基準に準拠
新型コロナウイルス禍における人権への影響も組み入れるよう要求しました。多くの意見があり、活発な議論が展開されました。その際の前提となったのが、国連の「指導原則」と、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」です。
OECD指針は参加国の多国籍企業に対して、社会に期待される責任ある行動を自主的にとるよう勧告しています。この指針に関連して18年に「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンスの手引」が公表されました。デュー・ディリジェンスとは、人権リスクを特定し、予防や緩和措置を講じることを意味します。ここで重要なのは、国際的に認められた人権基準に準拠すること、そして責任を他に転嫁しないことです。
例えば、ある企業の供給網(サプライチェーン)の末端で児童労働や強制労働があった場合、「私たちには関係ない」とは言えないということです。
これらを念頭に議論を重ね、20年2月、「行動計画」の原案を策定。国民の意見公募(パブリックコメント)を経て、完成版が10月に公表されました。世界で24カ国目、アジア地域ではタイに続き2カ国目です。
(つづく)(2回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月3日付掲載
「儲かれされすればあとはどうなってもいい」という「野放しの資本主義」ではダメだと運動が広がっています。
①人権侵害から保護する国家の義務②人権を尊重する企業の責任③救済へのアクセスー。
重要なのは、国際的に認められた人権基準に準拠すること、そして責任を他に転嫁しないこと。
ある企業の供給網(サプライチェーン)の末端で児童労働や強制労働があった場合、「私たちには関係ない」とは言えない。
企業活動をめぐり人権や環境分野での国際的なルールづくりが進んでいます。日本政府は2020年10月、「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(以下「行動計画」)を公表しました。一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)事務局次長の氏家啓一さんは策定に関わった一人です。この「ビジネスと人権」は、主義主張(イズム)を超えた指導原則のテーマだとして取材に応じてくれました。(聞き手・小村優)
一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン事務局次長 氏家啓一さんに聞く
一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)
2003年に発足した国連の日本組織。国連グローバル・コンパクトの10原則に署名した企業とともに持続可能な社会の実現に向けて活動。日本の署名企業・団体数は9月2日現在432。世界では1万8194の団体・企業が署名。
うじいえ・けいいち
1960年生まれ。理学修士。大手電機メーカーに30年間勤務しCSR担当責任者を務めた。2017年にGCNJ入局。現在、事務局次長。日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会」構成員。筑波大学非常勤講師。
経済活動は、市場を通して人々の暮らしを豊かにする一方、人権侵害や自然破壊、地球温暖化を引き起こしてきました。
1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で当時のコフィ・アナン国連事務総長は、グローバルな市場を「人間の顔を持った」ものにしようと訴え、人間を中心にした国際社会の構築を強調しました。ここで提唱されたのが「国連グローバル・コンパクト」です。企業が守るべき倫理として人権・労働・環境・腐敗防止に関する10原則を定めています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/19/d6778d871fc2cc057ac6036664e259ec.jpg)
新型コロナウイルス感染拡大防止のため設けられた仕切りの間で作業する縫製労働者たち=8月17日、ダッカ(ロイター)
救済策まで整備
国連は、人権侵害や環境破壊を引き起こす企業行動の負の影響を規制するため、08年に「保護・尊重・救済:ビジネスと人権のための枠組み」を、11年に「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)を採択しました。これらは三つの柱で構成されています。①人権侵害から保護する国家の義務②人権を尊重する企業の責任③救済へのアクセスーです。
③は救済するすべを国家も企業も持っておくべきだということです。義務や責任をいくら整備しても人権侵害は起きてしまいます。救済策まで整えることで企業活動による負の影響に有効に対処できるのです。
15年にドイツ・エルマウで開かれた主要7カ国首脳会議はこの「指導原則」を支持し、各国に行動計画の策定を推奨しました。これを受け欧州諸国は先駆的に計画策定と国内法の整備に着手します。
日本政府はエルマウ宣言から約2年半後の18年3月に現状把握調査(ベースライン・スタディー)をはじめ、私たちも利害関係者(ステークホルダー)として参加しました。約1年の調査を経て翌19年4月、政府のほぼ全ての府省庁が参加して計画策定のための作業部会と諮問委員会が設置されました。
ベースライン・スタディーおよび作業部会には、中小企業や労働者団体、市民社会、弁護士のほか、社会的マイノリティー(少数者)とされる方々の意見参加もありました。金融分野を代表して投資家も加わっています。
国際基準に準拠
新型コロナウイルス禍における人権への影響も組み入れるよう要求しました。多くの意見があり、活発な議論が展開されました。その際の前提となったのが、国連の「指導原則」と、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」です。
OECD指針は参加国の多国籍企業に対して、社会に期待される責任ある行動を自主的にとるよう勧告しています。この指針に関連して18年に「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンスの手引」が公表されました。デュー・ディリジェンスとは、人権リスクを特定し、予防や緩和措置を講じることを意味します。ここで重要なのは、国際的に認められた人権基準に準拠すること、そして責任を他に転嫁しないことです。
例えば、ある企業の供給網(サプライチェーン)の末端で児童労働や強制労働があった場合、「私たちには関係ない」とは言えないということです。
これらを念頭に議論を重ね、20年2月、「行動計画」の原案を策定。国民の意見公募(パブリックコメント)を経て、完成版が10月に公表されました。世界で24カ国目、アジア地域ではタイに続き2カ国目です。
(つづく)(2回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月3日付掲載
「儲かれされすればあとはどうなってもいい」という「野放しの資本主義」ではダメだと運動が広がっています。
①人権侵害から保護する国家の義務②人権を尊重する企業の責任③救済へのアクセスー。
重要なのは、国際的に認められた人権基準に準拠すること、そして責任を他に転嫁しないこと。
ある企業の供給網(サプライチェーン)の末端で児童労働や強制労働があった場合、「私たちには関係ない」とは言えない。