きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

税と新自由主義② 勝者GAFAが総取り

2021-11-17 07:08:08 | 経済・産業・中小企業対策など
税と新自由主義② 勝者GAFAが総取り
政治経済研究所理事 合田寛さん

―グローバル化と新自由主義によって税制の具体的なあり方はどう変わりましたか。
英国のサッチャー政権と米国のレーガン政権は新自由主義思想を本格的に実践した政権でした。1979年に政権に就いたサッチャー首相は、83%程度だった個人所得税の最高税率を一気に40%に引き下げました。法人税率も52%から35%に下げました。81年に政権に就いたレーガン大統領も同様の大減税を行いました。
これ以降、富裕層減税の競争が世界的な潮流となりました。現在、所得税の最高税率は、米国37%、英国45%、日本45%と、80年代のほぼ半分の水準になっています。法人税率(国税)も、米国21%、英国19%、日本23・2%と、80年代の半分程度に低下しました。
法人税の減税は税引き後の企業利益を増やし、配当の増額や株価の高騰を通じて、大量の株式を保有する富裕層の資産をさらに増やします。所得税の最高税率の引き下げと相まって、富裕層をますます富裕にしました。
他方、逆進的な社会保険料(給与税)や消費税(付加価値税)の引き上げで、低・中所得層の所得に対する税負担率は重くなりました。税制が貧困と不平等を広げています。

一握りの富豪に
―不平等の広がりを数値でみるとどうなります
か。
世界不平等研究所の『世界不平等レポート2018』が最新動向を計測し、表にしています。1980年以降の約40年間で、世界の総所得の伸びのうち、どの所得グループがどのくらいの割合を得たかを示したものです。
それによると、世界の所得上位0・1%の個人が13%を得ており、下位50%が得た12%を上回っています。わずか0・1%の富裕者が、世界の半数の人々よりも多く所得を増やしたわけです。さらに、上位1%の個人は27%を勝ち得ています。世界の所得の伸びの4分の1以上を1%の富裕者が得たことになります。
近年の不平等の特徴は、ごく一握りの富裕者に富が集中していることです。米誌『フォーブス』の世界長者番付によると、1987年に10億ドル以上の資産を保有する人(ビリオネア)は140人おり、資産総額は2950億ドルでした。2021年にはビリオネアが2755人と約20倍に増え、資産総額は13兆1000億ドル(約1500兆円)と約44倍に増えました。世界の不平等の拡大は歴然としています。


1980~2016年に全人口が得た所得の伸びを100としたとき、その100のうち各所得階層の人びとが得た割合(%)
 中国欧州インドロシア米国・カナダ世界
全人口100100100100100100
所得下位50%131411-24212
中位40%43382373231
上位10%4348661176757
所得上位1%151828693527
上位0.1%7712411813
上位0.01%4352097
上位0.001%2131044
『世界不平等レポート2018』から作成


強大な権限手中
―GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック〈現メタ〉、アマゾン)など米国のIT(情報技術)企業の創業者が長者番付の上位に並んでいます。
GAFAは市場を支配する現代の巨大独占企業として、異常な高収益を得ています。これらのIT企業はデジタル革命の成果を取り入れて台頭しました。デジタル革命は、あらゆる情報を0とーの列として記号化し、「完全・瞬時・無料」で複製・伝達することを可能にしました。IT企業はほとんど追加コストなしでサービスを無限に拡大できます。
GAFAはこの成果を生かし、無数の売り手と買い手をインターネット上で結びつけるプラットフォーム(基盤)型ビジネスを創出しました。例えばグーグルは、無料の検索サービスを提供して膨大な利用者を抱え込む一方、これら利用者の関心に応じて表示される広告の枠を事業者に売り、収入を得ます。
囲い込む顧客が多いほど収益が増えるため、GAFAは10年ほどの間に数百社の競争企業を買収してきました。各分野で圧倒的なシェアを握り、その分野の情報を独占・支配・管理する強大な権限を得ています。
競争は短期間で勝者総取りに終わり、独占が形成されました。GAFAはプラットフォームを主宰する立場を使って自己を優先させ、略奪的価格を設定し、排他的な行為で独占を強めています。進出先の国々で巨額の税を逃れることも高収益の大きな要因です。
グローバル化と新自由主義がもたらしたものは、公平な市場競争ではなく、不公平な独占と不平等な富の集中だったのです。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月11日付掲載


