「経労委報告」を読む⑤ 労働社会の問題解決を
労働総研事務局長 藤田実さん
今年の『経労委報告』には、「ウィズコロナ時代を乗り越え」という副題がつき、第1章のタイトルは「『ウィズコロナ』時代における人事労務改革の重要性~『ポストコロナ』を見据えて」で、コロナ禍を意識しています。
しかし、第1回で見たようにコロナ禍で苦しんでいる国民の問題にふれることはなく、財界が従来から掲げてきた労務政策がポストコロナの時代にもそのまま適用されるかのように列挙されています。これは、総資本の立場から今年の春闘対策に臨む方針を提起するという『経労委報告』の性格から限定していると見なすこともできますが、コロナ禍があぶり出した資本主義経済や日本の労働社会の脆弱(ぜいじゃく)性に対する問題意識がないでは、経済団体としての存在意義が問われると思います。
「内部留保を賃上げに回せ」と訴える全労連・春闘共闘の人たち=1月15日、東京都千代田区
規制緩和の誤り
コロナ禍が急速に世界中に広がり、生産活動が中断したり、ロックダウンにより経済が急激に縮小したのは、生産コストを削減するためにサプライチェーン(供給網)を世界中に拡大させたグローバル化の影響です。先進国で多くの感染者と死亡者が出たのは、各国とも新自由主義的政策で医療や社会保障を切り縮めたからです。
日本でもすでに見たように、コロナ禍で女性非正規労働者が生活困難に陥ったのは、95年の「新時代の日本的経営」以来、企業が必要な時に必要な労働力を確保したいという目的のために、労働法制の規制緩和を実現させ、雇用保障の少ない非正規労働を女性に押しつけてきたからです。
ポストコロナを見据えるならば、希望する労働者には正規雇用への道を保証するとともに、非正規雇用労働者であっても雇用と生活が安定できるような労務政策を提起すべきです。
また、以前から問題点が指摘されている外国人技能実習生はコロナ禍で解雇されたり、賃金が未払いになったりしても、入国制限で帰国できず、貯金も使い果たし生活困難に陥ったという事例が多数出ています。
しかし、『経労委報告』では「わが国経済社会の支え手として…重要性は高まっている」としながらも、労基法違反が相次ぐ技能実習制度の改善や悪質な仲介業者(監理団体)の排除など、「奴隷的」とも称されている技能実習生の労働者としての権利保障について、何も論じていません。それどころか外国人材の入国制限を緩和する取り組みを求めるなど労働力を確保したいという日本企業の都合しか考えていません。
21春闘の課題に
21春闘で労働組合は、減少し続けてきた賃金を取り戻すたたかいを展開するだけでなく、コロナ禍で明らかになった労働社会の問題点を解決するたたかいが必要になっています。
正規労働者と非正規労働者の本格的な格差是正、1500円を視野に入れた全国一律の最低賃金制度の確立、社会保障の拡充による生活保障の確立、人権と生活を保障する外国人労働者政策への転換といった課題への取り組みこそポストコロナ時代の労働運動となるでしょう。
普通に8時間働けば健康で文化的な生活ができる社会を確立する一歩とすべく、組織労働者だけでなく、国民全体が共感するたたかいをつくり出すことが求められています。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月26日付掲載
正規労働者と非正規労働者の本格的な格差是正、1500円を視野に入れた全国一律の最低賃金制度の確立、社会保障の拡充による生活保障の確立、人権と生活を保障する外国人労働者政策への転換といった課題への取り組みこそポストコロナ時代の労働運動。
労働総研事務局長 藤田実さん
今年の『経労委報告』には、「ウィズコロナ時代を乗り越え」という副題がつき、第1章のタイトルは「『ウィズコロナ』時代における人事労務改革の重要性~『ポストコロナ』を見据えて」で、コロナ禍を意識しています。
しかし、第1回で見たようにコロナ禍で苦しんでいる国民の問題にふれることはなく、財界が従来から掲げてきた労務政策がポストコロナの時代にもそのまま適用されるかのように列挙されています。これは、総資本の立場から今年の春闘対策に臨む方針を提起するという『経労委報告』の性格から限定していると見なすこともできますが、コロナ禍があぶり出した資本主義経済や日本の労働社会の脆弱(ぜいじゃく)性に対する問題意識がないでは、経済団体としての存在意義が問われると思います。
「内部留保を賃上げに回せ」と訴える全労連・春闘共闘の人たち=1月15日、東京都千代田区
規制緩和の誤り
コロナ禍が急速に世界中に広がり、生産活動が中断したり、ロックダウンにより経済が急激に縮小したのは、生産コストを削減するためにサプライチェーン(供給網)を世界中に拡大させたグローバル化の影響です。先進国で多くの感染者と死亡者が出たのは、各国とも新自由主義的政策で医療や社会保障を切り縮めたからです。
日本でもすでに見たように、コロナ禍で女性非正規労働者が生活困難に陥ったのは、95年の「新時代の日本的経営」以来、企業が必要な時に必要な労働力を確保したいという目的のために、労働法制の規制緩和を実現させ、雇用保障の少ない非正規労働を女性に押しつけてきたからです。
ポストコロナを見据えるならば、希望する労働者には正規雇用への道を保証するとともに、非正規雇用労働者であっても雇用と生活が安定できるような労務政策を提起すべきです。
また、以前から問題点が指摘されている外国人技能実習生はコロナ禍で解雇されたり、賃金が未払いになったりしても、入国制限で帰国できず、貯金も使い果たし生活困難に陥ったという事例が多数出ています。
しかし、『経労委報告』では「わが国経済社会の支え手として…重要性は高まっている」としながらも、労基法違反が相次ぐ技能実習制度の改善や悪質な仲介業者(監理団体)の排除など、「奴隷的」とも称されている技能実習生の労働者としての権利保障について、何も論じていません。それどころか外国人材の入国制限を緩和する取り組みを求めるなど労働力を確保したいという日本企業の都合しか考えていません。
21春闘の課題に
21春闘で労働組合は、減少し続けてきた賃金を取り戻すたたかいを展開するだけでなく、コロナ禍で明らかになった労働社会の問題点を解決するたたかいが必要になっています。
正規労働者と非正規労働者の本格的な格差是正、1500円を視野に入れた全国一律の最低賃金制度の確立、社会保障の拡充による生活保障の確立、人権と生活を保障する外国人労働者政策への転換といった課題への取り組みこそポストコロナ時代の労働運動となるでしょう。
普通に8時間働けば健康で文化的な生活ができる社会を確立する一歩とすべく、組織労働者だけでなく、国民全体が共感するたたかいをつくり出すことが求められています。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月26日付掲載
正規労働者と非正規労働者の本格的な格差是正、1500円を視野に入れた全国一律の最低賃金制度の確立、社会保障の拡充による生活保障の確立、人権と生活を保障する外国人労働者政策への転換といった課題への取り組みこそポストコロナ時代の労働運動。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます