気候危機の科学⑤ 地球の運命 100通り計算
「地球温暖化の進行とともに極端な気象現象は増加するが、個別の現象が地球温暖化のせいだとは言いきることはできない」。異常気象について問われた専門家が、判で押したようにこう答える時代が長く続きました。
しかし、“今年の漢字”に「災」が選ばれるなど自然災害が相次いだ2018年、新しい局面を迎えました。
温暖化が原因
同年7月、日本列島は記録的な猛暑に見舞われました。熱中症による死者は1000人を超え、過去最多となりました。
人間活動による温暖化がなかった場合に、このような猛暑が発生する確率はどれくらいか―。日本の研究チームがスーパーコンピューターを使ってはじき出した答えは「ほぼ0%」でした。
「ついに、そういう事象が現れた…」。研究を主導した気象庁気象研究所の今田由紀子主任研究官は、温暖化がなければ起こりえない異常気象をとらえたのは日本で初めてのことだと振り返ります。
今田由紀子さん
今田さんは、スパコン内に再現した仮想地球を使って、数々の偶然で起こりうる“パラレルワールド”をっくり、異常気象と温暖化の関連を調べました。
異常気象は、大気のゆらぎが偶然重なれば発生します。「一つの地球だけみても分からない」と今田さん。温暖化した現実の世界とそうでない世界、それぞれ起こりうる偶然性の幅のなかで100通りもの地球の運命を計算して、異常気象の発生確率の違いを導きました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新手法です。
その結果、18年のような猛暑が起こる確率は、温暖化した地球では約20%、温暖化していない地球では0・00003%でした。
17年7月九州北部豪雨と18年7月豪雨も、それぞれ発生確率が、温暖化によって約1・5倍、約3・3倍に上がっていたと推定できました。「温暖化すれば“雨のタネ”である水蒸気が増えるのは確実です。ただ本当に雨が降るのかはかなり偶然性に左右され、温暖化の影響は表れにくいと思われていました。解像度を細かくして地形の効果が出せたおかげで、きれいに差がみえて、驚きました」
2018年7月の月平均気温と平年値との差を示した地図(気象庁報道発表資料から)
時代とともに
真鍋淑郎さんの“ひ孫弟子”に当たる今田さん。「時代とともに気候モデルもスパコンも性能が上がり、やっとここまできました。真鍋先生の構想の一端を担えてうれしい」
今後、線状降水帯などの局所的な現象もとらえようと、解像度をさらに上げる取り組みを開始。日本に夏の異常気象をもたらす太平洋高気圧の張り出し方が、温暖化の影響を受けるのかも知りたいといいます。
「イベント・アトリビューションで過去の温暖化を実感するだけでは不十分。この先の異常気象がどうなるのか、近未来を予測したい。難しいのは、将来のデータは検証できないこと。不確実性をどう評価するか…」。挑戦は続きます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月25日付掲載
温暖化した現実の世界とそうでない世界、それぞれ起こりうる偶然性の幅のなかで100通りもの地球の運命を計算して、異常気象の発生確率の違いを導きました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新手法。
その結果、18年のような猛暑が起こる確率は、温暖化した地球では約20%、温暖化していない地球では0・00003%。
真鍋淑郎さんの“ひ孫弟子”に当たる今田さん。「時代とともに気候モデルもスパコンも性能が上がり、やっとここまできました。真鍋先生の構想の一端を担えてうれしい」
今後、線状降水帯などの局所的な現象もとらえようと、解像度をさらに上げる取り組みを開始。
地球温暖化は確実に起こっているという実証とともに、局地豪雨の短期予報も実用化へ。
「地球温暖化の進行とともに極端な気象現象は増加するが、個別の現象が地球温暖化のせいだとは言いきることはできない」。異常気象について問われた専門家が、判で押したようにこう答える時代が長く続きました。
しかし、“今年の漢字”に「災」が選ばれるなど自然災害が相次いだ2018年、新しい局面を迎えました。
温暖化が原因
同年7月、日本列島は記録的な猛暑に見舞われました。熱中症による死者は1000人を超え、過去最多となりました。
人間活動による温暖化がなかった場合に、このような猛暑が発生する確率はどれくらいか―。日本の研究チームがスーパーコンピューターを使ってはじき出した答えは「ほぼ0%」でした。
「ついに、そういう事象が現れた…」。研究を主導した気象庁気象研究所の今田由紀子主任研究官は、温暖化がなければ起こりえない異常気象をとらえたのは日本で初めてのことだと振り返ります。
今田由紀子さん
今田さんは、スパコン内に再現した仮想地球を使って、数々の偶然で起こりうる“パラレルワールド”をっくり、異常気象と温暖化の関連を調べました。
異常気象は、大気のゆらぎが偶然重なれば発生します。「一つの地球だけみても分からない」と今田さん。温暖化した現実の世界とそうでない世界、それぞれ起こりうる偶然性の幅のなかで100通りもの地球の運命を計算して、異常気象の発生確率の違いを導きました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新手法です。
その結果、18年のような猛暑が起こる確率は、温暖化した地球では約20%、温暖化していない地球では0・00003%でした。
17年7月九州北部豪雨と18年7月豪雨も、それぞれ発生確率が、温暖化によって約1・5倍、約3・3倍に上がっていたと推定できました。「温暖化すれば“雨のタネ”である水蒸気が増えるのは確実です。ただ本当に雨が降るのかはかなり偶然性に左右され、温暖化の影響は表れにくいと思われていました。解像度を細かくして地形の効果が出せたおかげで、きれいに差がみえて、驚きました」
2018年7月の月平均気温と平年値との差を示した地図(気象庁報道発表資料から)
時代とともに
真鍋淑郎さんの“ひ孫弟子”に当たる今田さん。「時代とともに気候モデルもスパコンも性能が上がり、やっとここまできました。真鍋先生の構想の一端を担えてうれしい」
今後、線状降水帯などの局所的な現象もとらえようと、解像度をさらに上げる取り組みを開始。日本に夏の異常気象をもたらす太平洋高気圧の張り出し方が、温暖化の影響を受けるのかも知りたいといいます。
「イベント・アトリビューションで過去の温暖化を実感するだけでは不十分。この先の異常気象がどうなるのか、近未来を予測したい。難しいのは、将来のデータは検証できないこと。不確実性をどう評価するか…」。挑戦は続きます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月25日付掲載
温暖化した現実の世界とそうでない世界、それぞれ起こりうる偶然性の幅のなかで100通りもの地球の運命を計算して、異常気象の発生確率の違いを導きました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新手法。
その結果、18年のような猛暑が起こる確率は、温暖化した地球では約20%、温暖化していない地球では0・00003%。
真鍋淑郎さんの“ひ孫弟子”に当たる今田さん。「時代とともに気候モデルもスパコンも性能が上がり、やっとここまできました。真鍋先生の構想の一端を担えてうれしい」
今後、線状降水帯などの局所的な現象もとらえようと、解像度をさらに上げる取り組みを開始。
地球温暖化は確実に起こっているという実証とともに、局地豪雨の短期予報も実用化へ。