近年の不平等の特徴は、ごく一握りの富裕者に富が集中していることです。米誌『フォーブス』の世界長者番付によると、1987年に10億ドル以上の資産を保有する人(ビリオネア)は140人おり、資産総額は2950億ドルでした。2021年にはビリオネアが2755人と約20倍に増え、資産総額は13兆1000億ドル(約1500兆円)と約44倍に増えました。世界の不平等の拡大は歴然と。

税と新自由主義① 投資家「わが階級の勝利」

2021-11-16 07:14:54 | 経済・産業・中小企業対策など
税と新自由主義① 投資家「わが階級の勝利」
政治経済研究所理事 合田寛さん

新自由主義とは何か、どうすれば乗り越えられるか。政治経済研究所理事の合田寛さんに聞きました。(杉本恒如)

―新型コロナウイルス危機は新自由主義とどのような関係があります力
新型コロナのパンデミック(世界的流行)は世界の重層的な危機を明るみに出しました。医療崩壊の危機、貧困と極端な不平等の危機、金融・財政・経済の危機などです。これらは新自由主義の政策によって以前から進行していた危機です。
新自由主義は、第2次世界大戦後に先進諸国が採用したケインズ政策に対する反動攻勢として登場しました。労働運動や社会主義運動の圧力を強く受けたケインズ政策は、国家が完全雇用や不平等是正をめざして資本の活動に介入することを容認しました。諸国民のたたかいを背景に、資本への社会的規制が進み、労働組合の活動が活発化し、税と社会保障による所得の再分配が強められました。これを資本蓄積の危機とみた資本の側が思想闘争を企てたのです。



新型コロナウイルスの感染爆発が起きているロシアのモスクワ市内で、駅を消毒する人たち=11月2日(ロイター)

利潤追求を優先
1947年、フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンらが創設したモンペルラン協会が新自由主義の拠点となりました。彼らは「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開しました。
つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」なのです。とりわけ巨大資本が支配する今日の資本主義の下では、新自由主義思想は巨大資本の利潤追求の自由を優先する政策として表れます。資本所得への減税、社会保障制度の解体、資本への規制緩和、国有企業の民営化、労働組合活動の制限などです。労働者や中小企業には市場原理を説いて競争と自己責任の荒波に放り出しますが、巨大資本のためには平気で市場原理をゆがめます。
いま世界の人々を苦しめている医療崩壊、失業、賃金低下、格差拡大などは、新自由主義の政策が長年続けられた結果、生み出された危機なのです。

―新自由主義とグローバル化はどう関係していますか。
新自由主義思想と結びついて新自由主義の政策を世界に広げたのがグローバル化です。ここでいうグローバル化とは、資本が国境を越えて自由に移動することです。新自由主義思想の下、米英両国の主導で1980年代以降に世界中で進められた金融自由化や貿易自由化により、国境を越えた資本移動が自由になりました。その結果何が起きたかは、税制をみれば明らかです。
大企業と富裕な個人は租税回避地に所得を移し、自国の高い税率を逃れました。ある国が他国の資本を呼び込むために資本所得への課税を軽減すると、他国も追随して減税します。際限のない「底辺への競争」が起こりました。各国は国境を自由に越えられない労働や消費を課税対象に選び、社会保険料(給与税)や消費税(付加価値税)を引き上げました。資本課税から労働課税へのシフトが進みました。
米国の投資家ウォーレン・パフェットが述べています。「過去20年間、階級闘争が続いたが、勝利したのはわれわれの階級だ。われわれの階級が税率を劇的に引き下げたのだ」(2011年9月30日付、米紙ワシントン・ポスト)と。

