おすすめ度 ☆☆☆☆
ドキュメント好き、石綿訴訟に関心のある方 ☆☆☆☆☆
215分の長編である。 だが、それだけの内容が迫ってくる。
「ゆきゆきて、神軍」など数々の作品を生み出した原一男監督が、大阪・泉南アスベスト工場の元労働者らが国を相手に起こした訴訟の行く末を記録したドキュメンタリー作品。
原監督らしい、粘りに粘った大作だ。
明治時代から石綿(アスベスト)産業が盛んとなった大阪・泉南地域。アスベストの健康被害を被った石綿工場の元従業員や近隣住民たちが国を相手に国家賠償請求訴訟を起こした、いわゆる「大阪・泉南アスベスト国賠訴訟」。
公害訴訟は、大企業が相手の場合が多いが、本件は中小企業が主体、ましてや最近では、廃業が続く零細産業。
石綿は肺に吸い込むと、長い潜伏期間の末、肺ガンや中皮腫を発症する。国は70年前から調査を行い、健康被害を把握していたにもかかわらず、経済発展を優先し規制や対策を怠った。その結果、原告の多くは肺を患い、発症という"静かな時限爆弾"の爆発に怯え暮らしていた。
映画の前半は、健康被害に苦しむ人たちの、ありのままの姿を執拗に追いかけるカメラ。
そして、次々と死んでいく。まるで、死がわかっていて映像化したそんな悲惨な状態。
石綿工場で働く人たちは、在日韓国人であったり、仕事がなく流れ着いた人たち。いわゆる底辺の人たちだ。
かれらが意を決して、裁判を起こすも、裁判では負けてしまう。
なんともあくどい、裁判官とも取れるが、それが当時の日本の常識だったのかも。
それが、後半、裁判闘争に画面が移ると、今度は、訴えを阻もうとする勢力即ち国家との対決となる。
克明に描写されているので、役人の対応の仕方が如実に浮かび上がる。
最期は、塩崎厚労大臣の登場で、少しは緩和されるのだが。
劇中登場する患者たちの悲痛な叫びと病の苦しさは胸に迫る。
執拗に迫るカメラ、原監督の目は鋭い。