2023年04月17日
リポート 北海道機船漁業協同組合連合会 原口聖二
[ロシア スケトウダラ漁業 今後のTAC設定 経済的インデクスにも重点を置く]
ロシアのスケトウダラ漁業について、今後、漁獲量ばかりでなく、経済的インデクスを評価し、操業計画を立案する必要があると、ロシアスケトウダラ漁業者協会は指摘している。
昨年2022年、ロシア極東海域でのスケトウダラの漁獲量は190万トンに達し、TACの開発率は92%だった。
この10年間、スケトウダラの資源評価は増加傾向で高位を維持、四半世紀で最大であり、来年、2024年のTAC設定として、228万5,000トンが勧告されている。
2022年、ロシアのスケトウダラの漁獲量(原魚ベース)の37%が高次加工生産へ向けられた。
歴史的記録であり、フィレとすり身生産に、42隻の漁船、加工船、運搬船が関わったが、これは関係船団1/3に相当する。
ロシア漁業は、前年2021年比16.8%増の13万9,000トンのスケトウダラ冷凍フィレを生産し、歴史上初めて米国の当該製品生産量を上回った。
陸上加工場もスケトウダラの高次加工に大きく貢献している。
2022年、23万6,000トンの生鮮スケトウダラが陸上加工場で処理された。
しかし、これは明らかに、潜在的な処理能力と比較した時、程遠く、これを余した数量と評価される。
国内市場へのスケトウダラ供給量の増加傾向は続いている。
2022年には18万3,000トンの製品が国内市場へ供給され、増加傾向は明らかなものとなっている。
2014年-2018年、当該市場への供給量は12万トンで、この3年間で大きく増加させた。
フィレ、ミンス、そしてすり身等、高次加工製品の供給が増えており、販売価格も安定している。
スケトウダラのヨーロッパ市場(スケトウダラのフィレの主要市場)は、2022 年に24 万7,000トンまで縮小した。
一方で、輸入金額は著しく増加、EUに輸入されたスケトウダラのフィレ輸入金額は10億ドルに近づいている。
一連の制裁措置の余波を受け、取引価格はトン当たり600ドル-700ドルとなったが、ロシアの直接貿易のシェアは29%を占めた。
2022年、中国の加工市場は復活し、ロシア産スケトウダラを55万6,000トン輸入した。
ただし、ロシア漁業の売上高の伸びは物流費等の高騰で相殺されてしまった。
たとえば、ロシア産H&Gを原料とした中国加工フィレのヨーロッパへの物流コストは、新型コロナウイルス拡散防止対策以前のレヴェルと比較して3倍-3.5 倍に、また、中国への輸出要件を満たすための消毒を含めたコストが25%-30%、それぞれ増加、これに為替要因が加わり、プラス面が相殺されてしまった。
今年2023年明けから、スケトウダラの主要輸出市場のトレンドはマイナスに転じ、市場価格は下降局面に転じている。
フィレ市場の過熱による価格高騰は、購買意欲の減退、小売売上高の減少につながった。
制裁リスクにより、ヨーロッパの加工業者は代替原料、つまり他の天然白身魚や養殖魚に切り替える傾向が散見されている。
これらすべてがロシアの供給状況に影響を与えるが、その深刻さはまだわからない。
中国向けの冷凍スケトウダラの価格は2023年4月現在、回復傾向を見せているが、ベーリング海の TAC増加が、下半期の価格回復に圧力をかける可能性がある。
また、今後、中国の人手不足によるスケトウダラの処理能力の低下の可能性に注意する必要がある。
さらに、人件費の上昇により、中国の陸上加工業のコストが増加することも影響を与えることになる。
この点において、ロシアの自国陸上加工場の潜在的処理能力に大きな展望が開けることになる。
ロシア漁業は、生産と市場への製品供給の柔軟性を維持するため、多品種生産戦略と、仕向け切り替え能力を強化することが重要となってくる。
近年のロシアのスケトウダラ漁業についてのデータでは、経済的成果は漁獲量に左右されていない。
漁獲量が増えた時、利益はむしろ減っている。
漁獲量ばかりでなく、経済的なインデクス等も使用して漁業の結果を評価することが求められている。
これは、TAC を決定する際に、生物学的要因だけでなく、社会的要因、経済的要因、および生産要因も考慮しなければならないことを意味している。
規制当局と漁業者の両方が、資源、市場、および経済的インデクスの長期的な安定性に関心をもつことが重要となってくる。