「経労委報告」を読む④ 「解雇自由な世界」狙う
労働総研事務局長 藤田実さん
「ジョブ型雇用」という言葉がマスコミでも取り上げられ、一般の人々にも知られつつあります。「ジョブ型雇用」は、労働者はジョブ(職務)で採用され、仕事をするというもので、欧米では一般的な働き方です。「ジョブ型雇用」という言葉は、労働法学者の濱口桂一郎氏が約10年前に使用したものですが、限定正社員制度などを除けば、実際の制度としては普及していません。
昨年の『経労委報告』では、「メンバーシップ型」と欧米流の「ジョブ型」の組み合わせの検討が提起され、2020年3月には日立製作所で実際に「ジョブ型雇用」の導入が発表されています。
コロナ禍でテレワークが普及・定着するようになると、生産性を向上させるためには、職務を明確にする「ジョブ型雇用」の導入が必要であるとの議論が財界などでされるようになってきました。
ジョブ型雇用を打ち出した日立製作所本社=東京・丸の内
日本的ジョブ型
今年の『経労委報告』では、自社に適した雇用システムのイメージ図を示し、「ジョブ型雇用」を導入する際の論点を五つの項目から提起しています。職務調査・分析、適用範囲、処遇制度、採用・人材育成、キャリアパスの五つで、どのように導入すべきか、注意すべき点などを論じています。
経団連は欧米の「ジョブ型」ではなく「日本的なジョブ型」を想定しているようです。
例えば、「ジョブ型雇用」でも、「顕在化した『個人の力』による成果や業績を適切に反映する仕組みが必要である」として、「目標の達成度」「業務の成果」「仕事や役割の重要度・難易度」などの評価基準を示しています。
本来の「ジョブ型雇用」では知識や経験、資格などから判断して担当する職務能力のある労働者を配置するのが基本なので、職務能力の発揮度を評価するというのはありえない話です。また、新卒採用でも適用するとしています。しかし、欧米のように長期にわたるインターンシップを経験して職務能力を高めて採用に至るのとは違い、一部を除いて日本の大学教育やインターンシップでは具体的な職務能力を身につけることを目指しているわけではないので、新卒者の職務能力を判定できるのでしょうか。
曖昧に定義して
このように考えると『経労委報告』が目指す「ジョブ型雇用」とは、本来の「ジョブ型」ではなく、日本的に変容されたもの、すなわち職務能力を曖昧に定義しておいて、能力の発揮度を評価するものです。
財界が「ジョブ型雇用」を導入するねらいは、解雇規制を緩和して、「解雇自由な世界」をつくり出すことにあると思います。日本の「ジョブ型雇用」では、職務能力を厳格に判断しないで採用・配置する可能性が強いので、職務能力がないと判断すれば、解雇できることになります。
事業構造の転換による工場の閉鎖などで職務自体がなくなれば、従来のように面倒な配置転換などをすることなく解雇できるようになります。『経労委報告』でも、「ジョブ型雇用社員が担う仕事・職務や役割・ポストが不要となった際に雇用継続に対する不安が生ずる」と認めています。
「ジョブ型雇用」を導入すれば、現在よりも企業の判断で解雇しやすくなります。労働者には「解雇自由な世界」が待っていることに注意すべきです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月24日付掲載
経団連が目指す「ジョブ型雇用」とは、本来の「ジョブ型」ではなく、日本的に変容されたもの、すなわち職務能力を曖昧に定義しておいて、能力の発揮度を評価するもの。
要するに、客観的な能力の発揮度でなくって、経営者側の都合のいいように評価されるってこと。
事業構造の転換による工場の閉鎖などで職務自体がなくなれば、従来のように面倒な配置転換などをすることなく解雇できるようになる。
労働総研事務局長 藤田実さん
「ジョブ型雇用」という言葉がマスコミでも取り上げられ、一般の人々にも知られつつあります。「ジョブ型雇用」は、労働者はジョブ(職務)で採用され、仕事をするというもので、欧米では一般的な働き方です。「ジョブ型雇用」という言葉は、労働法学者の濱口桂一郎氏が約10年前に使用したものですが、限定正社員制度などを除けば、実際の制度としては普及していません。
昨年の『経労委報告』では、「メンバーシップ型」と欧米流の「ジョブ型」の組み合わせの検討が提起され、2020年3月には日立製作所で実際に「ジョブ型雇用」の導入が発表されています。
コロナ禍でテレワークが普及・定着するようになると、生産性を向上させるためには、職務を明確にする「ジョブ型雇用」の導入が必要であるとの議論が財界などでされるようになってきました。
ジョブ型雇用を打ち出した日立製作所本社=東京・丸の内
日本的ジョブ型
今年の『経労委報告』では、自社に適した雇用システムのイメージ図を示し、「ジョブ型雇用」を導入する際の論点を五つの項目から提起しています。職務調査・分析、適用範囲、処遇制度、採用・人材育成、キャリアパスの五つで、どのように導入すべきか、注意すべき点などを論じています。
経団連は欧米の「ジョブ型」ではなく「日本的なジョブ型」を想定しているようです。
例えば、「ジョブ型雇用」でも、「顕在化した『個人の力』による成果や業績を適切に反映する仕組みが必要である」として、「目標の達成度」「業務の成果」「仕事や役割の重要度・難易度」などの評価基準を示しています。
本来の「ジョブ型雇用」では知識や経験、資格などから判断して担当する職務能力のある労働者を配置するのが基本なので、職務能力の発揮度を評価するというのはありえない話です。また、新卒採用でも適用するとしています。しかし、欧米のように長期にわたるインターンシップを経験して職務能力を高めて採用に至るのとは違い、一部を除いて日本の大学教育やインターンシップでは具体的な職務能力を身につけることを目指しているわけではないので、新卒者の職務能力を判定できるのでしょうか。
曖昧に定義して
このように考えると『経労委報告』が目指す「ジョブ型雇用」とは、本来の「ジョブ型」ではなく、日本的に変容されたもの、すなわち職務能力を曖昧に定義しておいて、能力の発揮度を評価するものです。
財界が「ジョブ型雇用」を導入するねらいは、解雇規制を緩和して、「解雇自由な世界」をつくり出すことにあると思います。日本の「ジョブ型雇用」では、職務能力を厳格に判断しないで採用・配置する可能性が強いので、職務能力がないと判断すれば、解雇できることになります。
事業構造の転換による工場の閉鎖などで職務自体がなくなれば、従来のように面倒な配置転換などをすることなく解雇できるようになります。『経労委報告』でも、「ジョブ型雇用社員が担う仕事・職務や役割・ポストが不要となった際に雇用継続に対する不安が生ずる」と認めています。
「ジョブ型雇用」を導入すれば、現在よりも企業の判断で解雇しやすくなります。労働者には「解雇自由な世界」が待っていることに注意すべきです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月24日付掲載
経団連が目指す「ジョブ型雇用」とは、本来の「ジョブ型」ではなく、日本的に変容されたもの、すなわち職務能力を曖昧に定義しておいて、能力の発揮度を評価するもの。
要するに、客観的な能力の発揮度でなくって、経営者側の都合のいいように評価されるってこと。
事業構造の転換による工場の閉鎖などで職務自体がなくなれば、従来のように面倒な配置転換などをすることなく解雇できるようになる。
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