地球の酸素どうできた 鍵握る2回の全球凍結
多くの生物にとって酸素は、生きていくうえで必要不可欠なものです。
酸素を利用する生物は、呼吸で酸素を体内に取り入れ、食べ物などの栄養から生命活動に必要なエネルギーを取り出しています。酸素は、現在の地球大気の約21%を占めていますが、地球誕生初期の大気にはありませんでした。約25億年前と約6億年前の2回にわたって急増したと考えられています。いったい地球に何が起こったのでしょうか―。(原千拓)
約24・5億年前~約21億年前、地球大気に酸素が急増加する現象「大酸化イベント」が発生しました。海底堆積物の分析から、大気中の酸素濃度は、現在の10万分の1以下のレベルから急激に上昇し、紫外線を遮るオゾン層もこの頃に形成。海水中の鉄が大気中の酸素と結合して大規模な鉄鉱床土壌が形成されたことが分かっています。
この時代の酸素濃度は、一時的に現在とほぼ同じ濃度に急上昇してから現在の1000分の1~100分の1の濃度まで低下する「オーバーシュート」が起こり、その後は安定なレベルを維持。2回目の大酸化イベント(8億年前~6億年前)を経て、現在の酸素濃度に達したようです。
地球に酸素をもたらしたのは、シアノバクテリアという細菌類で、酸素を発生させる光合成を最初に行った生命だと考えられています。
シアノバクテリアの出現時期は謎に包まれていますが、地層に見られる酸素濃度の上昇を示す痕跡から、約25億年前にはすでに出現していた可能性が高いと考えられています。酸素がなかった地球環境を劇的に変えたシアノバクテリアが大量に増加する要因があったことになります。
27億円前、シアノバクテリアによって形成されたと考えられるドーム状の構造=南アフリカ共和国(田近さん提供)
火山と細菌
東京大学の田近英一教授(地球惑星システム学)は、過去2回の大酸化イベントが、地球全体が氷河に覆われる「全球凍結」(スノーボール・アース)の後に起きたことに注目しています。
約23億年前に起きた最初の全球凍結は、それまで二酸化炭素(CO2)とともに温室効果を担っていたメタンが、シアノバクテリアの活動で増大した酸素によって消費された結果、大気の温室効果が突然弱まり、気候が急激に寒冷化したことで発生したと考えられています。
全球凍結した地球のイメージ図(田近さん提供)
一度全球凍結すると、凍った地表は、太陽光をよく反射するため気温が上がらず、簡単には溶けません。23億年前の全球凍結では、数千万年かけて火山活動で放出され蓄積した大量のCO2によって、温室効果が増大。全球凍結から脱したと考えられています。
全球凍結から脱した直後は、地球の平均気温が約60度にまで上昇し、高温化で陸上の風化が進み、生物に必要なリンなどの元素が大量に海へ流入。その結果、シアノバクテリアの爆発的な繁殖が生じ、大気中の酸素濃度が急上昇したのではないかと考えられます。
田近さんによると、全球凍結後の高温状態から気候が安定するまでに数十万年スケールの時間がかかります。その間、シアノバクテリアの爆発的な繁殖が継続。大量の酸素が大気へ供給され、低い安定なレベルで保たれていた酸素濃度から高い濃度へ上昇したのではないかと考えられます。
生命の進化
全球凍結は、単なる気候変動ではなく、生命進化に重要な意味を持つ出来事として多くの研究者が注目しています。
初期の生命は、酸素がない嫌気的な環境の中で生存していました。ところが、シアノバクテリアの光合成がもたらした酸素によって、地球環境は大激変します。やがて生命は、酸素を利用してエネルギーを得る好気呼吸を発達させました。酸素を使わずエネルギーを得る嫌気呼吸と比べ、約20倍のエネルギーを得ることができます。
約7億年前、約6・4億年前の全球凍結後には大型の生物群が登場。陸上植物が出現し、さらに多種多様な生物へと進化は加速していきます。
「生命は酸素がない環境で誕生しました。酸素があるかないかで、生命を維持する代謝反応は大きく異なります。生命進化にとって最大の環境要因だったのでは」と田近さん。「生命が地球環境を変え、その環境に生命が適応・進化してきました。地球環境と生命は“共進化している”と言えるかもしれません」