権利の切り下げ
―「底辺への競争」が資本家階級に勝利をもたらしたのですね。
これは税の世界だけの出来事ではありません。各国はグローバル資本を優遇する経済特区をつくり、労働・環境規制の緩和、低賃金、減税、補助金などによる資本誘致を競っています。税収が減れば「財政均衡」を旗印に社会保障を切り縮めています。労働者階級の権利を全般的に切り下げる「底辺への竸争」が起きています。
その結果、グローバル資本は高利潤を得て株価が高騰しました。資本家階級の所得が増加して富が累積する一方、労働者階級の所得は停滞して貧困が累積しました。グローバル化と新自由主義は相まって、グローバル資本が支配する世界をつくり出したのです。
(つづく)(3回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月10日付掲載


「自由市場原理」を個人の自由と同一視し、資本にとって不都合な国家の介入や労働組合の活動を排除するための世界的運動を展開。
つまり新自由主義の「自由」とは第一に「資本の自由」。
「底辺への競争」とは、法人税の減税、消費税・付加価値税の増税、社会保障の削減、労働者の権利切り下げ。

「雇用によらない働き方」を問う③ 誤分類脱し均等待遇を

2021-11-14 07:14:59 | 働く権利・賃金・雇用問題について
「雇用によらない働き方」を問う③ 誤分類脱し均等待遇を
龍谷大学名誉教授 脇田滋さんに聞く

政府は安倍内閣から「雇用によらない働き方」を追認・拡大する動きを強めています。
2020年3月成立の改正高年齢者雇用安定法は、65~70歳の就業確保措置の一つとして、委託契約を盛り込みました。

高齢者流入狙う
増加する高齢者を個人請負形式で、インターネットを介する「ギグワーク」労働市場に流入させることが目的です。健康・安全の保護を欠き、健康悪化や労災の発生が心配されます。
21年3月の「フリーランス・ガイドライン」は、働く人が保険料を全額負担する「労災保険特別加入」職種を拡大するだけです。実態は労働者と変わりがないのに個人請負とする、違法な「誤分類」を政府が容認・推進するものです。「誤分類」の考え方や「法的推定」による立証責任の転換など、労働者としての権利保障を拡大する視点は見られません。
国際労働機関(ILO)や欧州連合(EU)も企業に労働法令を順守させるため、「誤分類」規制を重視しています。しかし日本では、政府が法違反を厳しく取り締まらない姿勢が際立っています。その結果、過労死をもたらす長時間労働やハラスメントがまん延し、雇用社会の劣化につながってきました。こうした状況の改善こそが、日本の政府・労働行政に課せられた緊急の課題です。
「労働者概念」については、違法な「誤分類」をなくすために、1985年労基法研究会報告の枠にとらわれず、ILOの2006年勧告が示す判定基準や「法的推定」を具体化した立法措置が必要です。



東電系列ワットラインによる請負労働者の解雇・契約打ち切り撤回を求める全労連・全国一般の人たち

団結権保障こそ

ILOや欧州諸国は個人請負形式の自営業者にも、集団的労使関係法(労働組合法など)に基づく団結活動の権利を広く認めています。労働組合などの団体を結成して、自らの要求を掲げて使用者・使用者団体と交渉することは、不可欠の権利だと考えられているのです。
日本では、非正規雇用に対する差別処遇が、短期・無期、扶養・被扶養、残業・配転の有無などの口実で正当化され、立法・行政・裁判でも広く認められてきました。
しかし、EUではパート、有期雇用、派遣の三つの非典型労働について、それぞれ「非差別」を明示する指令を定めました。均等待遇の世界的な流れのなかで日本でも18年、格差を規制し、均等・均衡待遇を義務づける法改正がありました。
「雇用によらない働き方」の拡大は、この均等待遇について責任回避の抜け道を企業に開くものです。働く人の権利実現のためには、「雇用によらない働き方」ではなく、違法を許さないことを示す「誤分類」という用語・考え方を広めることが必要です。
非正規雇用はもちろん、「誤分類」された就労者も「労働者」として雇用と権利を広く保障することが重要です。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月13日付掲載


