木曜日に発表されたアメリカの非農業部門の6月の雇用者数が46.7万人減ったことで、NY株式市場が大きく下落しましたが、単に前月の減り方より14万5千人も悪かったという短期的な観点から今回の数字を見るのではなく、もう少し長いスパンで、この雇用喪失の大元にある問題をきちんと見ることが必要です。
まず、この雇用統計の年度別の数字をご覧下さい。(1万人以下は四捨五入)
・2004年---205万人増
・2005年---254万人増
・2006年---214万人増
・2007年---115万人増
・2008年---308万人減 そして、
・2009年(上半期)---338万人減
今回のリセッションでの失業者のうち、金融関係はたったの58万人です。残りは、製造業が170万人、卸売りや小売業が110万人、その他娯楽やホテル関連38万人などとなっております。
ヘルスケアや国が金を投じるインフラ・エネルギー・テクノロジー関連は増えてはいるものの、上記のような消費関連業界が大きな雇用減を招いております。
ものが売れないために失われた雇用が圧倒的に多いのです。
何故、消費関連業界がもっとも大きな雇用減の発信元になっているのかは、言うまでもなく、過去に住宅資産価値や株価の上昇で膨らんだ家計の資産が、住宅バブル崩壊に伴う信用収縮により増えた負債(=借金)の返済のために、消費の抑制を行わざるを得なくなっているためです。(現に4月の全小売業の売上高は前年比-10.8%にもなっております。)
当面は消費を減らし、雇用の悪化に備えるための貯蓄を増やしている段階ですので、借金返済は遅々として進んでおりません。
この借金の額を2001年のレベルに落とすためには、およそ3.5兆ドルもの返済をしなければなりません。家計を健全な状態へと導くためには、5兆ドルの借金削減が必要との試算もあります。
ここまでのマクロな分析で既にお分かりのように、雇用者数の減少が5月の32.2万人減から更に減って、今年後半にはかなりゼロ値に近づくというのは、些か楽観的過ぎる見通しかと思います。
理由は、こうした消費抑制のために、アメリカの企業の設備稼働率は65%にまで落ちているためです。企業はこの稼働率の低下のために、週あたりの労働時間を33.1時間にまで削減をし、15%の従業員には減給を受け入れさせ、200万人をパートタイマー化するなどして、何とかワークシェアリングしておりますが、それでも上記のような雇用減となっております。
解雇は免れても、こうした収入減によりやむを得ず、人々は副業(アルバイト)を余儀なくされております。昨年は10人に1人でしたが、今年は5人に1人になると予想されております。
この状況を打破するためには、上述の設備稼働率を上げなければなりませんが、アメリカの消費者のみならず、中国など一部の国を除いては、日本を始め世界の先進国は、今のレベルの消費さえ更に減らさざるを得ない状況であり、アメリカの輸出だけが急激に伸びて設備稼働率が100%に近づくというのはあり得ません。
唯一ドル安の急激な進行により、アメリカの輸出が増える可能性がありますが、これは、多くの消費物資を輸入に頼るアメリカの輸入物価の高騰を招き、ひいては高いインフレへと繋がる劇薬となります。
人々が職を失い借金を返そうにも返せない状況の中で、日々の食料品までもが高騰すれば、これは個人破産が益々増えるだけのことです。企業は原材料費の高騰分を末端価格に転嫁するどころの話ではありません。当然、インフレによる長期金利の上昇は資金調達コストの上昇にもろに繋がるため、経営は益々圧迫されます。
このインフレの恐怖が、ドル安を一方的に導かない1つの歯止めになっているようです。
かといって、木曜日にダウが大幅に下げ、債券高、ドル高になったことに見られるような、昨年秋を彷彿とさせる、ドルへの資金の回帰(アメリカの対外資産の売り)=ドル高がずっと続く訳もありません。対外資産の取り崩し枠の限界と、デフレスパイラルへの落ち込みの恐怖があるためです。デフレとは経済を益々収縮させる動きですので、このスパイラルに落ち込むくらいなら、まだしも穏やかなインフレを望むというのが、世界の中央銀行の本音ですね。
なお、これまでにFRBが投入したマネーサプライの増加が将来のインフレを招くと言う論と、そうではなく、家計や企業のレバレッジ解消(負債の返済)の過程で、そこにマネーが吸収されるためインフレは起こらないという論が、識者により対立しているというのが現下の状況です。(前者の代表がジョン・テイラー、スタンフォード大学教授、後者の代表がポール・クルーグマンです。)
筆者は、ここ2-3年のうちにインフレは必ず起こるという論を支持します。それは、若芽(Green Shoots)が出そうだからと言っただけで、原油が33ドル~48ドルのボックス圏を抜け出して、一気に70ドルにまで上昇している事実を重視するからです。CRB指数を見ても、3月2日の200.34ポイントを底にして、6月11日には266.11ポイントまで33%上昇しております。
