追い込まれつつ逃げ道探す 経労委報告を読む② 「生産性向上」と規制緩和
労働総研事務局長 藤田実さんに聞く
経団連「経労委報告」(以下、「報告」)は、「働き方改革」として労働時間問題にふれています。
企業自身の努力で長時間労働を短縮できる残業時間の「三六(さぶろく)協定」の見直しにはふみこまず、生産性の向上という前提条件をつけて「柔軟な働き方」の名で規制緩和を求める姿勢を示しています。
労働法制改悪反対などを掲げてデモ行進する全労連・国民春闘共闘の組合員ら=1月17日、東京都千代田区
「長時間」青天井
その最大の特徴は、「残業代ゼロ」制度である「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)の推進です。これは、労働時間と賃金の関係を切断して、労働時間規制から除外する労働者をつくりだし、「成果」を上げるために際限のない長時間労働に駆り立てるものです。
そもそも長い時間をかけて成果をあげても、生産性の向上にはつながりません。高プロによって企業が残業代を払わずに長時間働かせるほど、個別企業にとっては「生産性の向上」といえるかもしれませんが、労働者は疲弊し、マクロ経済にとって生産性は低いままです。8時間労働のもとで、いかに現在の付加価値を維持・増加していくか、に取り組んでこそ生産性は上がると思います。
高プロが「成果に応じて評価・処遇する」制度だというのはまやかしですが、成果主義それ自体も多くの問題を抱えています。目先の成果を上げやすい目標を設定する一方で、チーム作業を敬遠し、結局、業績が悪化するという矛盾が生まれるなど行き詰まりを見せています。
また高プロは、今のところ年収が比較的高い労働者を対象にしていますが、高収入だから労働時間規制を外していいというのは道理がありません。政府や経団連は、高収入の労働者は相対的に交渉力が強いなどといいますが、ありえない話です。年収が高くても、労働者は企業の指揮命令を受けて仕事をすすめなければいけません。
企画業務型裁量労働制の対象拡大も同様です。事実上裁量のない労働者にまで、労働時間規制が及ばず、際限のない長時間労働がすすむ危険性があります。
企業責任を転嫁
「同一労働同一賃金」にかかわっては、正規・非正規雇用間の待遇格差を合理化できるような説明に力を入れる姿勢です。格差を容認する政府の「ガイドライン案」にそって、待遇格差の理由を明確にするよう求めるものでしかなく、国際的に確立している同一労働同一賃金原則を普遍的な原則にしようという姿勢はありません。
また「報告」は、「非正規」という呼称を「避けるべきだ」と主張しています。これは非正規雇用の実態を覆い隠すものです。欧米でも非正規雇用は「非定型」「非典型」とされ、「定型」「典型」の労働ではないとされています。いくら呼称を変えても、実態が変わらない限り、非正規雇用はなくなりません。
有期雇用で5年を超えて働く労働者に無期雇用に転換される権利が4月から発生しますが、「報告」は「本格的にすすむ」と、まるで人ごとです。トヨタなどの大手企業が、無期転換を回避するための6カ月クーリング(雇用空白)期間を設定していることが問題になっています。経団連の責任として、本格的に無期転換をすすめるよう打ち出すべきです。
社会問題になっている若者の「使い捨て」で、「報告」は若者の離職率の高さを問題にし、離職の理由である労働条件や業務内容への不満については、入社前と後の「情報のギャップ」に求めています。しかし、問題は若者を使い捨てする企業の実態にあります。
私の大学の卒業生からも、パワハラ的なものを受けたという話が寄せられます。そこを無視して、「情報ギャップ」を防止するというだけでは、問題は解消されません。経団連は、若者、学生に責任を負わせるのではなく、企業の責任として若者の使い捨ては許されないという毅然(きぜん)とした姿勢を示すべきです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年2月14日付掲載
「柔軟な働き方」などといかにも労働者の立場に立ったような言い方をして、労働時間の規制を外す「高度プロフェッショナル制度」などは許されない。
「非正規」の呼び方を変えても、待遇の実態が変わらなければ同じだ!
