くさくさするから心温まる軽い読み物が読みたいなと図書コーナーで探していると、
並んでいる本たちの中の1冊がそれなら「これがいいですよ」と訴えていて。
『お探し物は図書室まで』
5編からなる短編集。
1章の朋香さんの変わりたい願望を読みんでいくうちに、あらあらふんふんと。
何の変哲もないさりげない文章なのに引き込まれていく。
5編とも、ま、べたといえばべたな展開。
でも今の閉塞感のある時代にぴったりなお話で読後感が心地よい気持ちいい。
で、2章3章と読み進めていくと、あらこのお話の構成はどこかで読んだことがあるな
と記憶を探っていくと、そうそう、『鎌倉うずまき案内所』」だわ。
シチュエーションと展開がぴったり重なるのよ。
悩める人がいて 行く場所があって 聞いてくれる人がいて 小さなプレゼントがあって。
それらが重なり合っていつの間にやら問題が解決方向に。
それって結局あなたがあなたの力でつかみ取ったものですよ、と。
で、登場人物同士がぐるぐるっと回りながら繋がっているの。
まさに『鎌倉うずまき案内所』
作者青山美智子さん(そもそもお名前で気が付かないということがおかしい)
青山さんの紹介文を読んでいたらあった、やっぱり。
お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?
人生に悩む人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書室。
相談者は誰にも言えなかった本音や願望を司書さんに話してしまいます。
彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、
思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。
変わりたい変えたい、自分の職業、環境もろもろを抱えた五編の登場人物は
朋香 21歳 婦人服販売員 フライパン
諒 35歳 家具メーカー経理部 横たわって眠るキジトラ猫 アンティーク
夏美 40歳 元雑誌編集者 地球
浩弥 30歳 ニート 小さな飛行機
正雄 65歳 定年退職 赤いカニ
オレンジ色で記したものは さゆりさん言うところの羊毛フェルトでできた 「本の付録」
小学校に併設するコミュニティーハウスの一画にある図書室。
そこでレファレンスしている司書の「小町さゆりさん」
ひっつめられた髪の頭の上には、ちょこんと小さなおだんご。
かんざしが1本、先には上品な花飾りの房が3本垂れていた。そんな小町さゆりさん。
彼女に対する5人の印象がそれぞれ面白い。
☆ものすごくものすごく大きい人 穴で冬ごもりしている白熊
☆ゴーストバスターズに出てくるマシュマロマン
☆ディズニーアニメ ベイマックス
☆早乙女玄馬のパンダ らんま2分の1
☆巨大な鏡餅
いったいどんな風体の人なんだろうと興味津々よ。
さゆりさんのレファレンスで「何をお探し?」と訊かれた5人の印象ね。
★抑揚のない言い方なのに、くるむような温かみがあって。
★優しい声、ちっとも笑ってないのに、いつくしみに満ちていた。
★親切でもなく明るくもない、フラットな低音。身も心もゆだねたくなるような、
懐の深さを感じられるひとこと。
★深みのある低い声
★思いがけず凛としていて、体の奥まで響いてきた。
うーん、私も小町さゆりさんに「何をお探し?」とその声で訊かれたい。
そして悩める私にぴったりな選書をしていただきたい。うんうん。
彼女に選書された本の中に1冊だけは異質な本が。それは悩みとは全く異なる本。
でもそれが重要なヒント。そこから登場人物5人はどんな人生をつかみ取っていくのか。
応援したくなるようなお話が進んでいく結末は温かくてほっとして。よかったなと。
ちなみに、この本は2021本屋大賞2位。
書店員さんだったら私も薦める。