高齢者の労働にも個人請負形式で、インターネットを介する「ギグワーク」労働市場の流入が行われつつあります。
EUではパート、有期雇用、派遣の三つの非典型労働について、それぞれ「非差別」を明示する指令を定めました。均等待遇の世界的な流れのなかで日本でも18年、格差を規制し、均等・均衡待遇を義務づける法改正が。
働く人の権利実現のためには、「雇用によらない働き方」ではなく、違法を許さないことを示す「誤分類」という用語・考え方を広めることが必要。

「雇用によらない働き方」を問う② 世界は個人請負を保護

2021-11-13 07:29:53 | 働く権利・賃金・雇用問題について
「雇用によらない働き方」を問う② 世界は個人請負を保護
龍谷大学名誉教授 脇田滋さんに聞く

日本とは対照的に、国際労働機関(ILO)や欧州各国は、非正規雇用はじめ個人請負形式の労働者に対する保護に早くから積極的に乗り出しています。

ILO勧告採択
ILOは2006年、「雇用関係勧告」(198号)を採択し、個人請負形式による使用者の法的責任回避に対抗するため、労働法上の保護を受ける労働者の範囲を広げることを提起しました。
雇用による労働者かどうかは、契約名称や形式にかかわらず業務の遂行と報酬の事実をもとに判断することを求めています。判断する指標として、他人の指示と統制で労働が行われるなど14項目をあげています。こうした労働者性に該当する場合は、「法的推定」や「みなし制度」も導入できるとしています。
ドイツでは「労働者と類似した人」という概念を導入して労働法上の多くの保護を拡大し、イギリス、カナダでも同様の規制をしています。フランスは16年、世界的に広がっている「プラットフォーム労働者」(ネットを介してサービス提供=労働が取引される仕組み)に、ストライキ権を含む労働法上の権利を認めました。
イタリアではボローニャ市が18年、プラットフォーム数社に呼びかけてデジタル労働者憲章を定め、固定給や最低賃金以上の支給、時間外・休日手当の支給などを定めました。
韓国でも「特殊雇用」と呼ばれる個人請負労働者の保護を求めるたたかいが長年にわたって行われ、ILOの勧告も受けて国家人権委員会が団結権の保障を17年に政府と国会に勧告しました。
アメリカでは、実態が労働者である人を個人事業主扱いする企業の対応を「誤分類(ごぶんるい)(misclassification)」とする考え方があります。とくに、連邦政府やいくつかの州が、税金・社会保険料負担を逃れる違法行為として規制してきました。
カリフォルニア州の最高裁判所は2018年、独立請負契約者とされたダイナメクス社の配達従業員を労働者と推定し、会社が三つのテスト(ABCテスト)によって、労働者でなく独立事業者であることを立証しなければならないという原則を示しました。三つの原則とは、①会社による支配や指揮命令から自由である②会社の業務過程とは別に仕事を完成する③取引や職業・業務において独立している―ことです。



デジタル労働者憲章を紹介するボローニャ市のホームページ=2018年5月31日

立証責任を転換
この判決は州法に取り入れられて2020年から施行され、多くの職種で請負形式の労働者が最低賃金や労働時間、社会保障などの保護を受けることになりました。「誤分類」を許さないという考え方が、判例や州法にまで高められたのです。
スペインでは21年5月、二輪車配達員を原則、労働者として「推定」する「ライダー法」が制定されています。
これまでは、労働者であるかどうかは労働者に立証責任が課せられていました。それを逆転させて使用者が立証しなければ「法的推定」によって労働者と判定することは画期的であり、日本でもこの立証責任転換をぜひ取り入れるべきです。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月11日付掲載


雇用による労働者かどうかは、契約名称や形式にかかわらず業務の遂行と報酬の事実をもとに判断することを求めています。判断する指標として、他人の指示と統制で労働が行われるなど14項目をあげています。こうした労働者性に該当する場合は、「法的推定」や「みなし制度」も導入できる。
これまでは、労働者であるかどうかは労働者に立証責任が課せられていました。それを逆転させて使用者が立証しなければ「法的推定」によって労働者と判定する。
これで行きましょう。

「雇用によらない働き方」を問う① 回避される使用者責任

2021-11-12 07:14:12 | 働く権利・賃金・雇用問題について
「雇用によらない働き方」を問う① 回避される使用者責任
龍谷大学名誉教授 脇田滋さんに聞く

