12月30日、金沢から東へコマを進める。金沢駅にもいろいろな形式の列車がやって来て、ホーム上にも一応乗車案内表示もあるのだが、電光掲示板には表示されないし放送も詳しくない。帰省客とおぼしき客も多いのだがどこに並んでいいかどうか戸惑っているようである。結局2扉の表示にヤマを張って並ぶ。
そこへやってきたのは寝台電車改造の419系。小松発の黒部行きである。このタイミングでまさかこの形式に当たるとは思わなかった。何とかボックス席を確保。満席で立ち客も多く出たが、座る分には前の客の膝も気にならない。それだけ、座れればゆったりできる車両である。おそらく北陸新幹線開業の折には廃車(というか、JR北陸線および枝分かれする在来線も第三セクター移行もしくは廃止の予定らしい)になるとあって貴重な乗車機会である。
金沢を出ると再び天候も悪くなり、雪というかみぞれが降る天候。コロコロと変わる。
高岡到着。この後は氷見線に乗車するが、時間があるので改札を出る。しばらく街歩きするということで、まずは折りたたみの傘を買い求める。
すでにシャッターを閉める店も多いうら寂しい商店街を抜ける。国道沿いの郊外に行けば大型店舗があって賑わっているという構図のようだが、天候もあいまって余計に寂しい感じがする。富山県には何度となく訪れているが、まだ高岡には宿泊したことがない。一度泊まって夜の風情がどんなものか見てみようかなという気はあるのだが・・・。
そんなことを思いつつ商店街を抜けてやってきたのは高岡大仏。奈良、鎌倉と並ぶ日本三大大仏と称されるが、「大仏」にしては小ぢんまりとした感じ。鋳物の街、銅製品の街として知られる高岡のシンボル的存在であり、雨の中傘を差しながらではあるが手を合わせて今後のことについてお祈りする。
この後、昔ながらの風情を残す山町筋の土蔵造りの町並みを歩く。
年末年始のこととて住宅の公開はやっていなかったが、明治に起こった大火の後を受けて建てられたということで、防火性に優れた構造になっているという。当時の繁栄ぶりを連想させるところである。
残念ながらここから先の金屋町の千本格子の町並みまで足を伸ばす時間はなくなり、駅に戻る。途中に出会った路面電車の万葉線。次の機会にはこれにも乗ってみたいものである。
高岡16時14分発の氷見線に乗車。新幹線の工事にともない、氷見線のホームも改札口前に移っていた。ここでしばし列車の入線を待つ。・・・・と、そこにやってきたのは旗を持ったガイドを先頭にした数十人の集団。そう、頭文字が「ク」の中高年に大人気の旅行会社である。
最近この旅行会社などが「ローカル線に部分的に団体で大挙して乗車する」というので、鉄道会社にとってはうれしいお客さんなのだろうが、それに乗り合わせた乗客からすればたまったものではないということを聞く。案の定、この団体は入線するや否や、先に並んでいた(といっても乗車口が明示されておらず、私も車両限界の表示などで大体の見当をつけて立っていたのだが)一般客を押しのけるようにして割り込み乗車し、座席を占領した。まあ、2両編成で立ち客もさほど出なかったのはよかったが、添乗員もちょっと配慮が足りないのではないかと思う。
さてこの氷見線、1両は地元出身の藤子A不二雄氏による「忍者ハットリくん」のキャラクターと、氷見特産の氷見ブリをコラボしたイラスト車両である。
件の団体の人気もこちらのようで、記念撮影に余念がない。このブリのイラスト車両、個人的には「ブルートレイン」ならぬ「ブリートレイン」と呼んでいるのだが、氷見線のイメージアップに一役買っている。
この路線、高岡の市街地を抜けると富山湾に面した工場群に出る。能町にはかつてコンテナ基地があり、北前船の寄港地でもあった伏木は現在も物流の拠点である。夏季にはウラジオストク向けの定期航路も就航しており、私としては機会があればこのルートで大陸に渡ってみたいという気持ちがある。その伏木から越中国分にかけてはかつての越中国府のあったところで、大伴家持も赴任したところ。それがゆえに万葉集ゆかりの地でもある。古い町並みも残る。
そして路線のハイライトが、越中国分を過ぎてからの氷見の海。雨晴海岸である。ただこの日はどんよりと重い雲が垂れ込めており、波はそれほど高くないものの暗い色をしている。旅行前の計画では雨晴で途中下車して海岸に佇む、などということも可能性として考えていたが、この車窓を見て早々とあきらめる。逆に雨晴で下車していったカップルがいたが、彼らはこの後どのように時間を過ごしたのだろうか。
終点氷見に到着。30分足らずの時間であるがさまざまな車窓を見せてくれる氷見線は私のお気に入りの路線の一つである。それが新幹線の開業とともに廃止になるのは、いかに経営の効率化といっても残念な話である。地元の人たち全てが新幹線の恩恵を受けるわけではないのにな・・・・。
やってきたツアー客は記念撮影をすると駅前に待機していた観光バスに乗り込んでいく。おそらく氷見の温泉旅館に行って今晩は氷見の魚三昧であろう。同じく移動するならローカル線にもちょっと乗って・・・いや、客を呼び込むのは上手いなと思う。まあこういう方たちからも氷見線廃止反対の声を挙げていただければ強力な助っ人になるかな。
さて私はといえば、ここから徒歩10分ほどの町の中心部の商店街の中にあるビジネスホテル「信貴館」がこの日の寝床である。当初は3~4キロほど離れたところに新しくできた「ホテルグランディア」にしようかと思ったが、ホテルの宿泊プランや行程などをいろいろ考えるに、前者のほうが適しているかなということで予約したのだ。
ともあれ、雪の残る中を中心部に向けて歩くことにする・・・・。(続く)