若芽を育てるには、太陽光と水を毎日根気よく与え、しかるべき時間(最低限、家計の負債が3.5兆ドル分なくなるまで)が経過しなければなりませんが、この世界はまだまだ、少し伸びた若芽を我先にと摘み取る力が働いているようですね。
まず、この雇用統計の年度別の数字をご覧下さい。(1万人以下は四捨五入)
・2004年---205万人増
・2005年---254万人増
・2006年---214万人増
・2007年---115万人増
・2008年---308万人減 そして、
・2009年(上半期)---338万人減
今回のリセッションでの失業者のうち、金融関係はたったの58万人です。残りは、製造業が170万人、卸売りや小売業が110万人、その他娯楽やホテル関連38万人などとなっております。
ヘルスケアや国が金を投じるインフラ・エネルギー・テクノロジー関連は増えてはいるものの、上記のような消費関連業界が大きな雇用減を招いております。
ものが売れないために失われた雇用が圧倒的に多いのです。
何故、消費関連業界がもっとも大きな雇用減の発信元になっているのかは、言うまでもなく、過去に住宅資産価値や株価の上昇で膨らんだ家計の資産が、住宅バブル崩壊に伴う信用収縮により増えた負債(=借金)の返済のために、消費の抑制を行わざるを得なくなっているためです。(現に4月の全小売業の売上高は前年比-10.8%にもなっております。)
当面は消費を減らし、雇用の悪化に備えるための貯蓄を増やしている段階ですので、借金返済は遅々として進んでおりません。
この借金の額を2001年のレベルに落とすためには、およそ3.5兆ドルもの返済をしなければなりません。家計を健全な状態へと導くためには、5兆ドルの借金削減が必要との試算もあります。
ここまでのマクロな分析で既にお分かりのように、雇用者数の減少が5月の32.2万人減から更に減って、今年後半にはかなりゼロ値に近づくというのは、些か楽観的過ぎる見通しかと思います。
理由は、こうした消費抑制のために、アメリカの企業の設備稼働率は65%にまで落ちているためです。企業はこの稼働率の低下のために、週あたりの労働時間を33.1時間にまで削減をし、15%の従業員には減給を受け入れさせ、200万人をパートタイマー化するなどして、何とかワークシェアリングしておりますが、それでも上記のような雇用減となっております。
解雇は免れても、こうした収入減によりやむを得ず、人々は副業(アルバイト)を余儀なくされております。昨年は10人に1人でしたが、今年は5人に1人になると予想されております。
この状況を打破するためには、上述の設備稼働率を上げなければなりませんが、アメリカの消費者のみならず、中国など一部の国を除いては、日本を始め世界の先進国は、今のレベルの消費さえ更に減らさざるを得ない状況であり、アメリカの輸出だけが急激に伸びて設備稼働率が100%に近づくというのはあり得ません。
唯一ドル安の急激な進行により、アメリカの輸出が増える可能性がありますが、これは、多くの消費物資を輸入に頼るアメリカの輸入物価の高騰を招き、ひいては高いインフレへと繋がる劇薬となります。
人々が職を失い借金を返そうにも返せない状況の中で、日々の食料品までもが高騰すれば、これは個人破産が益々増えるだけのことです。企業は原材料費の高騰分を末端価格に転嫁するどころの話ではありません。当然、インフレによる長期金利の上昇は資金調達コストの上昇にもろに繋がるため、経営は益々圧迫されます。
このインフレの恐怖が、ドル安を一方的に導かない1つの歯止めになっているようです。
かといって、木曜日にダウが大幅に下げ、債券高、ドル高になったことに見られるような、昨年秋を彷彿とさせる、ドルへの資金の回帰(アメリカの対外資産の売り)=ドル高がずっと続く訳もありません。対外資産の取り崩し枠の限界と、デフレスパイラルへの落ち込みの恐怖があるためです。デフレとは経済を益々収縮させる動きですので、このスパイラルに落ち込むくらいなら、まだしも穏やかなインフレを望むというのが、世界の中央銀行の本音ですね。
なお、これまでにFRBが投入したマネーサプライの増加が将来のインフレを招くと言う論と、そうではなく、家計や企業のレバレッジ解消(負債の返済)の過程で、そこにマネーが吸収されるためインフレは起こらないという論が、識者により対立しているというのが現下の状況です。(前者の代表がジョン・テイラー、スタンフォード大学教授、後者の代表がポール・クルーグマンです。)
筆者は、ここ2-3年のうちにインフレは必ず起こるという論を支持します。それは、若芽(Green Shoots)が出そうだからと言っただけで、原油が33ドル~48ドルのボックス圏を抜け出して、一気に70ドルにまで上昇している事実を重視するからです。CRB指数を見ても、3月2日の200.34ポイントを底にして、6月11日には266.11ポイントまで33%上昇しております。
若芽を育てるには、太陽光と水を毎日根気よく与え、しかるべき時間(最低限、家計の負債が3.5兆ドル分なくなるまで)が経過しなければなりませんが、この世界はまだまだ、少し伸びた若芽を我先にと摘み取る力が働いているようですね。