冷える?熱くなる? 地球の今後は…
地球は、内部の熱を放出し続けており、年齢と共に徐々に冷えていきます。やがて現在の月や火星のように火山活動が止まり、地球規模の物質循環も停止。惑星としての一生を終えます。
ただ、田近さんは「地球の活動がいつ停止するのかは単純には予測できない」といいます。「なぜ地球でプレート運動が起こるのか。どのような惑星条件だと起こり、起こらないのかが完全には分かっていないからです」
一方で太陽は、約46億年前の誕生直後は現在の70%の明るさでした。現在、太陽は1億年で約1%の割合で増し、さらに明るくなっていきます。
日射量が現在の1・1倍以上になると、地球の表面温度は80度以上になります。海水が蒸発し、大気上層で水素に分解され宇宙へ散っていきます。この環境条件に達するのは、約15億年後と推定されていますが、最新の研究では、もっと早いという推定結果もあります。
そして約25億年後までには、海水がすべて蒸発し、宇宙空間に消えてしまいます。その後、火山活動で二酸化炭素がたまれば、地球は金星のようになると考えられます。
田近さんは「地球がどのような運命をたどるのかは、惑星進化と太陽進化の両方が関わっています」と説明します。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年1月8日付掲載
地球上に酸素をもたらしたのは、光合成をするシアノバクテリアの大量発生。
大気中のCO2が減って地球が急激に寒冷化。バクテリアが地球の気候変動にかかわっていたとは。
酸素が生み出されたことによって、生物は嫌気性から好気性に変化。20倍のエネルギーを得ることができるようになり、大型の生物、陸上進出が進んだという。
生命が地球環境を変え、その環境に生命が適応・進化してきた。
多くの生物にとって酸素は、生きていくうえで必要不可欠なものです。
酸素を利用する生物は、呼吸で酸素を体内に取り入れ、食べ物などの栄養から生命活動に必要なエネルギーを取り出しています。酸素は、現在の地球大気の約21%を占めていますが、地球誕生初期の大気にはありませんでした。約25億年前と約6億年前の2回にわたって急増したと考えられています。いったい地球に何が起こったのでしょうか―。(原千拓)
約24・5億年前~約21億年前、地球大気に酸素が急増加する現象「大酸化イベント」が発生しました。海底堆積物の分析から、大気中の酸素濃度は、現在の10万分の1以下のレベルから急激に上昇し、紫外線を遮るオゾン層もこの頃に形成。海水中の鉄が大気中の酸素と結合して大規模な鉄鉱床土壌が形成されたことが分かっています。
この時代の酸素濃度は、一時的に現在とほぼ同じ濃度に急上昇してから現在の1000分の1~100分の1の濃度まで低下する「オーバーシュート」が起こり、その後は安定なレベルを維持。2回目の大酸化イベント(8億年前~6億年前)を経て、現在の酸素濃度に達したようです。
地球に酸素をもたらしたのは、シアノバクテリアという細菌類で、酸素を発生させる光合成を最初に行った生命だと考えられています。
シアノバクテリアの出現時期は謎に包まれていますが、地層に見られる酸素濃度の上昇を示す痕跡から、約25億年前にはすでに出現していた可能性が高いと考えられています。酸素がなかった地球環境を劇的に変えたシアノバクテリアが大量に増加する要因があったことになります。
27億円前、シアノバクテリアによって形成されたと考えられるドーム状の構造=南アフリカ共和国(田近さん提供)
火山と細菌
東京大学の田近英一教授(地球惑星システム学)は、過去2回の大酸化イベントが、地球全体が氷河に覆われる「全球凍結」(スノーボール・アース)の後に起きたことに注目しています。
