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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

貿易と新自由主義③ 海外移転で責任逃れ

2022-03-03 07:08:35 | 経済・産業・中小企業対策など
貿易と新自由主義③ 海外移転で責任逃れ
アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子さん

―「自由貿易」を拡大して経済をグローバル化すればトリクルダウン(富める人から貧しい人へ富が滴り落ちる現象)が起きて貧困も格差も是正される、というのが新自由主義勢力の主張でした。
30~40年かけて世界中で「自由貿易」を推進した結果は、明らかにノーです。貧困と格差はますます拡大しています。貿易が「深刻でかつ長期的な悪影響を国民や経済にもたらすことがある」ことを、「自由貿易」を推進してきた国際機関も公式に認めざるを得ませんでした。(国際通貨基金・世界銀行・世界貿易機関の共同報告書「貿易を全ての人の成長の原動力とする」)

大企業に有利
もちろん、貧困と格差が拡大する要因には技術革新などもあります。しかし、「自由貿易」が重大要因の一つだということは国際的な合意事項になっています。
「自由貿易」がなぜ貧困と格差を拡大するかといえば、経済力と政治力の強い大国や大企業が有利になる仕組みだからです。農業を考えれば明白です。
米国の農業は、多額の補助金を得たうえ圧倒的に規模が大きい工業型ですから、安い農産物を大量に作り出します。他方、米国は「自由貿易」の中で他国に補助金や関税の撤廃を求め、自国の農産物をどんどん売り付けています。これは米国の勝手なルールであり、途上国や新興国からみればとんでもないダブルスタンダード(二重基準)です。
途上国の小農民は圧倒的に不利な立場で競争を強いられます。1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効した後、安いトウモロコシが米国から輸出され、メキシコの小農民は壊滅的な打撃を受けました。職を求めて米国に渡る不法移民が急増しました。その人たちがトランプ政権下で「来るな」といわれたのです。
環太平洋連携協定(TPP)や日本・欧州連合経済連携協定(日欧EPA)、日米貿易協定の発効により、日本にも安価な外国産の肉が大量に入ってきています。畜産農家はたいへん厳しい状況です。



米国アリゾナ州ユマでメキシコから国境を越えた後、国境フェンスのそばに立って待つ移民たち=1月22日(ロイター)

供給網の構築
―工業分野では何が起こりましたか。
「自由貿易・投資」協定の主要な目的の一つは多国籍企業のサプライチェーン(供給網)を構築することです。日本では「貿易イコール関税」という狭い理解が根強く残り、こうした側面が十分に論じられていません。多国籍企業は利益を最大化するために、人件費や地代の安い海外に生産拠点を移転します。多くの場合、海外の下請け企業に生産を外部委託して責任を回避します。そうすると原材料の調達から製造、販売、配送に至るサプライチェーンの中で、国境をまたぐ取引が頻繁に生じます。このとき多国籍企業にとって障害となるのが各国の税制や規制です。そうした障害を除去するとともに、知的財産権を保護して多国籍企業の利益を確保することが、TPPなど「自由貿易・投資」協定の重要な目標なのです。
大企業の国際移動が自由になった結果、人件費や税負担を切り下げる国際競争が起きています。日本を含む先進国では、製造業が海外に流出し、雇用が劣化しています。移転先の途上国や新興国では、多国籍企業の責任逃れが深刻な人権侵害を引き起こしています。
―新型コロナウイルス危機の下でサプライチェーンの労働者が切り捨てられました。
アパレル産業が代表的な例です。例えば、ネット通販最大手の米国企業アマゾンは洋服の自社ブランドを持ち、メーカーとしても活動しています。東南アジア諸国のアパレルメーカーに生産を委託しています。
コロナ禍で洋服が売れなくなると、アマゾンは以前出していた洋服の注文を突然キャンセルしました。委託先の現地メーカーは解雇通知書を何か別の書類と偽って女性労働者たちに提示し、無理やりサインさせました。そのことをもって解雇に同意したことにされ、労働者たちは「明日から来なくていい」といわれました。退職金も出なければ、給料も突然ストップされました。
雇用に責任を負わない多国籍企業が利益を独り占めする、あまりに不公正な経済構造です。国際的なNGOのネットワークは、アマゾンなど発注元企業の責任を問うキャンペーンを展開しています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月25日付掲載


「自由貿易」がなぜ貧困と格差を拡大するかといえば、経済力と政治力の強い大国や大企業が有利になる仕組みだからです。農業を考えれば明白。
新型コロナウイルス危機の下でサプライチェーンの労働者が切り捨てられました。アパレル産業が代表的な例。
コロナ禍で洋服が売れなくなると、アマゾンは以前出していた洋服の注文を突然キャンセル。委託先の現地メーカーは解雇通知書を何か別の書類と偽って女性労働者たちに提示し、無理やりサイン。
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