コロナ禍と資本主義 格差危機④ 問われる政府介入の正当性

コロナ禍と資本主義　格差危機④　問われる政府介入の正当性
２００８年９月１５日に米国の投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻し世界は、金融経済危機に直面しました。このとき、為政者の間で、資本主義制度のあり方をめぐり、議論が交わされていたのです。
イングランド銀行のカーニー元総裁は、１４年５月の講演でこう指摘しました。
―すべてのイデオロギーは、極端になりがちです。資本主義では、市場の力を過信すると、その節度を失う。危機が起きる数十年前、このような過激主義が経済に関する考え方を支配し、社会的な行動様式になってしまった。政府は、軽度な規制しかおこなわず、バブルの発生に気づくことができなかった。市場はいつもよどみがない、という市場原理主義は、金融危機への直接の原因となった―

財界の自省
同じ会議の中で、国際通貨基金（ＩＭＦ）のラガルド専務理事（当時）も「格差は、分断をもたらす。過度に不平等な社会では、社会を結びつける連帯と互恵の原則が、いっそう浸食されやすい」「歴史は、われわれに教えている。いったん、政治的争いが、持つものと持たざるものを分断すれば、民主主義は、末端から、すり減らされるのだ」と指摘しました。
経済学者のスティグリッツ氏はリーマン・ショック直後の講演の中で、「２００８年９月１５日は、市場原理主義の終わりを記した」といいきりました。スティグリッツ氏は、「市場原理主義の欠陥は、所得分配や社会の善良さ、公平性に注意を払わないことである」
「アメリカは、今（０８年当時）格差問題に直面している」「マーケットは、それ自身では機能しない」と新自由主義思想の基礎をなす市場原理主義を批判、政府による介入が必要だとしました。
日本では、市場原理主義の政策を積極的に政府に働きかけてきた人物から自省の発言が飛び出しました。社会経済生産性本部（現、日本生産性本部）が発行する０９年１月５日付の「生産性新聞」に掲載された牛尾治朗会長（当時）の年頭所感は「市場は輝きを失った」として、次のように指摘しています。
「肥大化した米国の金融システムの崩壊は、短期間のうちに世界の金融システムに大きな影響を与え、株式相場や通貨椙場は大混乱に陥った。実体経済でも、設備投資や個人消費が萎縮し、米国自動車産業のビッグスリーが危機にひんするなど、世界的な景気後退が起こっている」「自由経済の思い上がりが競争の正義を崩壊させ、市場は輝きを失った。自由経済を支える金融の専門家には、プロフェッショナルな倫理観が求められるが、今回の金融バブルには自制心を含めた倫，理観の欠如が明らかにみられる」
牛尾氏は、０１年１月から０６年９月まで、経済財政諮問会議の民間議員を務め、新自由主義による小泉「構造改革」を推し進めてきた財界人です。
新自由主義の帰結として発生したリーマン・ショックは、経済への政府の介入の必要性を明らかにしました。１９年１２月を起点とする今回のコロナ危機は、その政府の介入の実態を明らかにしたのです。


コロナ感染拡大の中、店の前を歩く人＝5月25日、ニューヨーク（ロイター）

“賢い”政府
コロナ危機を受けて各国政府は金融・財政支援策を講じています。ＩＭＦによると、総額１６兆ドル（４月上旬時点）の財政支援策がとられています。しかし、すでに経済システムは、企業減税や規制緩和、独占化の容認など大企業や富裕層に有利になるようにつくり変えられていました。その経済システムを前提とした金融・財政支援策によって、かつて資本主義が経験したことのないような格差が広がつています。
ＩＭＦは、４月に発表した「財政モニター」で「課税の能力の強化、公的支出の効率性の改善が求められる。このような公的部門に関する強い要求は、賢い政府を求める」と、政府のあり方にまで踏み込んでいます。壮大な規模の支援策は、政府の経済への介入の正当性、公平性を問いかけています。「賢い政府に求められる最初のことは、透明性と説明責任である」。ＩＭＦの指摘は各国政府に突き刺さります。（つづく）

「しんぶん赤旗」日刊紙　2021年6月4日付掲載

経済を市場にまかせて、政府の介入は極力押させる市場原理主義。２００８年のリーマンショックで破たん。
新自由主義による小泉「構造改革」を推し進めてきた財界人・牛尾治朗氏も自省の念を述べるまでになっています。