約23億年前に起きた最初の全球凍結は、それまで二酸化炭素(CO2)とともに温室効果を担っていたメタンが、シアノバクテリアの活動で増大した酸素によって消費された結果、大気の温室効果が突然弱まり、気候が急激に寒冷化したことで発生したと考えられています。
全球凍結した地球のイメージ図(田近さん提供)
一度全球凍結すると、凍った地表は、太陽光をよく反射するため気温が上がらず、簡単には溶けません。23億年前の全球凍結では、数千万年かけて火山活動で放出され蓄積した大量のCO2によって、温室効果が増大。全球凍結から脱したと考えられています。
全球凍結から脱した直後は、地球の平均気温が約60度にまで上昇し、高温化で陸上の風化が進み、生物に必要なリンなどの元素が大量に海へ流入。その結果、シアノバクテリアの爆発的な繁殖が生じ、大気中の酸素濃度が急上昇したのではないかと考えられます。
田近さんによると、全球凍結後の高温状態から気候が安定するまでに数十万年スケールの時間がかかります。その間、シアノバクテリアの爆発的な繁殖が継続。大量の酸素が大気へ供給され、低い安定なレベルで保たれていた酸素濃度から高い濃度へ上昇したのではないかと考えられます。
生命の進化
全球凍結は、単なる気候変動ではなく、生命進化に重要な意味を持つ出来事として多くの研究者が注目しています。
初期の生命は、酸素がない嫌気的な環境の中で生存していました。ところが、シアノバクテリアの光合成がもたらした酸素によって、地球環境は大激変します。やがて生命は、酸素を利用してエネルギーを得る好気呼吸を発達させました。酸素を使わずエネルギーを得る嫌気呼吸と比べ、約20倍のエネルギーを得ることができます。
約7億年前、約6・4億年前の全球凍結後には大型の生物群が登場。陸上植物が出現し、さらに多種多様な生物へと進化は加速していきます。
「生命は酸素がない環境で誕生しました。酸素があるかないかで、生命を維持する代謝反応は大きく異なります。生命進化にとって最大の環境要因だったのでは」と田近さん。「生命が地球環境を変え、その環境に生命が適応・進化してきました。地球環境と生命は“共進化している”と言えるかもしれません」
冷える?熱くなる? 地球の今後は…
地球は、内部の熱を放出し続けており、年齢と共に徐々に冷えていきます。やがて現在の月や火星のように火山活動が止まり、地球規模の物質循環も停止。惑星としての一生を終えます。
ただ、田近さんは「地球の活動がいつ停止するのかは単純には予測できない」といいます。「なぜ地球でプレート運動が起こるのか。どのような惑星条件だと起こり、起こらないのかが完全には分かっていないからです」
一方で太陽は、約46億年前の誕生直後は現在の70%の明るさでした。現在、太陽は1億年で約1%の割合で増し、さらに明るくなっていきます。
日射量が現在の1・1倍以上になると、地球の表面温度は80度以上になります。海水が蒸発し、大気上層で水素に分解され宇宙へ散っていきます。この環境条件に達するのは、約15億年後と推定されていますが、最新の研究では、もっと早いという推定結果もあります。
そして約25億年後までには、海水がすべて蒸発し、宇宙空間に消えてしまいます。その後、火山活動で二酸化炭素がたまれば、地球は金星のようになると考えられます。
田近さんは「地球がどのような運命をたどるのかは、惑星進化と太陽進化の両方が関わっています」と説明します。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年1月8日付掲載
地球上に酸素をもたらしたのは、光合成をするシアノバクテリアの大量発生。
大気中のCO2が減って地球が急激に寒冷化。バクテリアが地球の気候変動にかかわっていたとは。
酸素が生み出されたことによって、生物は嫌気性から好気性に変化。20倍のエネルギーを得ることができるようになり、大型の生物、陸上進出が進んだという。
生命が地球環境を変え、その環境に生命が適応・進化してきた。
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