フリーランス、個人請負(委託)など「雇用によらない働き方」が広がっています。財界や政府はさらに拡大していく方針ですが、見逃せない問題を抱えています。その実態と課題について脇田滋・龍谷大学名誉教授に聞きました。(深山直人)

新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言などでイベントが中止され、音楽、演劇など実演家の人の仕事が次々となくなりました。
その多くはフリーランス、個人請負など個人事業主で、休業の補償もなく不安定で無権利な働き方であることが鮮明になりました。
こうした働き方は芸能実演家にとどまらず最近ではウーバーイーツのような料理配達人をはじめ、これまでもシルバー人材センター登録の高齢者や個人請負の建設職人、アニメーター、NHK受信料徴収職員など幅広い職種に広がっています。労働政策研究・研修機構の試算で367万人にのぼるともみられています。「雇用によらない働き方」は労働関係法令が適用されず、最低賃金や労働時間の規制も社会保障の適用もありません。使用者責任を回避する究極の「非雇用」政策といわなければなりません。



労働者と個人請負で労働法・制度の適用は
 労働者個人請負
労働基準法×
労働組合法×
労働安全衛生法×
最低賃金法×
労働契約法×
賃金支払い確保法×
パート・有期法×
育児休業法×
男女雇用均等法×
パワハラ規制法×
厚生年金×
健康保険×
労災保険×
雇用保険×
所得税法×


狭い労働者概念
第2次大戦後、憲法は27条で労働権と労働基準を、28条で団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しました。
労働者の定義を広くとらえ、請負や委託、準委任など契約方式にこだわらず、使用者の指揮命令に服する「人的従属」と、生活のために働く「経済的従属」の実態があれば労働者性を認めました。
著名な法学者、末弘厳太郎氏は「食わんがために他人に使われているもの、放任しておくと搾取的弊害に陥りやすいものはすべて労働者であると思えば間違いない」(『労働基準法解説』)と述べていました。
しかし、1950年代の経済成長をへて非正規雇用が広がるなかで1985年、労働大臣の私的諮問機関である労働基準法研究会が労働者概念に関する報告書をまとめました。それは、①指揮監督下の労働提供②賃金支払いを中心に、使用従属性を総合的に判断する―としました。
契約にこだわらず実態に基づいた判断を維持する一方で、特定企業の工場や事務所で就労する者(内勤正社員)を典型と考えて労働者性を判断する、狭い労働者概念を採用しました。これが裁判所にも影響を与え、消極的判断をもたらしました。
代表的な判例が、事業主形式のトラック運転者の労災認定が争われた横浜南労基署長事件(最高裁1996年11月28日)と、公務店の工事に従事した大工の療養・休業補償が争われた藤沢労基署長事件(同2007年6月28日)です。
前者は、時間的・場所的拘束が一般従業員と比べて緩やかであるとか、後者では自分の判断で工法や作業手順を選択できるなどとして請求を認めませんでした。85年報告を前提に事業場外で使用者の直接監視下にない労働者について労基法の適用を認めず、労働者性を否定しました。
一方で、集団的労使関係では、2011年のINAXメンテナンス事件、新国立劇場事件の両判決、12年のビクターサービスエンジニアリング事件では労組法上の労働者だと認め、団体交渉などを命じる積極的な判断を示しました。



東京電力糸列会社の契約打ち切り撤回を求める請負労働者、全労連・全国一般の人たち

雇用社会の劣化
85年は、労働政策が新自由主義的な規制緩和の方向に大きく転換した時期です。派遣労働を認めたのも85年です。規制緩和の核心は、使用者の労働法・社会保障法上の法的責任と経済的負担を軽減することです。これを背景にパート、有期、派遣など非正規雇用が増加し、労働者の40%にのぼります。日本的非正規雇用の特徴は、①雇用不安定②差別待遇③無権利④団結困難―という点であり、雇用社会が大きく劣化しました。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年11月10日付掲載


フリーランスや個人請負の場合は、労働基準法が適用されない。最低賃金、厚生年金、健康保険、労災保険、雇用保険など基本的な使用者の責任が保障されません。
そんなことは許されない!