労働総研事務局長 藤田実さんに聞く
経団連「経労委報告」(以下、「報告」)は、「働き方改革」として労働時間問題にふれています。
企業自身の努力で長時間労働を短縮できる残業時間の「三六(さぶろく)協定」の見直しにはふみこまず、生産性の向上という前提条件をつけて「柔軟な働き方」の名で規制緩和を求める姿勢を示しています。
労働法制改悪反対などを掲げてデモ行進する全労連・国民春闘共闘の組合員ら=1月17日、東京都千代田区
「長時間」青天井
その最大の特徴は、「残業代ゼロ」制度である「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)の推進です。これは、労働時間と賃金の関係を切断して、労働時間規制から除外する労働者をつくりだし、「成果」を上げるために際限のない長時間労働に駆り立てるものです。
そもそも長い時間をかけて成果をあげても、生産性の向上にはつながりません。高プロによって企業が残業代を払わずに長時間働かせるほど、個別企業にとっては「生産性の向上」といえるかもしれませんが、労働者は疲弊し、マクロ経済にとって生産性は低いままです。8時間労働のもとで、いかに現在の付加価値を維持・増加していくか、に取り組んでこそ生産性は上がると思います。
高プロが「成果に応じて評価・処遇する」制度だというのはまやかしですが、成果主義それ自体も多くの問題を抱えています。目先の成果を上げやすい目標を設定する一方で、チーム作業を敬遠し、結局、業績が悪化するという矛盾が生まれるなど行き詰まりを見せています。
また高プロは、今のところ年収が比較的高い労働者を対象にしていますが、高収入だから労働時間規制を外していいというのは道理がありません。政府や経団連は、高収入の労働者は相対的に交渉力が強いなどといいますが、ありえない話です。年収が高くても、労働者は企業の指揮命令を受けて仕事をすすめなければいけません。
企画業務型裁量労働制の対象拡大も同様です。事実上裁量のない労働者にまで、労働時間規制が及ばず、際限のない長時間労働がすすむ危険性があります。
企業責任を転嫁
「同一労働同一賃金」にかかわっては、正規・非正規雇用間の待遇格差を合理化できるような説明に力を入れる姿勢です。格差を容認する政府の「ガイドライン案」にそって、待遇格差の理由を明確にするよう求めるものでしかなく、国際的に確立している同一労働同一賃金原則を普遍的な原則にしようという姿勢はありません。
また「報告」は、「非正規」という呼称を「避けるべきだ」と主張しています。これは非正規雇用の実態を覆い隠すものです。欧米でも非正規雇用は「非定型」「非典型」とされ、「定型」「典型」の労働ではないとされています。いくら呼称を変えても、実態が変わらない限り、非正規雇用はなくなりません。
有期雇用で5年を超えて働く労働者に無期雇用に転換される権利が4月から発生しますが、「報告」は「本格的にすすむ」と、まるで人ごとです。トヨタなどの大手企業が、無期転換を回避するための6カ月クーリング(雇用空白)期間を設定していることが問題になっています。経団連の責任として、本格的に無期転換をすすめるよう打ち出すべきです。
社会問題になっている若者の「使い捨て」で、「報告」は若者の離職率の高さを問題にし、離職の理由である労働条件や業務内容への不満については、入社前と後の「情報のギャップ」に求めています。しかし、問題は若者を使い捨てする企業の実態にあります。
私の大学の卒業生からも、パワハラ的なものを受けたという話が寄せられます。そこを無視して、「情報ギャップ」を防止するというだけでは、問題は解消されません。経団連は、若者、学生に責任を負わせるのではなく、企業の責任として若者の使い捨ては許されないという毅然(きぜん)とした姿勢を示すべきです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年2月14日付掲載
「柔軟な働き方」などといかにも労働者の立場に立ったような言い方をして、労働時間の規制を外す「高度プロフェッショナル制度」などは許されない。
「非正規」の呼び方を変えても、待遇の実態が変わらなければ同じだ!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます